奔放に暴れた立命館大が5年ぶりに関立戦制す、関学は再戦を見すえて静かな敗北
アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部最終日の11月10日、関立戦(大阪・万博記念競技場)で立命館大学パンサーズが24-14で関西学院大学ファイターズに勝ち、6勝1敗で両校の同率優勝(立命館は2年連続14度目、関学は6大会連続61度目のリーグ優勝)となった。立命館がリーグ戦で関学に勝ったのは2019年以来。直接対決の結果で立命館が1位、関学が2位通過で全日本大学選手権へ。5勝2敗で3位の関西大学までが選手権に進む。立命館は看板のラン39回で269ydを稼ぎ、オフェンスの獲得距離で関学を約250yd上回った。今シーズン、立命館と関学の再戦があるとすれば、12月15日の選手権決勝・甲子園ボウルだ。
流れを引き寄せたビッグプレー
関学は前節の関大戦に出たQB星野秀太(3年、足立学園)、RB澤井尋(4年、関西学院)、DL山本征太朗(4年、追手門学院)をロースターから外した。試合直前の関学の様子が例年の立命館戦とは違った。部歌の「FIGHT ON, KWANSEI」を唄わなかったのだ。聞けばビッグゲーム前恒例である4年生の前泊もやらなかったという。どんな理由からなんだろうと思いながらゲームが始まった。
関学のオフェンスから始まった。ビッグゲームで多用するノーハドルからのハイテンポのオフェンスは封印。大事にしているファーストシリーズは攻撃権を更新できずに終わった。第3ダウン1ydでQB星野太吾(1年、足立学園)は右へフラットに出たTE安藤柊太(4年、関西学院)へパスを通す。軽くフレッシュかと思われたが、立命DB今田甚太郎(3年、駒場学園)が即タックルで前進を阻止。高校時代のアメフトの恩師が最近亡くなったこともあり、「いろんな人の思いを背負って、流れを変えるようなハードタックルをします」と語っていた今田が、いきなり有言実行した。
関学のナイスパントで立命最初のオフェンスは自陣3ydから。いきなりシフト、モーションを絡めたプレーから入った。2度攻撃権を更新したが、パントに終わった。
2度目の関学オフェンスも攻撃権を更新できず。続く立命オフェンスはフレッシュのあと、自陣40ydからの第1ダウン10ydは左ハッシュから。右に単騎で出たエースWR大野光貴(4年、立命館守山)の右側には広大なスペースがある。大野は10ydアウトのフェイクからタテへ急加速。関学DBのマークを外すと、QB竹田剛(3年、大産大附)が右腕を大きく振り抜く。ロングパスが決まって53ydのゲイン。試合後に立命のRB山嵜大央キャプテン(4年、大産大附)は「このチームってすごい個性派集団で、まとめるのは難しいところもあるんですけど、一つのきっかけでチームがボーンと大きく上がる。今日は大野のキャッチが勝敗を分けたのかなと思ってます」と話した。まさに流れを持ってくるビッグプレーだった。
圧巻の65yd独走TD
RB蓑部雄望(2年、佼成学園)のランでゴール前1ydに迫ると、もともと強いOL(オフェンスライン)の5人に加え、体重129kgのDL(ディフェンスライン)塚本直人(4年、東山)まで投入した超強力ブロッカー陣に守られ、蓑部が先制のタッチダウン(TD)ラン。7-0とした。続くオフェンスで関学は第4ダウン1ydのギャンブルを高校時代は名RBでもあったLB永井秀(1年、関西学院)のランで乗り切り、エースRB伊丹翔栄(4年、追手門学院)が22ydのTDラン。キックは外れて7-6となった。
