アメフト

手負いの関西大学が全勝の立命館大学を撃破、正念場で一体となり生き残ったカイザーズ

勝利が確定的となり、輪になる関西大学のオフェンス陣(7枚目以外はすべて撮影・篠原大輔)

2024関西学生アメリカンフットボールリーグ1部

10月14日@たけびしスタジアム京都
関西大(4勝1敗)24-13 立命館大(4勝1敗)
(第1クオーターから7-3、7-3、0-0、10-7)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部で10月14日、第2節で近畿大学に足をすくわれた関西大学カイザーズが4戦全勝の立命館大学パンサーズを24-13で下し、優勝戦線に踏みとどまった。過去4試合で平均57得点を誇っていた立命館オフェンスに一つのタッチダウン(TD)しか許さず、けがから3試合ぶりに戦列復帰したQB須田啓太キャプテン(4年、関大一)から4年生レシーバー陣へのパスが要所で決まった。

最初のオフェンスでTDを許さず

決戦前の記者会見で、関大の磯和雅敏監督は勝つための試合展開についてこう話していた。「点の取り合いになれば厳しい。ただロースコアゲームができるのかと言われれば、あの立命さんのハイパーオフェンスを抑え込むのも非常に厳しいと思っています。乱打戦にならないよう、ある程度のところで戦えればと思います」。その通りになった。まさに関大の土俵に立命館を引きずり込んでの快勝だった。

関大のQB須田はけがから復活する過程で、パスを投げ込むことの大切さを再認識したという

立命は今シーズンここまでの4試合はすべて、最初のオフェンスシリーズでRB山嵜大央キャプテン(4年、大産大附)が先取点となるTDを決め、チームを勢いづけてきた。この日の関大は、そうはさせなかった。

試合開始のキックオフ。関大は飛距離自慢のキッカー中井慎之祐(3年、関大高等部)が大きく蹴り込んでタッチバック。中井はこの日5度のキックオフすべてがタッチバックになった。自陣25ydから立命のオフェンス。RB山嵜のラン2回で攻撃権を更新したが、関大DL(ディフェンスライン)陣のスタートの鋭さが目についた。体重138kgのDL芦川真央(4年、大阪桐蔭)を1.5列目から突っ込ませてもいた。もう一度攻撃権を更新されたあと、フィールド中央からの第2ダウン残り3yd。芦川が立命OL(オフェンスライン)のブロックを一瞬ではじいて右へ素早く動き、RB漆原大晟(1年、立命館宇治)をタックル。漆原の体が軽々と放り投げられるような格好でノーゲイン。ほえながらガッツポーズする芦川の姿に、この一戦にかける関大の魂を見た。

続く第3ダウン3ydはパス。関大は両LB(ラインバッカー)をブリッツに入れて、後ろはマンツーマン。立命QB竹田は左からスラントで入ってきたWR仙石大(3年、立命館宇治)へ投げたが、関大DB(ディフェンスバック)日高義仁(3年、東海大大阪仰星)がしっかり付いていてパスをカット。今シーズン初めて立命は最初のオフェンスをパントで終えた。

1年かけてパスを磨いてきた立命館大QB竹田だったが、この日は迷いが見えた

「いける」と感じた最初のオフェンスでTD

関大の最初のオフェンスは自陣21ydから。いきなりTE(タイトエンド)凪亮佑(4年、星陵)へのスクリーンパスに出て、13ydのゲイン。このプレーが終わったとき、QBの須田は「これは、自分たちがやるべきことを信じてやりきれば戦える」という感覚を持ったという。自陣33ydからの第3ダウン10yd。関大は左に3人のレシーバーを出して、パス。立命はブリッツを入れずに、後ろはゾーンで構えた。須田はほとんどプレッシャーを受けず、ナンバーワンからタテに走った副キャプテンのWR岡本圭介(4年、関大一)へ投げた。岡本の走り込んだディープゾーンを守る立命のDB秦元輝(3年、関西大倉)がカットにいったが、目測を誤って頭を越され、パス成功で33ydのゲインだ。関大サイドの応援席が沸いた。この日はビッグプレーの期待もできる立命のDB藤岡昂汰(2年、箕面自由学園)が、前節のけがで欠場していた。

さらに関大はジリジリと進み、ゴール前13ydからの第3ダウン10yd。須田は近めにセットした左のナンバーワンから内に入ったWR溝口駿斗(4年、滝川)へ鋭いパスをヒット。溝口は昨年のアメリカ留学を機に鍛えた体で2人のタックルをはじき、エンドゾーンへ倒れこむ。先制TDで7-0となった。須田は「いける、という感覚があったファーストシリーズがタッチダウンにつながったので、チーム全体が『今日はワンチャンあるぞ』という雰囲気になった」と振り返る。

