アメフト

0-21からのクリスマスボウル3連覇、佼成学園高校は負けない

3連覇に大喜びする佼成学園のオフェンスメンバー

第49回全国高校選手権決勝・クリスマスボウル

12月24日@大阪・ヤンマーフィールド長居
佼成学園(東京1位) 39-33 立命館宇治(京都1位)

アメリカンフットボールの高校日本一を決めるクリスマスボウルは死闘になった。3度目の出場で初優勝を狙う立命館宇治が、3連覇のかかる王者佼成学園から21点を先取。第4クオーター(Q)開始時点でも19点のリードを奪っていた。しかし佼成はここから、この1年で培ってきた強さを存分に発揮し、大逆転で3年連続3度目の頂点に登りつめた。安藤杯(最優秀ラインマン賞)には佼成のDL今熊力丸(2年)、三隅杯(最優秀バックス賞)には佼成のRB/LB森川竜偉(るい、3年)、敢闘賞には立命のQB庭山大空(2年)がそれぞれ選ばれた。

大劣勢にも、あきらめない目をしていた

佼成の出だしは最悪だった。立命に6プレーで80ydを攻めきられ、先制のタッチダウン(TD)を奪われた。立命が繰り出す特殊な隊形にアジャストできず、浮足立ってしまった。立命の事前の準備が佼成を上回った。0-7。さあ佼成の反撃かと思ったらスナップミスに続いてインターセプト。自陣31ydから攻められ、ランでジリジリ進まれる。最後はランと見せかけてのTDパスを通され、0-14。佼成の2度目の攻撃シリーズも実らず、しかもパントを大きくリターンされ、また自陣43ydから立命の攻撃がスタート。3プレー目にショベルパスを受けた立命RB関口温暉(はるき、2年)をタックルできず、30ydほどを走りきられてTD。0-21になった。佼成はこの日、エースRB三澤大地(3年)をけがで欠いていた。その不安の中での21点ものビハインド。佼成のサイドラインに重苦しいムードが漂ったように感じた。

「さすがに焦りました」と佼成の主将であるLB寺田暉(ひかる、3年)。その本音を押し殺し、ベンチで仲間たちに叫んだ。「いままでやってきたことを信じてやろう!」。日大フェニックス時代に2度も甲子園ボウル最優秀選手に輝いた小林孝至は選手たちを見渡して思った。「あきらめてる子が誰もいませんでした。みんなの目があきらめてなかったです」

戦力的には昨年がピークだった。ただ、今年の主将である寺田はがむしゃらさの塊のような男だ。体幹トレーニングにあてる朝練を週1回から3回に増やし、毎日の練習後に30ydダッシュを10本走った。春の関東大会を制し、寺田は「これで日本一を目指せるチームになった」と感じた。あるレギュラーの3年生はファーストチームに上がってきた下級生に自分の知識と技をすべて伝授するため、時間の許す限り寄り添った。寺田の「がむしゃらフットボール」がチーム全体に浸透し、勝利への執念では偉大な先輩たちを上回る集団へと成長していた。

さあ、0-21から反撃開始だ。QB山﨑誠太郎(3年)が次期主将に決まっているWR目黒歩偉(あい、2年)にパスを通し、自らのランでも21yd前進。中学から6年間一緒にやってきたRB三澤がいない不安をかき消すように、持てる力のすべてをぶつけ始めた。三澤の代わりに出たRB土屋天世(てんせい、2年)のランでゴール前へ迫ると、佼成の背番号6がフィールドへ入った。2年生まではRBとして活躍したが、この春ディフェンス強化のためにLBに転向した森川竜偉(3年)だ。LBになってからも、ゴール前限定の切り札ランナーとして起用されてきた。彼が3度続けてボールを持ってTD。7-21とした。次のオフェンスでファンブルしてしまい、立命にフィールドゴール(FG)による3点を加えられた。7-24。

攻守に大活躍だった森川

この次の佼成オフェンスが大きかった。自陣45ydから攻め、第4ダウン6ydも山﨑からWR豊田健人(3年)へのパスで乗り越え、前半残り4秒でゴール前4ydへ。ここで佼成はFGの3点でなくTDを狙いにいった。山﨑が右から中へ走り込んできたTE北川大智(1年)へ投げ込んでTD。14-24で試合を折り返した。

佼成の小林監督は「10点差で折り返せたのは大きかった。みんなに楽しんでる雰囲気が出てきましたから。あのTDがなかったら、ハーフタイムの雰囲気に響いたでしょうね」。主将の寺田も「ちょっとずつ返し始めて、チームとして流れができました。まだまだいけるな、という雰囲気になりました」と振り返る。

