立命館・山嵜大央主将 生まれ変わった「一匹狼」、チームを見渡せるリーダーに成長
立命館大学アメリカンフットボール部パンサーズで主将を務める山嵜大央(4年、大産大附)は、これまでの3年間とは全く異なる覚悟でラストシーズンに挑んでいる。山嵜は、下級生時から立命のラン攻撃を支えてきた。昨年はリーグのラッシング1位(87回608yds9TD)を記録し、名実ともに関西を代表するランナーになった。ラストイヤーを迎える今年は、プレーヤーとしてのみならず、リーダーシップでパンサーズを日本一にするべく、チームの屋台骨となる覚悟を決めている。
人生の師・ショウエイさんとの別れ 価値観に変化
山嵜が主将になることを聞き、驚いた。これまでの3年間見てきた彼の振る舞いは、どちらかというと一匹狼(おおかみ)。自らの取り組みにフォーカスするタイプで、リーダーとは対極のキャラクターだったからだ。高校3年以来、約4年ぶりに彼を書くことを決めた。
一体どんな変化があったのか。聞くと、山嵜の価値観と考えが変わったのは、昨年秋の関西学院大学戦の敗北後だという。最大の試練は、その後に訪れた長谷川昌泳コーチ(昨秋で立命館大を退任し現・大産大附高監督)との別れだった。
「シーズンが終わってから一度、ショウエイさんにご飯に連れて行ってもらいました。そこで、ショウエイさんが『勝ちたかった』と涙を流していて。僕もその時、一緒に泣きました。僕もショウエイさんも、ほんまに試練が多い人間やなと。高校のときはクリスマスボウル直前でけがしたり、去年の関学戦のファンブル。ショウエイさんともお別れして。これもまあ運命かなと思ってます」
神様から与えられた試練——。
山嵜は、シーズン終了後に自分自身と真剣に向き合った。そして、主将としてチームを変える覚悟を持ち始めた。
「ショウエイさんは多分、僕がキャプテンをやるやろと思ってチームを離れたと思うんです。僕もショウエイさんも産大高校の絆(長谷川コーチも大産大附卒)で強くつながってるんで、寂しさはあまりないですね」
人生の師と仰ぐ長谷川コーチからの独り立ちを、心に決めた。
投票“最下位”からの主将就任
「投票では候補の中で最下位だったんですが、話し合いの中で皆がついてきてくれるということになって、最終的には僕しかないって感じでやれることになりました」
経緯について山嵜は言う。大産大附のチームメートで、近畿大の主将になった大西勇樹からの影響も大きかった。2人は高校時代から仲が良く、練習後から終電まで一緒に筋トレをしていた時期もあったという。
「アイツが先に近大のキャプテンに決まって、僕にきっかけをくれた部分もありますね」。山嵜が屈託のない笑顔で話す。
「あと、ちょうど冬に『バガボンド』(井上雄彦の漫画)を読んでたんです。自分のことしか考えていない主人公が、感謝や謙虚さを学んで成長していくところが、いま自分の置かれてる状況とまさに同じやなと。キャプテンのマインドを作る上で、学びが多かったですね」
山嵜が主将を務めるのは、小学校時代に所属したチェスナットリーグのベンガルズ以来。まだ走り出して数カ月だが、自分のことはもちろん、それ以上にチーム全体を成長させることが重要な役割だと感じている。そのために自分は何ができるのか。試行錯誤の中にいる。
「去年のキャプテン、山下憂さんがどれだけ頑張っていたか、今になって気づきました。当時は、自分ばかりに意識が向いていて、周りに気を配ることができませんでした。正直、去年は後輩の名前も知らなかったですし」
山嵜は、主将の立場になって初めて自分以外のことを考えるようになったという。下級生とも積極的にコミュニケーションを取るようになった。
「最初は怖がられることもありましたが、話してみると楽しいですね」と笑う。これが山嵜自身の新しいモチベーションにもなり、チームの成長を支えている。
リーダーシップへの考えは早朝の練習にも表れている。9時開始の練習で、山嵜は誰よりも早く毎朝7時にグラウンドに出る。次に来るのはトレーナーやマネージャーといった裏方たちだ。
「遅く来る選手たちは、これを知らないんですよ。でも、それをみんなの前で言うのは嫌なので。QBとしてチームの中心になる竹田(剛、3年、大産大附)がそういうことをわからないと勝てないなと思って呼んでるんですけど、なかなか来ないですね(笑)。まあアイツも成長してるんで、アイツが変わったら、今年は日本一になれるんじゃないかと思っています」
チームを変えるために、プレーヤーとして背中で見せることの重要性も説く。誰よりも真摯(しんし)に、ひたむきにフットボールに取り組む姿勢を大事にしている。
ケンタロウさんとの新たなスタート
今春就任した高橋健太郎監督(04年卒)の指導スタイルに対しても、山嵜選手は強い共感を抱いている。高橋監督は就任時に、自分を呼ぶ際「『高橋監督』は(距離が)遠いわ、『ケンタロウさん』て呼んでほしい」と言ったという。こういったコミュニケーションによって、選手と監督の距離感は確実に縮まっている。
「ケンタロウさんが来て、僕が高校の時に憧れていた立命の雰囲気にすごく似ているなと感じました。産大高は厳しいんで、なかなか楽しむ余裕はないんですが。高2の春に立命の合宿に参加させてもらって、環境が良い中で自由なフットボールをして、はじめて楽しいって感じたんです」
思い返せば、山嵜はこの立命に憧れて入ってきた。しかし去年までは産大高時代の責任感や色が抜けずに、パンサーズに染まりきれなかったのだという。
「僕がキャプテンになって、ケンタロウさんも来て、自分がどうなりたいんか考えたときに、この春合宿のことを思い出したんです。去年は声も出しませんでしたが、今年はのどが潰れるくらい叫んでます」
自分がかつて憧れたようなパンサーズになり、勝つ。これが山嵜の目標だ。
立命は、自由に個性を生かしたときにこそ力
立命は6月9日、春としては23年ぶりに関学と対戦し、24-24で引き分けた。この日の感覚を山嵜は言う。
「会場全体を包む雰囲気が最高でした。アメフトを初めて見る人や、何も知らない子供たちが見るきっかけにもなったんじゃないですかね。盛り上がった試合ができれば、アメフトの普及にもつながりますし、ワクワクしますね」。これは、今までの山嵜では持てていなかった感覚だ。
去年までは、自分が走って勝たなければと考えるあまり、緊張していた。今年は主将で迎えたにもかかわらず、緊張せずに試合に臨むことができているという。
「自分以外の選手に期待できるようになったのが、一番大きな変化ですかね。RBなら、蓑部(雄望、2年、佼成学園)、新しく入った漆原(大晟、立命館宇治)らがやってくれると思ってるんで。やっぱり立命は、それぞれが、自由に個性を生かしたときにこそ力が出るチームだと思うんです。そういう面での一体感は、出てきてると思います」
これまでとは一味違った笑顔を見せる山嵜。主将として、2015年以来9年ぶりの日本一を目指す。