最初の関門で強さ示した個性派集団、そろい始めたベクトル 立命館大学パンサーズ
アメリカンフットボールの関西学生リーグは9月28、29日に折り返しの第4節を迎える。第2節で近畿大学が関西大学を35-31で下すアップセット。立命館大学パンサーズは21日、第3節の近大戦を今シーズン初のビッグゲームととらえて準備し、59-7で退けた。山嵜大央キャプテン(だいち、4年、大産大附)を筆頭とする個性派集団が、高橋健太郎新監督の下で2015年以来の甲子園ボウル出場・制覇へ力を高めている姿を示した。
近畿大学との「師弟対決」
立命館と近大の対戦は高橋監督と古橋由一郎ヘッドコーチ(HC)兼ディフェンスコーディネーター(DC)の師弟対決としても注目を集めた。かつて監督やHCとしてパンサーズを率い、甲子園ボウル3連覇にも導いた古橋さんが今年から近大へ。高橋さんは古橋監督の下で2003年度にキャプテンとしてライスボウル2連覇を達成した。試合の約1時間前には「古橋チルドレン」に当たる立命館の指導者陣が近大サイドへあいさつに訪れ、高橋監督は恩師に「お手柔らかにお願いします」と話したそうだ。
試合前練習ではこの日から戦列に復帰する副キャプテンのOL(オフェンスライン)森本恵翔(4年、初芝橋本)が声を張り上げ、士気を高める姿が目を引いた。試合直前には山嵜キャプテンを中心に選手たちが幾重もの輪になって気合を高める「Whose House? Rits House!」をやった。例年リーグ戦後半からのビッグゲーム前にしかやらない「儀式」で心を最高潮に盛り上げ、近大戦に臨んだ。
QB竹田剛「俺がやらかしたら負ける」
まずはディフェンスから。最初のパスこそ決められたが、その攻撃権更新だけにとどめた。珍しく序盤からLB(ラインバッカー)陣のブリッツで仕掛ける。2プレー目の中央ランプレーはフリーになったDL津乗諒輔(3年、大産大附)がタックル。関大戦で147ydを走って二つのタッチダウン(TD)を決めた近大RB島田隼輔(4年、近畿大附)を仕留め、津乗は右腕を突き上げた。立命館の速さ、強さを見せつける立ち上がりになった。
自陣20ydからの最初のオフェンスも圧巻。右のナンバーツーレシーバーからコーナールートを走ったWR大野光貴(4年、立命館守山)へ、QB竹田剛(ごう、3年、大産大附)が25ydのパスをヒット。OL陣のパスプロテクションも完璧だった。第3ダウン残り8ydとり、ランプレーのフェイクから左へ出た竹田が右腕を振り抜く。エンドゾーン付近へ走り込んでいた大野が相手のマークをかわし、少し戻ってキャッチ。46ydのゲインでゴール前へ。
竹田が言う。「関大は近大戦で(QBの)須田啓太がちょっとミスしたじゃないですか。だから『俺がやらかしたら負ける』と思って練習してきました。あのロングパスは自分で走ろうかと思ってインカットを踏んだときに『大野光貴を信じて投げよう』と思って。隊形的に1対1になるのは分かってたし。あの人なら絶対に負けんやろうと思って投げました」。フルネームで言うのが竹田流だ。捕った大野は「ボールはよくなかったんですけど、自分がカバーする気持ちでした。あそこで捕れば、(竹田)剛が試合を通じて気持ちよく投げられる。カバーできてよかったです」。エースらしい言葉だった。
あとはRBの山嵜に3連続で持たせて先制TD。7-0とした。続くディフェンスでもどんどん仕掛け、近大のQB勝見朋征(4年、近畿大附)を追い詰めていく。LB酒井大輝(3年、長浜北)のQBサックもあり、攻撃権更新を許さなかった。オフェンスは2シリーズ目もOL陣が怒濤(どとう)のブロックで山嵜を走らせ、4プレー目にRB蓑部雄望(2年、佼成学園)への左スクリーンパスでTD。蓑部は左サイドライン際で3人のタックルをかわした。とくに最後の内側へのジャンプカットの鋭さは、彼の充実ぶりをアピールするに十分なものだった。
