関西のアメフトファン待望の甲子園決戦なるか、京阪神の国立対決も注目 関西1部開幕
2024年の関西学生アメリカンフットボールリーグ1部は9月2日に開幕を迎える。昨年は6勝1敗で関西学院大学、立命館大学、関西大学の3校が同率優勝し、抽選で「1位相当」を引いた関学が全日本大学選手権へ進み、史上初の甲子園ボウル6連覇を達成した。今年から再び関西の上位3校が選手権へ進めることになった。そして史上初めて、決勝の甲子園ボウルで関西勢同士が対戦する可能性ができた。関西のフットボールファンの長年の夢が実現するのか。また38年ぶりに大阪大学が1部に復帰し、京都大学、神戸大学とともに関西を代表する三つの国立大学がそろったのも興味深い。
頭一つ出ている関西学院大学
甲子園ボウル7連覇を狙う関学が現状では頭一つ出ている。1年生の秋シーズン途中からエースQBとして経験を積み、昨年の甲子園ボウルで最優秀選手に輝いた星野秀太(3年、足立学園)はこの春、アメリカ遠征の南オレゴン大学戦にのみ出場した。24-54と大敗した中でも19回中13回のパスを決め、233ydのゲイン。選手同士で考えたプレーも実り、自信をつけた。春のシーズンでQBの2番手まで浮上したのが、星野の弟でルーキーの太吾(足立学園)だ。最短時間で大学とのレベル差を理解し、6月の立命館大戦(24-24)にはフル出場。大きなミスなくオフェンスを率いた。大村和輝監督はリーグ戦初戦の先発QBについて、「弟も十分いける。パスの判断がかなりよくなったし、実戦になると個人技を発揮するタイプで、去年のお兄ちゃんのように初戦からパーンといく可能性はある」と話している。
パスの受け手のWRでは昨秋の京都大戦で大けがを負った小段天響(2年、大産大附)の戦列復帰が大きい。学生最強の呼び声が高い近藤剣之介(4年、佼成学園)らOL(オフェンスライン)陣の練り上げてきたブロックがランプレーを支える。この春は4年生RBの澤井尋(関西学院)が相手のタックルをはじいて走るシーンが増え、一つ上のステージに達した感がある。昨年のラッシング部門リーグ2位だった伊丹翔栄(4年、追手門学院)とともに地上戦のカギを握る。
ディフェンスでは卒業生の穴が大きいとみられていたDLで八木駿太朗(2年、花巻東)や田中志門(1年、追手門学院)ら若い力が台頭し、メドが立った。第2列のLBにはキャプテンで1年生の春からずっとスターターの永井励(4年、関西大倉)がいて、ディフェンスを引っ張る。春の関西大戦(17-15)と立命館大戦ではパスディフェンスのもろさが露呈した。昨年リーグ戦で7インターセプトのDB中野遼司(4年、関西学院)が中心となり、秋へ向けて仕上げてきた。
立命館大学は新体制で挑む
2015年を最後に甲子園ボウルから遠ざかる立命館大は今年1月、2003年度のキャプテンでパンサーズ黄金時代のDBだった高橋健太郎さんを監督に迎えた。また同時期にOBの山口慶人さんがオフェンスコーディネーター兼QBコーチとして加わった。冬から春にかけ、山口コーチはつきっきりでエースQB竹田剛(3年、大産大附)のスローイング修正を図ってきた。大型QBの竹田は思いきって投げ込むロングパスは得意でも、クイックに投げるショートパスが苦手だった。しかし新たな取り組みの成果で、この春は短いパスも面白いように決まった。もともと副キャプテンの森本恵翔(4年、初芝橋本)ら山脈のように大きなOL陣と、昨年のリーディングラッシャーであるキャプテンの山嵜大央(4年、大産大附)や蓑部雄望(2年、佼成学園)らのRB陣によるランには定評がある。打倒関学への武器がそろってきた。ディフェンスでは副キャプテンのLB大谷昂希(4年、大産大附)がベストタックラーだ。
関西大学のエースQBは主将、須田啓太のラストイヤー
関西大は昨年のリーグ戦で立命館大に敗れたあと、最終戦で16-13と関学を下したが、2009年以来となる甲子園ボウル出場への道は断たれた。「今年こそ」の思いを誰よりも強く持っているのが、1年生からオフェンスを支えてきたエースQBの須田啓太(4年、関大一)だ。昨年の年間最優秀選手賞(チャック・ミルズ杯)を受けた男は、キャプテンとしてラストイヤーを迎えた。2年生までは奔放なランが彼の魅力だったが、動きながら投げられるようになると、爆発的な走りが影を潜めた。本人はそこを今年の課題に挙げており、再びフィールドを駆け回る姿が見られそうだ。パスの受け手ではこの春で完全にエース格となった副キャプテンのWR岡本圭介(4年、関大一)が頼もしく、2年前のリーディングレシーバーであるWR溝口駿斗(4年、滝川)がアメリカ留学から帰国。意外性のあるプレーでリーグ戦を盛り上げてくれそうだ。
