アメフト

立命館大・塚本直人 DLが暴れてこそのアニマルリッツ、関学オフェンスを破壊する

春の関学戦から。立命館のDL塚本(中央)は関学のOL巽(66番)を強く意識している(撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は11月10日に最終節の2試合(大阪・万博記念競技場)がある。リーグ最終戦は数々の激戦を繰り広げてきた関立戦だ。6戦全勝ですでに61度目の優勝を決めている関西学院大学ファイターズと、5勝1敗の立命館大学パンサーズがぶつかる。9日に関西大学が5勝2敗、近畿大学と神戸大学が4勝3敗でリーグ戦を終了。すでに全日本大学選手権進出を決めていた関学に加え、立命と関大が選手権に進むことになった。関立戦で立命館が勝てば関学と同率優勝で、関西1位の枠に入る。引き分ければ2位。負ければ関西大学と5勝2敗で並び、直接対決で敗れているため関西3位の枠になる。高校までレスリングと柔道に取り組んだDL(ディフェンスライン)の塚本直人(4年、京都・東山)は、初めてスターターとして迎える関立戦を前に「パワーでゴリ押しして勝ちたい」と話している。

高校時代は柔道とレスリングの二刀流

関立戦を前にした主力選手の記者会見で、塚本は「シンプルにめちゃめちゃ緊張してます」と切り出して笑った。身長180cm、体重129kgと堂々たる体で、DLの中でもNG(ノーズガード)と呼ばれるポジションを担う。ライン戦の真ん中で、主に相手OL(オフェンスライン)の真ん中の3人とぶつかり合う。「関学で僕のトイメンにいるのは巽選手か紅本選手か森永選手で、その中でも巽選手を意識して練習してきました。ファンダメンタルがすごいしっかりしてはって、アグレッシブなプレーをされるんで、すごい注意してますね。でも僕自身の調子もめちゃめちゃいいです。いままでで一番調子いいです。QBサックを決めたいです」。明るい。巨体に陽気が満ちているような男だ。

ライン戦のど真ん中が塚本の「戦場」だ(撮影・北川直樹)

京都市左京区にある私立男子校の東山高校では柔道部。100kg超級の選手だった。当時の部の顧問だった塩貝省吾先生(現・校長)に「レスリングやらんか?」と言われ、二刀流の日々が始まった。柔道の稽古がメインで、たまにレスリング。そして両方の大会に出た。柔道では内股、レスリングは首投げが得意技。「柔道をやってたんで、レスリングも組んでは投げる、組んでは投げるというスタイルでした」。高2の1月にあったレスリングの全国選抜大会・近畿予選ではフリースタイル125kg級で2位に食い込んだ。

大学では柔道をやるか、レスリングをやるか。ただオリンピック競技である柔道、レスリングの選手層の厚さは身をもって知っていた。それよりも中学時代に関立戦を現地観戦して以来、アメフトの炎が塚本の中で燃え続けていた。

関立戦前の記者会見で、誰よりもにこやかに話した(撮影・篠原大輔)

学生ラストイヤーでつかんだスターターの座

小学2年で柔道を始め、母が「興味あったら何でもやりや」と言ってくれたから、ラグビー、サッカー、水泳、ボクシングにも取り組んだ。母のいとこが立命館大学でアメフトをしていたこともあり、中2のときに関立戦を見に行った。でっかいスタジアムに大勢の観衆が集まってきて、チアリーダーもいる。すごい世界があると知った。「当たりの音が聞こえてきたり、ベンチにいる選手が声を出しまくってたり。いろんなことに驚かされて、僕もやりたいなと思いました」

スポーツ推薦で進学し、パンサーズの門をたたいた。実際にやってみると、ひたすらに面白いと感じた。「当たったときの頭がガーンってなる感じ(笑)。あれがちょっとクセになってもうて。とくに1対1の当たりが好きになりました」

OLのブロックを突き破ってタックル。塚本の理想とするプレーだ(撮影・北川直樹)