3度目のディフェンスも相手に攻撃権更新を許さない。そして竹田が大野へファーストプレーと同じパターンで27ydのパスをヒット。右へのスクリーンパスから山嵜がこれまた3人のタックルをかわしてエンドゾーンへ駆け込み、TD。21-0とし、早くも大勢は決した。42-0で試合を折り返した立命館はレギュラー陣を少しずつ下げ、控えの選手たちに経験を積ませながら、59-7と圧勝。近大がはなから勝負に来なかったと見る向きもあるが、まったくそんなことはない。ただただパンサーズが強かった。
「アニマルリッツ」に近づきつつある
高橋監督は試合後、こう語った。「ゲームコンセプトとしてスタートを大事にしようということは全員に伝えてました。日ごろの練習からスタートにこだわってやっていたので、今日は全員が意識して入れたと思います。いまの4回生が1回生のときに古橋さんがヘッドコーチでしたから、彼らは古橋さんがつくってる近大さんの成長度にすごく刺激を受けてました。自分たちとやるときにどんなチームになってるか分からないということで、4回生中心にチームの緊張感を高めてくれたんじゃないかと思います。僕が監督という立場になって、選手たちに何を伝えたらいいのかと迷う瞬間があるんですけど、そんなときは古橋さんが僕らにしてくれたことが頭をよぎります。だからいまもリスペクトはしてますけど、僕はパンサーズの部員たちの人生を背負っているので、徹底的に準備して臨みました」。いつもは淡々と振り返る高橋監督だが、この日は少し熱がこもった。
キャプテンの山嵜は試合後のあいさつで近大の大西勇樹キャプテンとすれ違うとき、「(全日本大学選手権の)トーナメントに上がってこいよ。もう一回やろう」と伝えたそうだ。大産大附高の同期で、ともに刺激し合ってきた間柄。キャプテン同士での最初の対決は山嵜のものだった。「2週間前に関大が負けるのを目の前で見て、しっかり準備した結果を近大相手に出せた。いまはチームとして上がり続けてるけど、波はあると思ってます。ちょっと落ちたとしても、また一気に上げられるようなチーム作りをしていきたいです。(高橋)健太郎さんが来て、パンサーズ自体がすごく変わった。健太郎さんの現役時代のパンサーズに近づいてると思います」。確かに近大戦の戦いぶりは、1990年代から2000年代にかけて「アニマルリッツ」と評されたチームを思い起こさせるものだった。
高橋健太郎監督「いろんな思いのベクトルがそろってきてる」
近大戦で何度もナイスタックルを決めた副キャプテンの大谷昂希(4年、大産大附)は「DLがすごい奮闘してくれました。相手のOLを前で押さえ込んでくれたんで、僕らLBは自由に動けた」と振り返った。個性的なメンバーが多いチームにあって、大谷は冷静さの塊のような男だ。「(キャプテンの)ダイチと(副キャプテンの)森本はズバッとしっかり言ってくれて、チームをどんどん前に引っ張ってくれます。ただ二人とも誰よりもすぐアツくなるので、そこを抑えるというか、冷静さを常に意識してチームをまとめるようにしてます。ミスやできないことを指摘されてる選手がいたら、僕は違うアプローチをしたり、論理的というか、『なんでそうせなアカンのか』ということを根本的に教えてあげたりする。そういうのは僕なりにできることかなと思ってます」
高橋監督は「いろんな思いのベクトルがそろってきてる」と感じている。「ダイチの熱量であり、森本恵翔の熱量であり、大谷昂希のクレバーなサポートであり。そういったところがうまく同じ方向に近づいてきてるので、すごく力を感じてます。ただ個性が強すぎるので、バラバラになるのも簡単です。そこは僕がマネージしないといけないと思ってます」
立命館は関西学院大学とともに開幕3連勝で、29日に神戸大学と戦う。個性派集団はこのまま同じ方向へ走り続けられるのか。もしそれができれば、最強の集団になれる可能性がある。その先には9年ぶりの甲子園ボウル制覇が見えてくる。