相手のタックルを引きずり、関大WR溝口(中央下)が先制のタッチダウン

一方でこれまで完璧な試合運びばかりだった立命に、早くも焦りが見え始める。過去4試合でパス成功率79%を誇った竹田のパスが浮いたり、レシーバーと合わなかったり。2シリーズ目もTDが奪えずフィールドゴール(FG)どまり。7-3となった。続くキックオフで立命はビッグリターンを避けるために大きく蹴らず、転がした。このボールが関大リターン陣の最前列の真ん中にいたWR木下立基(4年、関大北陽)に当たり、木下が慌てずにリカバー。関大は労せずして自陣48ydという絶好のフィールドポジションからの攻撃権を得た。

須田から溝口への2本のパス成功などで前進し、ゴール前20ydからの第3ダウン7yd。ここで須田は高校1年から一緒にやってきた岡本へのTDパスを決める。大きく外のスペースを開けた右のナンバーワンに岡本。目前にセットしてきたDB仲圭貴(3年、立命館慶祥)に対し、左足を前にしてセット。プレーが始まると右足を前に出して仲に正対。次の瞬間に踏んだ左足で前へ飛び出す。一瞬で仲を外抜きしてタテへ加速。須田の投げ込んだボールが岡本の腕に収まった。ファーストシリーズ同様、第3ダウンをパスで乗り越えてのTD。14-3となった。

5キャッチ101yd、1タッチダウンとオフェンスを引っ張った関大WR岡本

直後の立命オフェンスは敵陣に入ったところで、RB漆原が関大LB般谷飛向(はんや・ひなた、4年、関大一)の低く突き刺さるようなタックルを受けてファンブルロスト。関大は最前線の右端にセットしたDL津田悠空(ゆうく、2年、清風)がプレー開始とともに、低くはうようにしてインチャージ。プレーサイドに入ってくるOLをつぶしたことで般谷がフリーになった。般谷はこの日、弟の星名(せな、3年、関大一)とともにLBのスタメンで出場。しかし弟は序盤にタックルにいった際に痛み、ベンチに下がっていた。弟がフィールド上で倒れていたとき、寄り添う兄の姿が印象的だった。そしてこの場面、彼は弟の思いも背負ったような鋭い出足でタックルを決めた。

立命は4度目のオフェンスでゴール前1ydまで迫った。第3ダウン1ydで左のジェットスイープをRB山嵜に持たせた。左サイドライン際でタックラーを跳び越えようとしたが、引っかけられてTDならず。しかもイリーガル・フォーメーションの反則があって5yd罰退となり第3ダウン6yd。竹田が迷って投げたパスは決まらず、再びFGどまり。まさかの前半TDゼロに終わり、14-6で試合を折り返した。

前半終了間際、立命RB山嵜がエンドゾーンめがけて跳んだが、届かなかった

ODKが一つになり、優勝の可能性も残した

後半は第4クオーターに入ったところで関大のキッカー中井が41ydのFGを決めて17-6。直後のオフェンスでようやく立命が攻めきる。最後は竹田がWR仙石へのTDパスを決めた。17-13だ。立命サイドの観客席がようやく沸いた。

直後の立命キックオフ。ラグビーのキックパスのような形で左サイドライン際へ浮かせ、自チームの選手に捕らせようとしたが、かなわず外へ出た。関大はまた自陣49ydという絶好の位置から攻められることになった。そして敵陣38ydからの第3ダウン13yd。ボールは左ハッシュにある。右に3人のレシーバーを出した。プレー開始。OLは5人中4人がガサッと右へ出ていく。スナップを受けた須田は立命のDL4人のラッシュを引きつけ、右のナンバーツーでその場にとどまっていた溝口にサイドスロー気味にピッと投げた。捕った溝口は必死に走ってきたOLたちのブロックをよく見て加速。エンドゾーンまで駆け抜けた。プレー開始とともにRBの阪下航哉(4年、関大一)が右に大きく開いていったのも、いいフェイクになった。完全に立命ベンチの裏をかいたスクリーンパスで24-13となった。

8キャッチ108ydで2タッチダウンの関大WR溝口は「気持ちよかった」と笑った(撮影・廣田光昭)

残り時間は4分53秒。11点差を追う立命だったが、竹田のパスが浮いたところを関大DB吉田優太(ゆうと、2年、大産大附)がインターセプト。残り2分15秒から始まったオフェンスでも立命は攻めきれず、そのまま試合終了となった。

負ければ自力での全日本大学選手権出場がなくなる関大がオフェンス、ディフェンス、キッキングが一体となった挑戦を実らせ、優勝の可能性も残した。関大は次戦、10月26日に東大阪市花園ラグビー場で5戦全勝の関西学院大学と対戦する。

