立命館大学伝説のQB東野稔さん、元監督・米倉輝さんが語った関西大学戦の見どころ
関西学生アメリカンフットボールリーグ1部(第4節終了時点)
関西学院大学 4勝0敗
立命館大学 4勝0敗
関西大学 4勝0敗
近畿大学 3勝1敗
神戸大学 1勝3敗
京都大学 0勝4敗
甲南大学 0勝4敗
同志社大学 0勝4敗
アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は、第5節から全勝校同士の対戦が始まる。10月30日にはまず、立命館大学パンサーズと関西大学カイザーズがヨドコウ桜スタジアム(大阪)で相まみえる。その大一番を前に10月15日、オンラインで開かれた「オール立命館校友の集い2022」の中で、関大戦の見どころなどを語る企画があった。
まずは1994年の名勝負を振り返り
企画のタイトルは「アメリカンフットボール部パンサーズ覇権奪還に向けたキー~伝説の名QB東野稔と元監督米倉輝が語り尽くす~」。1994年に立命館が初めて甲子園ボウルに出場した際に2年生のエースQBだった東野(とうの)稔さん(48)と、現役時はOLで、2010、15年に母校立命館を甲子園ボウル制覇に導いた元監督の米倉輝さん(51)が、約1時間半にわたって語り合った。
まずは1994年に関西学生リーグ1部初制覇を決めた関西学院大学戦の振り返りから。当時のテレビ映像から得点シーンを中心に流しながら語っていった。ついに立命館が歴史的な瞬間を迎えるのか、関学がはね返すのか。大阪の長居球技場(現・ヨドコウ桜スタジアム)を観衆が埋めた。当時は「5回生」でコーチをしていた米倉さんは「テンション上がりすぎたわ。よく東野は冷静にやれたね」。東野さんは「2回生というのもあって気楽にやらせてもらいました」と笑った。
立命館ディフェンスの37番が映ると映像を止め、米倉さんが「現監督の藤田直孝です。小柄ながら知性あふれるプレーヤーで、すごく先回りするシュアなLBやったのを覚えてます」。東野さんも「映像を見てても、いいポジションに入ってタックルされてますもんね」と返した。39番のRBが走ると、米倉さんが「横川(好治)ですね。息子さん(豪士)も39番をつけて、いま4回生のRBです」。東野さんは「走り方も似てますね」と話した。
川上さんが教えてくれた4年生の覚悟
第2クオーター(Q)、3-0とリードする立命がタッチダウン(TD)を決める。右へのリバースをフェイクして、左でアウトパターンを走ったWR芝原譲(当時3年)へのTDパス。「ビビってボールを置きにいってますね」と東野さんが28年前の自分を苦笑いで評した。
第4Q、関学に10-13と逆転される。サイドラインにいたオフェンスメンバーはどんな思いだったかという話になり、米倉さんが「川上が『自分らのやることに集中しろ』って言ってたよね」と東野さんに問いかけた。「そうです。川上さんが『自分たちの仕事をしよう』と。そういうことを言い始めたのは、この年からでしたね」。川上とは当時4年生のQBだった川上隆。投げてよし、走ってよしの東野さんが入学してきて、控えに回っていた。「川上さんが試合中に非常に的確な声をかけてくれました。精神的に安定できたのは、川上さんのおかげです。あれはほんとに心強かった。シーズンを通じて、非常にありがたかった」と東野さんが感慨深げに話した。
試合残り2分半となって、起死回生のパスが決まった。立命自陣34ydからの第3ダウン残り2yd、ボールは右ハッシュ。右プロIフォーメーションから、右WRの下川真司(当時3年)が左へモーション。プレーが始まる。下川が左のサイドライン近くを走り、左SEの芝原がポストへ。相手SFと1対1になった芝原がタテへ抜け、そこへ東野さんがピンポイントのパス。約60yd前進し、3プレー続けてのランで、最後はRB中野貴裕が逆転TDを決めた。1分37秒が残ったが、「アニマルリッツ」と呼ばれたディフェンス陣が守り切った。
「左にハーフロールしてのポストジェットでしたね。関学の久乗(くのり)さんがブリッツに入ってきて、うしろが1対1になった。QBとしては、タイミングよくボールを離せば勝てる。勝ちパターンです。前半に逆サイドで同じプレ-をして、僕はジェットに投げたんですけど、コーチから『ポストがあいてたから、後半にもう一回やろう』と言われてたプレーでした。芝原さんは試合になると足が速くなるんですよね(笑)。勢いが出たのか、ランプレーを続けて逆転できました」。東野さんがそう振り返った。米倉さんは「この試合でコーチをやろうと思ったので、私の人生を変えた試合でした」と話した。
