アメフト

カンイチから立命館大へ進んだDL水谷天空、かつての仲間たちに立ちはだかる

教育実習のために戦列を離れ、本格的に復帰した近畿大戦で躍動する立命館大のDL水谷天空(95番、撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は第5節から3強同士の対決が始まる。まずは10月14日、たけびしスタジアム京都で4戦全勝の立命館大学パンサーズと3勝1敗で全日本大学選手権出場へ後がない関西大学カイザーズがぶつかる。立命館大のDL(ディフェンスライン)には、この対決を特別な思いで待つ男がいる。4年生の水谷天空(そら)は、関大の併設校で約90%の生徒が関大に進学する関西大学第一高校(通称・カンイチ)の出身なのだ。

「4年間で成長した姿を見せたい」

第3節の9月21日、立命館は前節で関大を破った近畿大学と対戦した。水谷はDLとしてローテーションで出場。出番に飢えていた4回生は身長183cm、体重107kgの体で相手OL(オフェンスライン)の壁を突き破り、獰猛(どうもう)にボールキャリアーを追いかけた。続く9月29日の神戸大学戦ではQBサックも決めた。

4歳から取り組んできたフットボールを日本中に広めたいという思いがある(撮影・篠原大輔)

関大との対戦を前に、水谷は「一番大きいのは感謝の気持ちです。立命館に行きたいという話をしたときに、先生方や同級生のみんなも後押ししてくれました。この4年間でしっかり成長した姿を見せられたらいいなと思います」と話している。

東海学生リーグの日本福祉大学でアメフト部だった父や、高槻高(大阪)と立命館大でDLとして活躍し、いまX1SUPERの富士通でプレーする兄の蓮さんの影響で、水谷は早くも4歳からフットボールを始めた。関大一高時代にはU18の日本代表に選ばれ、副キャプテンを務めた。そして進路を考える時期になり、当時のアメフト部顧問だった磯和雅敏さん(現・関大監督)水村龍哉さん(現・関大一高監督)らに立命へ行きたいと伝えた。

兄の蓮さん(右)とは2年間一緒にパンサーズで過ごした。同じDLだけに、いまもさまざまなアドバイスをくれる(撮影・篠原大輔)

「体育の先生になる」目標に向かって

水谷には将来、体育の先生になるという目標があった。担任としても関わった水村先生の人柄、アメフトへの情熱、時間のかけ方、すべてにおいて尊敬していて、「水村先生のような先生になりたい」と思うようになった。周りの大半の仲間と一緒に関西大学に進んで体育の教員免許を取得するとなると、堺キャンパスにある人間健康学部で学ばなければならない。アメフト部の拠点である千里山キャンパスまでは大学のシャトルバスが出ているが、60~90分もかかる。練習にフルで参加できない日も出てくる。「しっかりアメフトも将来の夢にも取り組みたかった」と水谷。

パンサーズディフェンスの最前線でプレー直前に神経を研ぎ澄ませる(撮影・北川直樹)

関大でなければ立命館しかなかった。2学年上の兄は、すでにパンサーズで活躍し始めていた。「誰よりもフットボールに対する取り組み方がすごい。兄に近くで教えてほしいと思いました」。そしてDLのコーチングに定評のある古橋由一郎監督(現・近大ヘッドコーチ)の存在も大きかった。「学生最強のDLの一員としてプレーしたかった」

関大一高の磯和先生や水村先生、そして須田啓太(現・関大キャプテン)らのチームメイトに進学に関する思いを伝えると、最終的には温かく背中を押してくれた。そして立命館大のスポーツ健康科学部へ進んだ。この学部はアメフト部の拠点と同じびわこ・くさつキャンパスにある。

いつかは体育の先生としてカンイチに戻りたいと思っている(撮影・篠原大輔)

教育実習での大きな気づき

今年9月初旬からの2週間、水谷は関大一高で教育実習をした。母校の先生方は優しかった。大学の練習に参加できない間に体力が落ちないようにと、授業準備の部分は前倒しで夏休みに対応してくれた。だから実習の間の放課後は事務作業をしなくてよくなり、自分でトレーニングしたり、一高のアメフト部の練習で高校生と一緒に走らせてもらったりした。

教育実習では大きな気づきがあった。「40人のクラスを担当したんですけど、全員に1回で自分の思いを伝えることの難しさ、端的に伝えることの難しさを痛感しました」。うまく言いたいことが伝わらないとき、生徒たちが自主的に動いてくれたり、助け舟を出してくれたりした。「そういうのがすごく助かったので、チームに戻ってからは監督の(高橋)健太郎さんやコーチの方の思っていることが伝わるようなサポートを意識してやってます」

高校時代に憧れたパンサーズのDLとして最後のシーズンを生き抜く(撮影・北川直樹)

親友の須田啓太に「プレッシャーをかけ続けたい」

10月14日には、すべてをかけて向かってくる関大を敵に回す。立命のディフェンスにとって、相手のエースQB須田を気持ちよくプレーさせないことが何より重要になってくる。水谷にとって須田は親友だ。

「立命に行くときも『一緒に頑張ろうな』と送り出してくれましたし、大学に入ってから僕が悩んだとき相談に乗ってくれました」。ただ、今回ばかりはそんな気持ちはフィールドの外に置く。「須田君は技術どうこうより、思いきりのよさと負けん気の強さがすごい。僕はスタートにかけて、OLとの勝負に勝って、須田君に1試合を通じてプレッシャーをかけ続けたいです」

大好きなパンサーズの4回生として、かつてのチームメイトの前に立ちはだかるつもりだ。

3年生QBの竹田剛と一緒に日々トレーニングする。「彼は人なつっこいんです。しんどい日も励まし合ってやってます」(撮影・篠原大輔)

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