周りはほとんどがフットボール経験者。高校で活躍した選手もゴロゴロいる。そこで塚本は考えた。「小学生のときからアメフトをやってきた選手もいる中でどう戦っていくか。自分の強みは体の強さだと。それでウェイトトレーニングにはすごく力を入れました」。いまマックスの数値はベンチプレスが160kg、スクワットが260kg、パワークリーンが130kg。「BIG3」トータルの550kgはパンサーズでナンバーワンだ。

ただ、それだけでは通用しなかった。思えば昨年までは強さばかりを追い求め、DLのファンダメンタルをおろそかにしていた。この春から継続して基本的な動きの習得に努め、低い姿勢のまま動き続けていたレスリング時代の財産が、ようやく生き始めた。そして学生ラストイヤーにしてスターターの座をつかんだ。「学生スポーツは人生の中で限られた時間だけです。その最後の1年なので、小さいころからスポーツに取り組ませてくれたお母さんに恩返しできるように気持ちを込めてやってます」。本当に気持ちのいい男だ。

つらい走りものの練習でも、塚本は明るく周囲を鼓舞してきた(撮影・北川直樹)

厳しいことを言われるのは、期待の裏返し

就任1年目の高橋健太郎監督は塚本にはわざとキツく当たってきた。「ラインの選手は走り込みの練習は『これぐらいでええやろ』って感じでやる選手が多いんです。でも塚本はあの明るいキャラクターで『低く速くいくぞ!!』みたいな声かけをする。本来の立命の看板であるDLのスタンダードを上げてくれる選手だからこそ、ちょっと気を抜いてるなってときはボコボコに言ってきました。アイツならそれに応えてくれると確信しているからです。僕の顔も見たくないって時期もあったと思います。でも同期の水谷天空と二人で、しっかりやり抜いてくれました」

塚本は言う。「柔道の師範にいつも聞かされてたんです。『言われてるうちが華やぞ』って。厳しいことを言ってくれるからには期待されてるってのが自分の中に落とし込めてたんで、健太郎さんに何を言われても前向きにとらえてやってきました」

第5節で関大に負けた直後、塚本(中央右)は涙を流す水谷に声をかけた(撮影・篠原大輔)

「理想とした未来になってるのがうれしい」

パンサーズは2015年を最後に甲子園ボウルから遠ざかっている。この間待望されているのが「アニマルリッツ」の復活だ。1990年代に台頭し、強さを誇った2000年代の立命館は、個性にあふれた面々がフィールドで大暴れするディフェンス陣がチームを支え、「アニマルリッツ」と呼ばれていた。

塚本らDL陣は、春から「アニマルリッツ」の復活を見すえてきた。「僕が憧れたパンサーズって、DLがすごかったんです。古橋さんの有名なペップトークのころはもっとすごくて、相手のOLのブロッキングスキームをぐちゃぐちゃにしてた。中のDLってあんまり目立たないもんなんですけど、中の人もめっちゃ目立ってた。相手を破壊してたんで。今年のDLはそのときの迫力を取り戻すって言って春からやってきたんで、関学戦では激しさをもっと出していきたい。アサイメントうんぬんじゃなく、パワーでゴリ押しして勝ちたいっていうのが僕の気持ちです」

決して諦めることなく、ボールキャリアーを追う(撮影・北川直樹)

同期のメンバーについて、塚本は言う。「頼りがいしかないですね。いろんなキャラがいすぎて、おもろいぐらいにグチャグチャなんですけど、そのメンバーが同じものに向かって頑張ってるのを見て、俺もやらなあかんなと。(水谷)天空(そら)、(野村)彦(げん)、島岡(信介)とDLのヤツらもめっちゃアホなんですけど、メーターを振り切ってるみたいなヤツばっかりなんで、一緒にできるのが楽しいです」

中学時代に観戦した関立戦の舞台に、塚本直人が立つ。「夢の中で生きてるみたいな気分です。僕の理想としてた未来になってるのがうれしい」。一瞬でアメフトに憧れたあの日のスタジアム。その真ん中で、塚本が関学オフェンスに挑む。

腕が太い。すり傷が嫌だからと、アンダーシャツは長袖を折って着る(撮影・篠原大輔)

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