アメフト

早稲田大・八木義仁 経験積み重ねたエースQB、クレバーに戦うチームで日本一めざす

昨年は苦しい経験もたくさんした。それらが八木の糧となっている(すべて撮影・北川直樹)

4月29日に駒沢陸上競技場で、アメリカンフットボールの第72回早慶戦があった。春の早慶戦としては、2019年以来5年ぶりの試合で、両チーム関係者待望の一戦。序盤から早稲田大学が勢い付き、一時30-7とリードを広げたが、早稲田のミスをついた慶應義塾大学が肉薄して熱戦となった。最終スコアは30-21と早稲田がリードを守り、伝統の定期戦を制した。早稲田は、今年から名実ともにエースとしてひとり立ちしたQBの八木義仁(4年、早大学院)が、丁寧に攻撃を作った。

攻撃を冷静にコントロール 春の早慶戦に勝利

近年、早稲田は関東TOP8で優勝争いをしている。一方の慶應は、春の早慶戦がなかった5年の間に下位リーグへの降格も経験した。長らくHCを務めたデイビット・スタント氏がチームから去るなど体制の変化もあった。チームの総合力ではトップを走り続けてきた早稲田に分があり、地力の差は試合内容にも垣間見えた。

終始、早稲田がライン戦を有利に戦った。OL陣がコントロールしたスクリメージラインを、安藤慶太郎(3年、早大学院)と長内一航(2年、早稲田実)が走り、TDを重ねる。守備では副将の鈴木晴貴(4年、鎌倉学園)が慶應のパントをブロックし、そのままTDに持ち込む活躍。前半を24-7で折り返して大勝ムードが漂った。

副将DBの鈴木晴貴はアグレッシブなプレーで躍動した。第2Qにはパントブロックからピック6も記録

後半、先発QBの八木が3年の船橋怜(早大学院)に交代。長身の船橋は果敢なプレーを見せたがTDにつなげられずに、K平田裕雅(4年、早稲田実)のフィールドゴールを重ねる。第4Qに入り不調の船橋にかわって再び八木が登場。ボールを冷静にコントロールし、リードを守った。

対する慶應は、後半に登場したQB松本和樹(4年、慶應義塾)が、2シリーズ連続被インターセプトにも折れずに粘り強い攻撃をドライブ。第4QにTDパスを通し、早稲田のミスも得点につなげて9点差まで追い上げたが、及ばなかった。

今年のRBのエース格は安藤。18回131yd、1TD獲得

「試合を通じて堂々プレー」自分の成長を実感

早稲田は昨年から出場経験豊富な八木が、國元孝凱の卒業にともない名実ともにエースQBに昇格。この試合でTDパスはなかったが、安定感のあるクオーターバッキングでしっかりとゲームをファシリテートした。第3Qにはスペシャルプレーでパスレシーブも記録し、春の初戦を勝利で決めた。

「あのスペシャルは結構練習してました。左右どっちのパターンも練習していたんですが、右は全部成功していて、左は全部失敗してたんです。今日は左だったんで、『アッ、左だ……』って思ったんですが(笑)。TDに持っていきたいプレーでしたが、キャッチできたので、まあホッとしました」

スペシャルプレーで17ydのレシーブも記録した

ゲーム中は昨年よりも余裕が感じられ、積み上げてきた経験から来る自信が表情にもあらわれていた。

終盤の再登場は、八木が自ら手を上げたタイミングと、コーチの指示が重なったのだという。

「オフェンスがうまく行ってないのを見てて、ソワソワしていたんです。波木(健太郎、04年卒)コーチに『次、僕行っていいですか?』と言いに行ったとき、同時に『次、八木で』って言われました。ただ、昨年の明治戦で僕と國元さんがローテーション出場したときにうまくいかなかったのを覚えていたので、1回下がってからまた出ることには不安もありました」

そのためフィールドに戻ってからは、安全に確実にドライブすることに集中したという。結果、オフェンスの悪い流れを断ち切ることができた。

「今日は試合を通して堂々とプレーできたのが、自分の中で大きな成長だと思いました。去年までは決めにいこうとか、うまくやろうみたいな気持ちを持ってしまいがちでしたが、強気にいけたのが一番の収穫だったと思います。パスの調子もすごくよかったなと」。11回投げたパスは9回成功し、86ydを稼いだ。

年長からフットボール「気づいたときにはQB」

八木のフットボール歴は長い。早稲田大でOLとして活躍した父の研作さん(現・助監督)の影響で、幼稚園の年長からフラッグフットボールを始めた。本人いわく「いつからQBをしていたかは覚えてないんです、気づいたらやってました」。守備の裏をかくのが好きで、小学生の頃からずっとそういうプレーを考えていたという。

週末にワセダクラブ(早稲田のフラッグフットボールクラブ)でフットボールをするかたわらで、サッカー、水泳、テニス、バスケットボールなど様々な競技に親しんだ。

「ほかの競技がフットボールに生きているという感じはなくて、むしろQBの考え方や動きが他の競技で生きていました。たとえば、バスケでパスを回すときなどは、視線の使い方や相手の動かし方など生かせることが多かったです」

QB経験が他のスポーツに生きることはたくさんあったという

将来的にビッグベアーズでプレーすることに憧れがあったから、中学に上がる頃に塾に通い始めて受験に備えた。早大学院を受験して無事に合格し、ベアーズ(早大学院のチーム名)で本格的にアメフトを始めた。「フラッグとアメフトは似ているようで結構違うので、それまで感覚でやっていたことをロジカルに考えるようにしたり、しっかり勉強しなおしました」。当時の気持ちをこう振り返る。

高校3年の秋には、全国決勝のクリスマスボウルを目指して関東大会の準決勝まで勝ち進んだが、足立学園に負けて夢がついえた。そして翌春、幼いころからの悲願だったビッグベアーズに加入した。

昨秋の慶應戦がターニングポイント 自信つかむ

大学2年時には、小学生の頃から憧れていた甲子園ボウルに出場する機会も得た。キックのホルダーで試合に出たが、うれしいというよりも何もできなかった自分が悔しかったという。

2022年の甲子園ボウル。八木はキックのホルダーで試合に出場した

昨春は早々に國元が負傷し、先発で多くの試合に出た。しかし思うような結果につながらず苦しんだ。春の立教戦では3INTを喫して対立教で10年ぶりの敗北を経験。その後も上位リーグの相手には連戦連敗した。

「自信を持てたのは、秋初戦の慶應戦ですかね。オフェンスは17得点と少なかったですが、試合を壊さないで作っていくゲームが初めて出来たんです。この試合が、自分の中でターニングポイントになりました」。この頃から八木のパフォーマンスは上向いていき、存在感も確かなものになっていった。

最終学年にかける思いは、人一倍強い。「今年は自分ができることを全部やってチームに還元し、必ず日本一になりたいと強く思っています」

「オフェンスが強い早稲田」と言われる存在に

エースに就いた今年、八木は副将になった。

「チームの全員が勝つために考えて、クレバーに戦えるチームにしたいと思って立候補しました。考えることが多く難しいこともたくさんありますが、今日は冷静に戦えた部分で成果を実感できたかなと思います」

大事にしていることは、仲間の影の努力にしっかり目を向けることだ。「厳しい指摘は主将の小林(亮生、4年、早大本庄)がしてくれるので、自分は違う面で仲間を支えていければと思います。しっかりオフェンスで勝って、『オフェンスが強い早稲田』と言われる存在になりたいですね」

エース、そしてリーダーとしての覚悟は決まっている。

最終学年。八木は、自信を持つカバーリードとステップワークでビッグベアーズを勝利に導く

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