アメフト

負けられない立命戦、関大の誇るホットラインの集大成を QB須田啓太とWR溝口駿斗

立命戦勝利のカギを握る関大QB須田啓太(左)とWR溝口駿斗(撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部で10月14日、今シーズン最初の大一番がある。第2節で近畿大学に敗れて後がない関西大学カイザーズが、4戦全勝の立命館大学パンサーズに挑む。関大オフェンスの看板であるQB(クオーターバック)須田啓太キャプテン(4年、関大一)からエースWR(ワイドレシーバー)溝口駿斗(しゅんと、4年、滝川)へのパスが通らないと、厳しい戦いになる。いまこそカイザーズが誇るホットラインの集大成を示すときだ。その先にこそ、15年ぶりの甲子園ボウル出場への道がある。

須田「いつでもいける」、溝口「燃えてる」

関大のQB須田は敗れた近大戦でけがをして、その後の2試合を欠場した。立命戦に向けた関大側の記者会見が開かれた10月9日、須田は自らの状態について「いつでもいける準備は整ってます」と静かに語った。一方のWR溝口は、リーグ初戦の1カ月ほど前にけがを負っていたことを明かした。そのうえで、「そこからお尻の筋肉の使い方を変えてて、いますごく自分の中では調子がいいと思ってます。その状態で立命さんと試合ができるので、自分的にすごく燃えていて、とにかく勝ちたいです」と話した。磯和雅敏監督は「パスばかり投げる訳ではないですけど、二人のホットラインが通らなければ互角の戦いはできないと思ってます」との見方を示した。

昨秋の関西学院大戦でのQB須田。年間最優秀選手となり、甲子園ボウルの試合後に表彰を受けた(撮影・北川直樹)

小学5年生のときにフットボールを始め、関大では1年生のときからエースQBの座をつかんだ須田に対し、溝口の高校時代はソフトボール部。引退後にアメフト部の練習に参加していたことはあったが、関大で本格的に始めた。2年秋のリーグ2戦目だった神戸大学戦で大ブレーク。6回のキャッチで167ydをゲインし、二つのタッチダウン(TD)を決めた。そこから一気にエース格となり、須田からのパスを捕っては走った。

2年生の秋シーズン後には社会人Xリーグの選手に交じって全日本選抜チームの一員となり、国際試合を経験した。昨年はアメリカに留学。しかし秋のシーズン2戦目で大けがを負った。何ともいえない日々を過ごす中、関大の仲間たちはリーグ最終戦で関学を下した(3校同率優勝を果たしたが、規定により実施された抽選で全日本大学選手権進出はならず)。「同期のみんなと甲子園(ボウル)に出たい」。溝口は留学を切り上げ、この春関大に戻ってきた。

溝口は2年前の立命館大戦で4キャッチ123ydの活躍で関大の勝利を支えた(撮影・北川直樹)

近大に敗れてから、チームはやっと変わった

春には「須田と俺で関大を勝たせます」と言っていた溝口だったが、そううまくはいかなかった。夏のけがで出遅れた。近大戦で劣勢になると慌てて投入され、須田からのTDパスを捕ったが、痛い敗戦を喫した。昨年の年間最優秀選手である須田も苦しんでいた。QBという負担の大きいポジションを担いながらキャプテンとなったが、チームづくりに苦戦した。「なかなか4年生が前に出てきてくれない」「練習からミスを許し過ぎる」「プライドばかり高くて肝心なところで日和(ひよ)る。いまは田舎のヤンキーの集まりみたいなチームでしかない」。春のオープン戦の試合後に彼と向き合うたび、キャプテンの表情は曇った。

近大戦で負傷した須田。続く2試合はサイドラインから仲間の戦いを見守った(撮影・北川直樹)

痛すぎる敗戦を機に、ようやくチームは変わってきた。須田は言う。「自分たちの弱さから逃げずに向き合えるようになってきました」。そして絶対に負けられない立命戦に向けて、「気持ちで勝負したい」と言いきった。「もちろん気持ちだけで勝てるとは思いませんけど、学生スポーツは相手の力が100でこっちが75だったとしても、気持ちでひっくり返せる部分が絶対にある。そこで負けないようにやっていきたいです」

溝口に「須田啓太というQBがいたから、ここまでのレシーバーになれたという思いはありますか」と尋ねた。彼は「もちろんです」と返した。「須田が1年のときから、誰よりも努力してるのはみんなが知ってます。須田の人間性やアメフトに対する気持ちってのは、ずっと学ばせてもらってます。球もほんまにすごいんですよ。僕もいろんなQBのパスを捕ってきましたけど、須田の球は速さと伸びが特別なんです」

「アメリカでのプレーを諦めることになったけど、その分関大のみんなと頑張りたい思いがあった」と溝口(撮影・篠原大輔)

積み上げてきたものすべてをかけて、立命戦へ

今シーズンここまで、須田と溝口のホットラインが通じたのは一度だけ。前出の近大戦でのTDだ。11点を追う第3クオーター終盤、フィールド中央付近からの第3ダウン残り10yd。右へのロールアウトに出た須田だが、当初のターゲットがカバーされていて投げられない。すると左から真ん中奥へ走り込んでいた溝口がコースを変え、エンドゾーン左端へ向かって駆け出す。左斜め前に走りながらそれを見つけた須田が右腕を振り抜く。ボールはエンドゾーン左手前のパイロン近くで溝口の両手におさまった。パスを投げた次の瞬間、須田は相手選手にハードヒットを受けた。

QBとWRのあうんの呼吸、パスの飛距離、そしてコントロール。すべてにおいて日本の学生フットボール界最高峰のプレーだった。須田が振り返る。「あのときはもうベストを尽くすことしか考えてなかった上での結果です。彼とだからこそできたプレーだと思ってますし、彼だったらいけるという信頼はあるので、それが結果として表れたのかなと思います」

近大戦で須田からのTDパスを受け、仲間と喜び合う溝口(1番、撮影・北川直樹)

アメリカから帰ってきてからの溝口について問われると、須田はこう話した。「醸し出す雰囲気がちょっと大人になったかなと感じます。いままでだったら自分勝手でわがまますぎた部分もありましたけど、チームが勝つためにどうしたらいいか考えながら練習してる姿を見ると、さすがやなと思います。プレッシャーがキツくて(相手の)カバーが見えてなくても、彼のところに投げれば何とかしてくれるやろと思えるだけで、僕はすごく楽です。心も体も大きくなってると思いますので、そこに注目してもらえたらと思います」

近大戦でのけがを経て、須田はQBとしての原点に戻った。「けがをしたあとは、どんどん投げ込めてるんです。そういうパスはカットもインターセプトもされにくいなというのは練習中から感じてて、しっかり自信を持って思いっきり腕を振って投げ込めば何とかなると思ってます」。そう言って、須田は笑った。

もちろん須田と溝口だけではない。昨年、溝口が抜けたレシーバー陣を引っ張ってきた副キャプテンの岡本圭介(4年、関大一)は「オフェンスリーダーとして、死ぬ気でチームを勝たせるプレーをします」と話している。カイザーズの全部員がこの一年積み上げてきたものすべてをかけて、パンサーズに挑む。

2024年のカイザーズが一つになり、パンサーズに挑む(撮影・篠原大輔)

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