練習の離合集散が変わってきた
そして今シーズンの立命の戦いぶりをハイライト映像でチェック。関大と関学の戦いぶりも見て、10月30日の関大戦の見どころへと話が移った。
米倉さんは現在、チームのゼネラルマネージャーで、指導にはタッチしていない。「2週間に1回は練習を見に行くんですけど、最近は離合集散のスピードが上がってます。春はダラッとしてたんですけど、練習で自分の番が来て、フィールドに入っていくときの勢いが全然違ってきてます。すごく楽しみだと思いました。伊佐(真輝)君と坪倉(拓未)君の2人のキャプテンが、すごくいいリーダーシップを発揮してます」と米倉さん。
東野さんはQB陣についてこう評した。「(エースの)庭山(大空)君は非常に安定感があるので、コーチとしてはゲームプランが立てやすいでしょうね。自分が持って走ると、ノッてくるタイプだと思います。ディフェンスのシステムを壊すという意味ではスクランブルは脅威です。躊躇(ちゅうちょ)せずにクオーターバッキングしていけば、勝てる展開に持っていけると思ってます」。庭山と同じ3年生の宇野瑛祐については、「控えに回っていますが、去年の関大戦を見ても、1プレーで流れを引き寄せられるプレーができる。これはすごい強みなので、スポットで彼が出てきてビッグプレーができると面白いんじゃないかと見てます」と語った。
米倉さんは「1年生の竹田(剛)君も能力が高いので、チェンジアップで使ってくるかも分からへんね」。東野さんは「私はスポットで出て行くのがあんまり好きじゃなかったんですけど、いまの子は違うみたいですね。3人のQBがそれぞれ仕事できると、すごく面白いオフェンスができる期待が持てますね」と返した。
米倉さんはTEの2人に注目
QBを支えるメンバーも充実している、と米倉さん。WRは主将の伊佐に2年生の大野光貴、1年生の木下亮介、仙石大と能力の高い面々が競り合う。RBでは4年生の平松的の走りに迷いがなくなってきたのが大きい。とにかく速い。2年生の山嵜大央は人に強くて独走能力もある。4年生の元古耀介、横川豪士もいてリーグトップレベル。OLも一定以上にサイズがあって非常に楽しみだという。
あえて言うと、と語ったのはTE陣についてだ。「3年生の蓑崎(航大)君と山下(憂)君ですね。なかなかスポットライトが当たらないんですけど、僕は注目してます。関大、関学との戦いではTEの頑張りがオフェンスの成否に直結するところがありますから」
ディフェンスについて、米倉さんは「DLは強いと思います」。水谷蓮、泉恭輔の中2枚、エンドには廣谷恭也、松本康佑、太田郁也といて、「シンプルにすごく強い」と米倉さん。LBには藤本凱風に主将の坪倉。「DLの中2枚が強いから、LBがしっかり見られるのもあると思う。DL、LBの6人でのランストップは相当期待できるんじゃないかと思ってます。関大はシンプルな5番(柳井竜太朗)、6番(一針拓斗)のランでくるだろうから、この6人対関大のランが、まず一番大きな勝負になってくる」と、米倉さんは力をこめた。
LB藤本については、サイドラインからも的確な声を出して3年生ながらリーダーシップを発揮している点を評価。身長163cmの坪倉については、サイズに恵まれず身体能力もそう高くない中での活躍は、いろんな人に勇気を与えているんじゃないかと語った。東野さんも坪倉について「プレーを読むのが得意で、去年の関学戦でのインターセプトといい、ボールのあるところにいつもいますね。いいLBだと思います」と評した。
東野さんは「選手たちが思い切ったプレーをやってくれると信じてます。やってきたことを積み上げて爆発させてくれるのを期待します」と後輩たちにエール。最後に視聴者からの応援メッセージもあり、パンサーズOBで立命館宇治中学校のコーチを務める近江永郎さんは「今年の4回生には中3のときに全国優勝したメンバーがいます。伊佐君、平松君、DBの西田(健人)君やほかにもたくさんの子がたくましく成長してチームを引っ張ってるのを見て、なんとか今年は優勝してほしいなと思ってます」と話していた。