主力が抜け、再建を図る京都大学
昨年4勝3敗の京都大は絶対的なエースQBだった泉岳斗やDLの渋谷力をはじめ、下級生のころから試合に出てきたメンバーがごっそり抜けた。この春は新たなメンバーに経験を積ませるべく積極的に試合を組んだが、全敗に終わった。再建のシーズンに奮起が求められるのは、キャプテンで2年連続キャッチ数リーグ2位の上田大希(4年、須磨学園)や杉浦洸(4年、大阪桐蔭)ら比較的経験豊富なレシーバー陣だ。新たにエースQBとなった浦田紘佑(3年、岡崎)をもり立てたい。開幕カードとなる9月2日の近畿大戦の戦いぶりが、今シーズンを左右しそうだ。
古橋イズムが浸透しつつある近畿大学
近畿大は今年、かつて立命館大を率いて甲子園ボウル3連覇を達成した古橋由一郎さんをヘッドコーチに迎えた。ディフェンスコーディネーターも兼任する。就任当初は教えたサインも覚えてこない選手たちに閉口したそうだが、徐々に彼らの意識の持ち方も変わってきた。QB勝見朋征(4年、近畿大附)は昨年よりショートパスの精度が上がり、何よりオフェンスを引っ張る気概が表に出てくるようになった。今年も小林洋也(2年、大産大附)との併用になりそうだが、スタンダードは上がった感がある。キャプテンの大西勇樹(4年、大産大附)らのOL陣が激しいブロックで、高校時代からのコンビであるRB島田隼輔、清水悠太(ともに4年、近畿大附)らを走らせたい。
神戸大学「私生活から全部きっちり」
昨年の神戸大は「3強」相手に後半まで粘る戦いぶりを見せたが、京都大と近畿大にも敗れた。矢野川源監督は「(戦術面で)奇をてらったことで何となくできてるつもりになって、遂行しきれないところが勝ちきれなかった要因だと思ってます。今年は私生活から全部きっちりやる。100点を取ろうということでやってます」と話す。この春はキャプテンのDL丸山碧澄(4年、豊中)の存在感が光った。ディフェンスの最前線で暴れ、OLのブロックを打ち破ってプレーを壊す。オフェンスではエースRBの長尾涼平(4年、茅ケ崎北陵)が鋭い走りを見せる。独走できるスピードはそのままに、当たりも強くなった。キッカーも務める。WRは岡田堂生(4年、星陵)、森原隼也(4年、大阪府立池田)、福井奨太(3年、豊中)とタレントぞろい。生かすも殺すもQBの榮大志(4年、清教学園)のプレー次第だ。
大阪大学は38年ぶりの1部で挑戦
38年ぶりの1部復帰となる大阪大はチームのベストアスリートであるWR朝木陽生(4年、豊中)がオフェンスを引っ張る。昨シーズンから要所で流れを変えるパスキャッチを繰り返してきた。新たにエースとなる2年生QBの立石航大(2年、高槻)が成長し、朝木を生かせる形が整った。キャプテンの元木怜達(4年、関西大倉)らOL陣は大きくはないが、審判の笛が鳴り終わるまで泥臭くブロックする。4年生RBコンビの吉川幸緒(一条)と遠藤嘉偉(六甲学院)が集大成の走りを見せられるか。ディフェンスの最前線ではモンゴルからの留学生であるDLウルジーデルゲル アンガラグ(3年、National 115th School)が暴れる。キッカーのできる選手が何人もいるのが面白い。「京大や神戸大のように『アメフトがしたいから阪大に行く』と言われるようになりたい」と元木。格上の相手にも諦めることなく挑み続け、そんなインパクトを残すシーズンにできるか。
3年ぶり1部の桃山学院大学は泥臭く戦う
桃山学院大は3年ぶりに1部で戦う。昨年まで4年間ずっとオフェンスを支えたQBの木村道正が抜け、井上遼祐(3年、宝塚東)がエースQBの座を受け継いだ。山口隼輝(2年、大院大高)とともに、1部のディフェンスに圧力を受けても粘り強くプレーし続けたい。高校時代はOL兼LBとして大活躍したルーキーの竹原太一(大産大附)はDLとして、春から強いヒットをぶちかましていた。キャプテンのLB岡田吉城(4年、立教新座)は身長165cmと小さいが、1年生のときからひたむきに泥臭いプレーを積み重ねてきた。大学ラストイヤーにどんな背中を仲間たちに見せるのか。
11月10日の関立戦まで7節28試合。フットボールにかける大学生たちの生きざまを、この目に焼き付けたい。