先取点で相手が焦ってくれた

■関大・磯和雅敏監督の話
ほんとにみんなよく頑張ってくれたと思います。我々は後半チョイスで前半はディフェンスから始めるのがいつものパターンなんですけど、今日に関しては先制点を取って焦った状態の立命館でないと戦えないと思ったんで、先取点が絶対に必要だと。そういう話をしてたのにコイントスで負けて立命のオフェンスからになったんですけど、それをタッチダウン取られずに止めて、ウチのオフェンスでタッチダウンが取れました。それで立命が焦ってくれて、力を出し切れない状態でやれたので、それがよかったのかなと思います。

去年は真ん中のランがズルズルいかれてたんですけど、今日は芦川君と稲田君(一聖、3年、報徳学園)という大きい子を真ん中に置いて、ピシャッとは止めてないですけど、ロングゲインもされてなかったのはよかったと思います。立命館さんもランが出なければパス、パスできてやられてたと思うんですけど、ランがある程度出てたんでラン、ランできてくれた。それで時間も流れましたし、よかったのかなと思います。

まだ予選敗退の可能性もあります。僕らが関学に負けると、立命が関学に勝ったら1番、2番で、近大が神戸に勝ったら同率3位で僕らが序列4番になるので、ぜひとも次も頑張りたいです。去年は関学に勝てましたけど、向こうのエースQBが途中退場したのもありましたからね。関学さんが本気を出されるのは次の試合以降からだと思ってますので、これまでの試合はまったく参考にならない。ベストメンバーの関学相手でも何とか頑張りたいです。

関大の磯和監督(中央左)は試合後のハドルで「ナイスゲーム」と学生たちをたたえた

ディフェンスの頑張りに燃えた

■関大QB・須田啓太キャプテンの話
ディフェンスが本当に頑張ってくれました。今年の立命さんのオフェンスは破壊力がすごいんですけど、そういう相手にも覚悟を決めて果敢に立ち向かっていってる姿を見ると、おのずとオフェンスメンバーも燃えましたし、ロースコアの展開に持ち込んでくれてよかったと思います。

(溝口)駿斗は2年前の写真とか映像と見比べてもらうと、体がほんとにデカくなってるのが分かると思います。フィジカルにプレーできますし、球際も強いですし、心も大きくなってますし、頼れるエースレシーバーですね。いや(岡本)圭介とダブルエースですね。いまは圭介の思いがオフェンスにすごく伝わってるのを感じますし、不器用なんですけど、がむしゃらに頑張ってくれてるので、おのずとボールが集まりますし、しっかり捕りきれるようにここ2年ぐらいですごく成長してくれてるので、僕も彼に応えられるように成長しないとなと感じてます。

今日の試合中は一体感をめちゃくちゃ感じてました。チャレンジャーとして立ち向かっていくとなったら、みんな同じ方向を勝手に向いてましたし、誰も協力してない人がいなかったので、1試合を通してすごく心も成長できた試合だったと思いますし、これをきっかけにもっと爆発して次につなげてほしいと思います。

関大が勝つときのパターンをみんなが分かってきてると思うので、それを確立して、しっかり流れがこっちに傾いたときに、それをつかみきれるように、もっと集中して。集中が途切れなければ自分たちの力を発揮できると分かったと思うので、正念場でいい結果につなげる感覚を味わえたことはすごく大きかったし、また合宿があると思いますけど、それを忘れずに練習に取り組んで、最高の準備をして関学戦を迎えたいですね。

3本目のタッチダウンが決まり、関大の選手たちは喜びを爆発させた

須田の方がいいチームを作った

■立命館大RB・山嵜大央キャプテンの話
去年から何も変わってませんでしたね。自分自身、キャプテン失格かなと思ってます。気持ちの面で負けて、勝てる試合を落としました。いい形でオフェンスは進んでたんですけど、どこかで歯車がかみ合わなかった。タッチダウンを取りきれなかった。それが負けた要因かなと思ってます。4節目まではできすぎで、こうなることを想定できてなかったオフェンスが足を引っ張りました。去年の関学戦を思い出しました。成長がなかったですね。(竹田)剛とそういう話をしました。

最後のハドルで謝ったんですけど、自分自身甘かったですし、フットボールの神様がほほ笑んでくれないような2週間を過ごしてしまった。過信、慢心もありました。情けない限りです。どうやって立て直すかは、自分自身まだ分かってません。じっくり考えて、自分なりにみんなに伝えようと思ってます。最初のロングゲインも持っていけませんでしたし、2クオーターのジェットスイープも1yd残してしまった。ラストプレーのパスも落としてしまった。僕自身で3本はタッチダウン取れてるんで、負けた要因は僕ですね。僕の責任です。須田の方がいいチームを作った。それだけですね。

高橋健太郎新監督のもと、極めて順調にきていたパンサーズ。ここからどんな姿を見せるか

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