アメフト

立教大学・猪股賢祐主将 多くのポジション経験を糧に「自分が勝たせる」土壇場で体現

誰よりもフィールドにいて、誰よりも動く。猪股賢祐はプレーでチームを引っ張る(すべて撮影・北川直樹)

関東大学アメリカンフットボールリーグ戦 TOP8

9月16日@東京ドーム
立教大学 14-10 明治大学

9月16日に東京ドームで行われた、関東学生アメリカンフットボールTOP8の第2節。この日を締めくくる明治大学グリフィンズと立教大学ラッシャーズの第3試合は、終盤にもつれる接戦を14-10で立教がものにした。立教は攻撃でタッチダウン(TD)を挙げられなかったが、守備とキッキングで二つのTDを決めて勝ち切った。開幕2連勝で勢いに乗る立教は、近年随一のチーム力で上位校との対戦に殴り込む。

6年ぶりに明治戦勝利を引き寄せたキックオフリターンTD

ロースコアの展開で進んだ我慢比べは、稀(まれ)に見る熱戦となった。第2クオーター(Q)に明治がK近藤倫(3年、桐光学園)のフィールドゴールで先制。立教は守備陣が突破口をつかんだ。明治のQB水木亮輔(2年、千葉日大一)が自陣で投じたパスを立教のDB武中虎汰朗(2年、足立学園)がインターセプトすると、そのままエンドゾーンへ。苦しむ攻撃を守備が後押しし、7-3で後半へ。そして勝負は第4Qにもつれこむ——。

勝負を決めたのは、試合終了間際に飛び出した立教の主将・猪股賢祐(4年、立教新座)のキックオフリターンTDだった。直前、明治にドライブを許して廣長晃太郎(3年、箕面自由学園)に走られ7-10と逆転されていた。残された時間は52秒。絶体絶命のシチュエーションだった。

明治のKが深く蹴り込んだボールを猪股がレシーブ。明治のカバーチームは、猪股の初動につられて内側に寄った。それを感じた猪股は、向かって左サイドに切り返しサイドライン際を駆け上がる。

「直感的に『これはいける!』と思いました」。明治のタックラーが3人4人と猪股めがけて飛び込んできたが、すんでのところでかわし、エンドゾーンまで89ydを走り切る。まるで漫画かドラマのように試合をひっくり返した。

ここ一番で見せたのがキャプテンということもあり、立教側の観客席とベンチはお祭り騒ぎ。残り時間は37秒。明治のラストシリーズ、水木のパスを受けた廣長が49ydを走り、あわや再逆転もあるかと思わせたが、自陣27ydを立教が守り切った。明治戦勝利は、2017年以来6年ぶりだった。

第4Q残り52秒、キックリターンで89ydを疾走し逆転を決めた

リーグ屈指の守備を引っ張り、攻撃以外ほぼ出ずっぱり

「去年は明治に最後TDを決められて、心を折られてしまった苦い思い出があったんです。今年は主将として、絶対に自分が取り返して勝たせる。それだけを考えていました」。リターナーの位置に立ったときの、猪股の覚悟だ。

猪股は、この試合で八面六臂(はちめんろっぴ)の大活躍だった。守備の最後尾を守るSFとして多くのプレーに絡み、決まるとTDになりかねないディープゾーンへのパスもカット。キッキングゲームではパンターとして陣地回復を助け、パントとキックオフのリターナーにも入った。いわゆる「スラッシュプレーヤー」は、小柄ながら圧倒的な運動量でラッシャーズを牽引(けんいん)した。

「出られるところは全部出してもらっています。自分が試合に出て、勝ちに導くっていう強い気持ちがあるんで。そこはやるしかないっていう話です」。攻撃以外は、ほぼ出ずっぱり。リーグ屈指の守備を引っ張る気概は、まさに闘将だ。

守備とキッキングチームのリターナーに加え、パンターも務めるユーティリティーぶり

対する攻撃は、春から得点力に課題がある。昨季関西2位の関西大学、2部の同志社大学からはTDを挙げられずに負けた。そしてこの日も、攻撃陣は得点を奪えず。司令塔4年目の宅和勇人(立教新座)は、「正直めちゃくちゃ苦しかったです」と試合を振り返る。

「スリーアンドアウトが続いていたので、やばいなと。ずっとどうしようかなと思っていました。前節の中大戦はランが多かったので、今日はパスも織り交ぜていくつもりだったんですが……。何もできなかった試合です」

攻撃の獲得距離は、明治の268ydに対して155ydと大きく下回った。あえぐ攻撃陣を救ったのが、守備とキックリターンで上げた二つのTD。秋に入り立教は、勝ちをつかむしたたかさを着実に身につけている。

QBをしたかったが、チームのためにポジションを転々

猪股は立教新座中学から高校に上がるとき、野球部とアメフト部のどちらに入るかを迷っていた。QBの宅和勇人と中畑周大に誘われて、アメフト部に入部した。当初希望したのは、2人と同じQB。最初は3人でQBをプレーしたが、猪股は夏前にポジションを変更した。

「同期に小学校からフラッグフットボール経験がある、上手な宅和と中畑がいて。自分はうまくいきませんでした」。そこからDBに転向。もがいて、もがいて、必死にやった。でもやっぱりQBがやりたかった。

大学に入った時に「『コロナでリスタートできるかな』と思い、監督とも相談して再びチャレンジさせてもらいました」。身体能力が高い猪股用に、彼が走るオリジナルのプレーもあったが、秋にはWRに転向。そして2年に上がるときにDBに戻り、落ち着いた。多くのポジションを経験した苦労は確実に糧となり、現在に生きている。

かつてのチームQB。中畑(左・主務)、宅和(右・副将)とは幹部としてもチームを束ねる

自ら主将に立候補 チームを高い波に乗せ、キープする

高い身体能力に、類いまれなリーダーシップを持ち合わせている。この春は主将に自ら立候補し、チームの首脳と2カ月ほど対話を重ねた。こうして今年のラッシャーズは猪股のチームとしてスタートを切った。ストイックな姿勢は仲間やコーチからの信頼も厚く、「勝ちにこだわり、フットボールを楽しんで成長することを大事にしたい」と意気込む。

「これまでは波に乗ったら強いけど、調子が落ちるととことんまで落ちてしまうようなもろい部分がありました。チームをどううまく波に乗せて、その高い波の状態をいかにキープするか。それをやるのが主将としての役目かなと思っています」

この半年で「声すごく出てるね」「楽しそうだね」「別のチームになったね」と言われることも増えたという。その変化は、取材者の我々から見てもはっきりとわかるものだ。

しかしチームとして目指す「一流の日本一」に向けては道半ば。主将としての仕事は山積みという。

日本におけるアメフトのルーツ校、立教大学ラッシャーズは、日本一の舞台から58年間遠ざかってる。次節はTOP8の鬼門、近年で唯一勝てていない法政大学が相手だ。この相手に35年ぶりに勝つことが、古豪復活への足がかりとなる。

東京ドームでのリーグ戦勝利の喜びを仲間と分かち合う

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