立命はすぐにやり返す。続く自陣35ydからのオフェンス最初のプレー。左のカウンタープレーで山嵜に持たせると、OL陣がナイスブロックで中央に大きな穴を開けた。山嵜は加速して左へ。インカットの脅威を与えつつ、サイドライン際で2人のタックルを外してエンドゾーンまで駆け抜けた。14-6だ。山脈のように大きな立命のOL陣はこのプレー以外にも、何度も圧倒的なブロックを見せていた。関学も食らいつく。ファイターズの伝統芸ともいえるショベルパス(QB星野→TE安藤)も繰り出し、最後は伊丹が9ydのTDラン。2点コンバージョンも伊丹が持ち込んで成功。14-14となった。
次の立命オフェンスはQB竹田が続けて走り、フィールド中央付近へ。短いパスを決めて走らせようとしたが、関学のDB岡村寛伍(啓明学院)、杉本涼(関西学院)が4年生の意地を見せるかのような鋭いタックルで阻止。第4ダウン5ydはギャンブル。ワンバックから遅れてルートに出た蓑部へのパスを決め、攻撃権を更新した。立命は攻めきれなかったが横井晃生(3年、桐蔭学園)が短いフィールドゴール(FG)を決めて17-14と勝ち越し、試合を折り返した。
後半は立命の独壇場「関学の目が輝いてない」
後半はパンサーズの独壇場だった。OL陣が関学ディフェンスをなぎ倒し、QB竹田は吹っ切れたようにパスを投げ込む。アンバランス隊形も繰り出して攻めた。ボールを支配し、後半のボール所有時間は立命の17分40秒に対し、関学は6分20秒だった。ディフェンス陣は「アニマルリッツ」と呼ばれたころを思い起こさせる暴れっぷり。関学は第4クオーター序盤にQB星野がLB大谷昂希(4年、大産大附)に強烈なヒットを食らって倒れ、その後は出場しなかった。立命は試合残り4分を切り、山嵜の10ydTDランで24-14と突き放した。そしてそのスコアのまま、2024年関西1部最後のゲームが終わった。
試合中、立命サイドでは「関学の選手の目が輝いてない」という話が出ていたという。たしかにサイドラインの雰囲気も大一番のものではなかった。関学にとって今回の立命戦のゴールは「何が何でも勝つ」ことではなかった。あくまでも甲子園ボウルで勝って日本一になることを最大のテーマとして、選手起用で無理はせず、手の内も明かさなかった。ただフィールドでは本気中の本気だった。でなければ、このスコアで収まるはずがない。甲子園での再戦はあるのか。2度目の関学は強い。2017年と19年に最初の対戦で勝ち、肝心な2戦目でひっくり返された経験のある立命は身をもって知っている。
荒々しさが出せるようになった
立命館大・高橋健太郎監督
「学生たちが精いっぱいやった結果、なんとか勝てた試合だったかなと思ってます。関大さんに負けて、やっぱり空中分解しかけたところはあります。これまでやってきたことが正しかったのかと。いろいろな思いはあったんですけれども、やっぱり自分たちがやってきたことにもう一回フォーカスして、そこに自信を持って、もう一回僕たちのフットボールをしっかりやっていこうということを彼らに伝えました。自分たちらしいフットボールを目標に、目線を変えたのが大きかったんじゃないかなと思います。今日は僕自身もう完全に勝ちにいくつもりでしたし、コーチたちにも勝ちにいくプレーコールをしてほしいと言っていました。ここで関学とも対等に渡りあえるんだっていうのは、負け続けてきた彼らにとっては一つの成功体験になって、大きな自信になると思います。何とか勝ちにいきたいと、すごく強く思ってました。荒々しさが出せるようになったと思います。本当の彼らの個性ってそういうところにあると思うんです。それを僕たちコーチ陣がサポートした結果、本来の姿をさらけ出しただけという感じで思ってます。でもそういう荒々しさとか勝ちたいっていう気持ちを素直にぶつけられるようになってきたのは、それはそれで成長かなと思ってます。関学さんはここ一番で結構凝ったプレーをされるんですけど、今日はされてないので、それは甲子園に残されてるのかなというのは正直感じました」
ハドルの中で飛び交った「楽しもう」
