立教大学・中畑周大 窮地に登場した控えQB、地道な努力実らせ流れを引き寄せた
立教大学ラッシャーズが大きな1勝を挙げた。10月15日のTOP8第4節で、昨年の関東覇者・早稲田大学ビッグベアーズと対戦。今季も開幕から連勝中の早稲田に対し、立教は前節で法政に負けていて後がない。春のオープン戦に続き立教が勝つのか、手堅く勝ち進んできた早稲田の雪辱か。両チームの成長を測る、注目の一戦だった。終始早稲田リードで進む、立教にとって苦しい流れを変えたのは、4年生の控えQB中畑周大(立教新座)。ラストシーズン中盤の大一番で輝いた。
(この試合について、10月27日に関東学生連盟から以下の発表が出ています)
負けられぬ一戦、17点ビハインドで登場
今季の立教の勝負強さを象徴するかのような試合だった。第3クオーター(Q)中盤で17点差。絶体絶命の状況を、試合終了の瞬間にひっくり返した。
早稲田は最初の攻撃シリーズで、RB安村充生(4年、早稲田実業)のラン、QB八木義仁(3年、早大学院)からWR中尾公亮(4年、早稲田実業)へのパスで敵陣へ進攻。K曽木聡(4年、國學院久我山)のフィールドゴールで先制した。立教はランでダウンを更新するが、ハーフライン付近でQBサックを受け後退を強いられる。続くシリーズも早稲田は安村がタッチダウン(TD)を追加し、早稲田10点リードで前半を折り返す。
後半開始早々にもTDを許した立教は、控えQBの中畑を投入し、打開を図る。RB星野真隆(3年、立教新座)の連続ランでダウンを更新し、敵陣へ。中畑自身のランでゴール前の第4ダウンギャンブルを成功させ、TE白岩大雅(3年、佼成学園)へのTDパスにつなげ初得点を挙げる。
勝負プレー決め3点差に エースにバトンタッチ
中畑は普段はスポット起用だが、リードが好調なため、立教は続投を選択。続くシリーズもWR川村春人(4年、立教新座)への20ydパスを皮切りに攻め込み、再び川村へパスを通しTD。「ゴール前ではマンツーマンの勝負になるのがわかっていたので、スラントで勝負すると決めていました。中畑が走ると見せかけて僕に投げるプレーです。球際勝負だけは負けないと自信を持っていました」と川村。これまでもここぞの場面で試合を決めるレシーブを重ねてきた川村が、アフター練習で中畑と散々練習してきた勝負プレーだった。14-17。ここまでの攻撃不振を覆す好調ぶりで、一気に逆転圏内へ追い上げる。
最終第4Q。早稲田が中尾の29ydレシーブで攻め込むが、立教の堅守に阻まれTDを取りきれずFGにとどまり14-20となって、立教のラストシリーズが回ってきた。残り時間は3分19秒、自陣19yd地点。ここでエースQB宅和勇人(4年、立教新座)がフィールドへ。ルーキーWR保科亮太(立教新座)へ16ydパスを決め、第4ダウン9ydのギャンブルでは川村へパスを通しダウンを更新。さらに川村がキャッチし、敵陣19ydへ——。
ラストプレー。宅和が早稲田守備のプレッシャーを右側にロールしてかわし、エンドゾーンに投げ込んだ。ヘイルメアリーだ。ボールが立教WRの前にカットしに入った早稲田DBに当たり、高く跳ね上がる。これを「川村がボールをはじいた場合のフォロー役」として下で構えていたWR篠藤智晃(4年、立教新座)がすかさず確保。時間切れと同時に20-20の同点に追いついた。
何と言う勝負強さ。昨年も日大を相手にヘイルメアリーを決めた宅和は言う。「こういうシーンの練習も結構してて、WRだけじゃなく全員自信はあったんじゃないかなと思います。ボールがはじかれた瞬間は『んっ?』って思いましたが……(笑)」
キャッチした篠藤がこのシーンを振り返る。「最後はゴールラインも見えてなかったんですが、夢中で吸い寄せられて飛びついたらキャッチできました」。逆転を賭けたトライフォーポイント(TFP)のキックをK野田悠生(3年、桐光学園)がしっかりと決め、21-20。立教が勝った。
