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立教大学の金子舜と湧 ディフェンス陣を支える熱き兄弟、ともにめざすは大学日本一

試合中の湧(左)と舜(提供・立教大アメフト部)

アメリカンフットボールの関東学生TOP8の第4節、明治大学グリフィンズと立教大学ラッシャーズの試合があった。強力な攻守ラインと力強いランナーを擁する明治が優位と思われたが、立教が明治のランプレーを抑え込んで接戦に持ち込み、前半は7-0の明治リードで終了。第4クオーター(Q)終盤にもつれた試合は14-7で明治が競り勝ったが、立教の粘り強い守備も光った。立教の守備で奮闘した兄弟を紹介する。

守備陣の前後で好タックル

明治には、下級生からランニングゲームを支えてきた強力なRB、森川竜偉(4年、佼成学園)と廣長晃太郎(2年、箕面自由)がいる。立教の守備がこの2人のランを止められるかが、重要なポイントになると思われた。実際、春のオープン戦では森川と廣長の2人に計231yd走られて7-35で完敗した。しかし、この日は違った。明治のランを見事に抑えた立教守備には、中核となる兄弟がいた。DTで副将の兄・金子舜(しゅん、4年、佼成学園)と、SFの弟・金子湧(ゆう、2年、佼成学園)だ。

舜は、身長168cmに103kgとDTとしては小さい。マッチアップする明治のOL陣は一回り大きく、ダブルチームで押されると厳しい戦いになる。しかし、押し込まれることなくスクリメージラインのギャップを埋め、ランプレーに絡み、守備フロントの中心で粘り強く守った。第4Q7分には、中央に走りに来た明治のQB吉田拓郎(4年、日大鶴ヶ丘)を、後ろから追いかけてロスタックル。足が動き、最後まで諦めない気持ちの強さが売りだ。

舜のタックルを湧が祝福する(撮影・北川直樹)

SFの湧は、クレバーなカバーで確実なタックルが魅力。ショートパスへの即タックル、速いランサポートが光った。第3Qに攻撃がロングドライブで作ったモメンタムを、守備での好タックルでつないだ。兄同様小柄だが、リーダーシップが際立つ2年生だ。

2年生ながらリーダーシップと存在感がある湧(撮影・北川直樹)

試合には負けたが、金子兄弟の存在感は目立った。2人がスタメンとしてそろうのは、今年が初めて。ともに「(湧を)信頼しているので、自分の後ろを安心して任せられる」、「(舜が)高校のときからずっと自分の前にいるので、一緒にやれてうれしい」と信頼を口にする。

幼少時から一緒にフットボール

金子兄弟は、舜が小学2年、湧が幼稚園年長のときにフラッグフットボールをはじめた。トライアスロンをしていた両親が、子どもにも何かスポーツをさせたいと思っていたときに、近所の友だちが練馬リトルブロンコスでフラッグフットボールをしていたことがきっかけだ。2人は小学生いっぱいブロンコスでプレー。兄は中学から世田谷ブルーサンダースで、弟は佼成学園中に進んで、ともにタッチフットに転向した。末っ子の妹もバレーボールをしており、生粋のスポーツ一家で育った。

兄は、弟のあとを追って高校受験で佼成学園に進み、2年後には兄弟が同じチームにそろった。2人は様々なポジションを経験してきたが、高校時代は舜がDL、湧がLBで、前後の並びだった。

「家ではほとんど喋らない」2人に頼み、肩を組んでもらったらこの笑顔(撮影・北川直樹)

舜は、中学のときにテレビのドキュメンタリー番組で放送していた介護福祉士の特集を見て、児童養護施設で働く夢を持っていた。大学受験にあたって、「強いチームでアメフトをしながら夢を追える」進学先として、TOP8で唯一福祉学部がある立教への進学を決めた。しかし、立教大学ラッシャーズは付属高である立教新座上がりの選手が大半のため、はじめはうまくなじめなかったという。

「自分が日本一を経験していたのもあるのか、はじめは立高出身者で固まってて、すこし遠ざけられてるような気がしました。でも徐々に『勝ちたい』という気持ちで認識が合ってきた。そこを擦(す)り合わせていったら、だんだん仲良くなれました」

湧は、TOP8の中で佼成学園卒業生があまり進学していない大学でプレーしたかった。兄がいたこともあるが、佼成の先輩が2人だけの立教を選んだ。

高校日本一のカルチャーを、立教に

舜と湧は、ともに高校日本一を経験していて、湧は主将も務めた。実質的なスポーツ推薦枠がない立教の中で、2人は貴重な人材。さまざまな期待が掛かっている。

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守備の雁部健太郎コーチは言う。「舜は、今時珍しい、情熱を表現できる選手です。今はどちらかと言うとクールな子が多いんですが、悔しさや喜びを体で表現できる選手です」。その部分で後輩の心をつかみ、圧倒的なリーダーシップを発揮。しんどいときに声と姿勢でまわりを巻き込めるのが強みだという。

高校のチームメイト、森川竜偉にタックルに行く舜(撮影・北川直樹)

湧についてはこう評価している。「とにかくボールに絡める選手です。攻撃選手のささいなしぐさなどから敏感に気づき、タックルに行ける。チームで一番ハードにプレーできる選手です」

湧はしぐさなどから情報を収集する「嗅覚」が優れている(撮影・北川直樹)

2人は、佼成学園で培った日本一のカルチャーを、立教に根付かせてくれようとしているという。ちょうど4年前に主将を務めた、森上衛(関西学院、現・東京ガス)のような存在だ。

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兄のラストイヤー「やり切る」

兄弟が立教で成し遂げたいことは同じだ。それは、ラッシャーズでの大学日本一。高校日本一の経験を持つふたりは、するべきことや難しさを理解している。1次リーグ最終戦となる10月15日の日本大学戦に勝てば、ブロック3位で上位トーナメントへの道が開ける。

舜は、「明治戦まではタックリングに大きな課題があったが、そこはある程度つぶせた自信がある。次のステップは『勝つためにやる』ということ。日本一を目指してやっていきます」と決意を口にする。

湧が続ける。「家ではほとんどしゃべりませんが、フィールドでは心が通じていると思っています。2人がそろうのも今年が最後だと思うので、兄のラストイヤーのためにもやり切ります」

この1週間でどれだけがむしゃらに成長できるか。立教守備の最前列と最後尾にいる、金子舜・湧に注目だ。

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