立命館大・山嵜大央キャプテンの話
「まだ喜べないんですけど、次に仙台行って、その次の試合がすごい感じになってくると思うんで。個人的には関大さんに負けてるので、やり返して甲子園に行きたいと思ってます。僕もQBの竹田選手も、まあみんなですね、これまですごく気負ってしまう部分があったんですけど、今日は本当にもう楽しむところにフォーカスして、大野へのパスで『やっぱフットボール楽しいな』って思えた気がして、そこから雰囲気が上がっていきました。ハドルの中でも『楽しもう』っていう声が飛び交ってたんで、もうシンプルに楽しかったですね。この試合は楽しみました。関学はまだまだ余裕ありますよね、正直。彼らは甲子園に合わせてきてると思うんで、今日は本気の関西学院さんじゃないと思ってるんで。甲子園では本気の関西学院さんが見られると思うんで、その関西学院さんに勝ってこそ本当の勝利だと思ってるんで、これからあと1カ月ですね、みんなでフットボールを楽しみたいと思ってます」
最後はファンダメンタルで決まる
関西学院大・大村和輝監督の話
「いやもう完敗ですね。前の試合が終わって、ファンダメンタルの練習をもう一回ちゃんとやろうと。最後はファンダメンタルで決まると思ってるんで。そこがまだまだ足りてないなというのを実感しました。準備に関してはちゃんとやれることをやろうということで、やりましたよ。特別なことをするだけが準備じゃないんで。立命館のオフェンスがだいぶ準備をされていて、いままで見せてもらってるプレーはそれなりに止められると思うんですけど、ああいうふうに準備をされてきたときに、やっぱりOLは強いしバックもいいですから、なかなかしんどいなというのが正直な印象ですね。竹田君も思いきって投げるパスをしっかり決めてきたので、オフェンスは相当力があるなと思ってます。ディフェンスも我々が前の試合でやったランプレーを止めようということでアジャストされてましたんで、相当準備をされてきたなという印象があります。(選手権は)一発勝負ですから何が起こるか分からないので、ちゃんと1試合1試合準備しないとなと思ってます」
ファイトオンが単なる儀式になるのは嫌だった
関西学院大・永井励キャプテンの話
「今日やれることを全力でやった結果なんで、負けをしっかり認めること。それとアサイメントどうこうよりは彼らのサイズとかパワー、マンパワーで負けた部分は大いにあるので、そこの課題に向き合っていかないと、甲子園ボウルで再戦できた場合に同じようなやられ方をすると思います。山嵜大央とフィールドで向き合って、楽しそうでしたね。僕もダイチもキャプテンとしてしっかり気持ちを出してプレーで見せながら、アメフト大好きやと思うんで、そういったいろんな部分がフィールドではじけてたかなと思います。ファイトオンを唄わなかったのは、これからまだシーズンは続くので、唄うのが単なる儀式になるのが嫌でした。トーナメントに入っていくことを考えると、毎回唄ってるとファイトオンの意味が薄れてしまう。ファイターズにおいてファイトオンを唄うってのはすごく大きな意味のあることなので、最大限走りきった先にこそファイトオンが必要で、そのときに唄って腹をくくりたいと考えました。ただ、今日の試合にはかけてなかったとかそんなんじゃないです。同じ理由で前泊もやめました。次の慶應さんに対するイメージはとくにないです。誰が相手でもスカウティングして準備して、スタート、パシュート、フィニッシュを日本一のレベルでこだわってやるっていうのがあるので。とくに今年は弱いチームなので、そういう部分が意識できたら逆に強くなれるかなと。弱いことが強みっていうのは僕の中で考えてることで、弱さをいかに言い聞かせて、これもやらな、あれもやらなということに拍車をかける。そうやって1試合、1試合で成長しながら甲子園ボウルに立ちたいですね」