「あれだけリードされる展開で、もちろん精神的に不利だった面はあります。でも、自分たちは『絶対にTDを取る』ってイメージを持ってピットを過ごしていたんで。甲子園へ向けて絶対に負けられないという思いの中、誰一人として下を向かず丁寧にプレーできました」。篠藤は胸を張った。
大学入学後、小学生からの同期の陰に
今季3つ目の勝利も、中大戦と明治戦につづく劇的な逆転で飾った立教。この日の立役者は、後半に登場し試合の流れを変えた中畑だ。ハーフタイム中、オフェンスコーディネーターの荒川翔太コーチに「後半は、1本目中畑」と言われた。これ以上の説明は特になく、「自分用のランパッケージがあるんで、そのプレーかなと思ったんですが。オフェンスが出たので、リズムを壊さないために自分を使い続けたのかな」と中畑は振り返る。一時は3ポゼッション差まで離されたが、落ち着いたプレーで着実に得点を重ね、キャッチアップした。
「OLのブロッキングがとても良かったのでランは出てたし、短いパスはタイミングで投げれば通せるって手応えはありましたね」。早稲田守備にとっても、間合いやタイミングが宅和と異なる中畑が出てきたことは、やりづらさがあったに違いない。
中畑と宅和とは、小学生のときに所属したフラッグフットボールチーム、ワセダクラブ時代からの同期。立教新座高校に入学してからは、併用で試合に出た。しかし大学入学とともに、出場機会に差が生まれる。1年のうちから宅和がエース格として起用されたのに対し、中畑には出場機会は回ってこなかった。
「出番が来たらチームに貢献」腐らず前を向く
「もちろん悔しい気持ちはありました。でも、自分がバックアップとして宅和を支えるんだって。その気持ちの方が大きかったです」。2年のときはスカウトチーム(実戦練習の仮想敵役)で頑張り、3年に上がるとキッキングチームに志願。QBでありながらリターナーとしても走る、異色のプレーヤーだ。
「4年の今年、ようやくQBとしてポイント起用してもらえるようになりました。チームに所属している限り、どこのポジションであれとにかく貢献したいというのが正直なところです。『一瞬でも腐ったら終わるな』と思いながら、ずっとずっと練習をしてきました」。驚くほど前向きな言葉が出てくる。そして、「本当にメンバーに恵まれてきたと思います」と、ここまで支えてくれたチームメートや、コーチ陣への感謝を口にした。
中畑が何よりも意識し、大事にしていることがある。それは「自分の仕事は、出番が来たときに流れを変えて、チームに貢献すること」。そのために練習時から常に120%の準備を積み、フィジカル作りや戦術理解など、できる準備を徹底してきたという。「スカウトチームで必死にアピールし、オフェンスでも自分用のプレーを作ってもらえるようになりました。自分が頑張ることで、すこしでも勝利につながれば」。控えでいることに甘んじず、チームのことを考え抜き行動する。中畑のような控え選手がいるチームは強い。
58年ぶりの甲子園ボウルへ希望つなぐ
立教は第4節を終え3勝1敗で、全勝の法政に次ぐ順列2位。現在1敗で並ぶ早稲田と明治には勝っており、仮に法政がこの先敗れた場合は、1敗で3校が並ぶ可能性がある。自力でのリーグ優勝は無くなったものの、プレーオフを勝ち上がっての東日本代表校決定戦、その先にある58年ぶりの甲子園ボウル出場への希望はまだ残されている。そのためにも、残りの慶應戦、東大戦は絶対に勝つ必要がある。
「甲子園に行って、勝つのは自分たちです。ディフェンスも良いですし、キックも安定してる。あとはオフェンスが仕事を全うするだけですね。詰めるところは詰めて、自分が出来る最高の準備をしていきます」
ラストイヤー、早稲田戦でQBとして階段を一段登った中畑の活躍が、再びラッシャーズに勢いをつくる。