2年生RBは足を止めなかった

クリスマスボウル出場3度目の立命にも、初優勝への意地がある。第3クオーター(Q)、佼成の最初の攻撃をパントに追い込み、DL寺阪侑斗(3年)がこれをブロック。敵陣7ydからの攻撃となり、ラン2回でTD。ただトライフォーポイントのキックは佼成のDB山田悠護(3年)が飛び込んでブロック。佼成の執念は死んでいないと感じさせられた。14-30。第3Q11分すぎに立命がFGを決め、14-33で勝負の第4Qを迎えた。

第4Qに入ってすぐ、立命に大きなミスが出た。佼成のパントに対し、リターナーが転がるボールを無理に捕りにいってファンブル。佼成はゴール前7ydから攻撃続行となり、WR高野一馬(3年)が右オープンを走ってTD。トライフォーポイントの2点コンバージョンは失敗で20-33になった。残り時間は10分59秒ある。東京から大挙して駆けつけた佼成の応援団はお祭り騒ぎ。会場にも「これは、あるぞ」の雰囲気が出てきた。

RB土屋(右)が密集から飛び出してゲイン

その雰囲気にのまれたのか、立命オフェンスが反則を連発。簡単に攻撃権が佼成に渡った。自陣30ydからの攻撃だ。山﨑からのパスを受けた目黒のランアフターキャッチが光り、敵陣深くへ。

ゴール前13ydからの第2ダウン10ydで、この日の佼成を象徴するプレーが出た。山﨑からのショベルパスを受けたRB土屋がタックルされ、モール状態になる。立命ディフェンスには「ああ、止まった」と思ってプレーをやめる選手もいる中、この2年生RBは足を止めなかった。密集から飛び出してきて6ydをゲイン。追いかけるチームを勇気づける走りだった。彼のセカンドエフォートに、佼成の勝利への執念を見た。次のプレーは「必殺仕事人」森川が出てきてTD。スナップが乱れてキックは決まらなかったが、26-33と射程圏内にとらえた。

もう完全に流れは佼成に傾いた。立命はもう、あらがえない。流れをぶち破れる存在がいなかった。オフェンス最初のプレーでQB庭山がファンブル。佼成主将のLB寺田がボールを抑えた。敵陣31ydからの攻撃だ。押せ押せムードの中、佼成のオフェンスメンバーがフィールドへ入っていく。第4ダウン10ydのピンチも、山﨑が中央へ走り込んだ高野にパスを通して乗りきる。またもや森川が8ydのTDランで締めた。ついに33-33と追いついた。

試合残りは3分44秒。立命は第1QにTDとなった関口へのショベルパスを繰り出した。目の前に道が開き、駆けだした関口の目には、味方のOLが右手にいたLB森川をブロックにいったのが見えたはずだ。目の前の背番号7、DB野村馨(3年)との1対1をかわすことだけに集中した、その瞬間だった。OLのブロックをかわした森川がものすごいスピードで関口に飛び込んできた。森川の腕がボールに当たる。ファンブル! 野村がこのボールを拾い、走り出す。大歓声と悲鳴の混じり合う中、7番は右のサイドライン際を駆け抜け、TD。39-33。王者が試合をひっくり返した。勝利への執念に満ちた逆転ロードを走りきった。

勝ち越しのファンブルリターンTDを決めたDB野村(左)

立命の反撃を抑え、最後の佼成の攻撃。ニーダウンで時間をつぶすだけだ。けがで出られなかったエースRB三澤がフィールドへ。大応援団のカウントダウン。時計がゼロになった瞬間、みんなは思いっきり飛び上がって感情を爆発させた。けがの三澤も控え目にジャンプした。

第4Q、2度続けてのファンブルフォースは偶然でもなんでもない。佼成学園の面々は「止めるタックル」を目指してはいない。「ボールを奪うタックル」こそが正義だ。この1年は毎日のようにボールをパンチしたり、ランナーの腕にアタックしたり、各自がいろんな工夫をしながらボールを奪えるタックルを練習してきた。それが大一番の苦しい場面でしっかり出た。

高校アメフトは少年野球みたいなもの

自らも佼成アメフト部のOBである小林監督は日大で大活躍したあと、母校で教員となり、1994年に監督となった。「高校のアメフト部は、野球でいえば少年野球みたいなもの」という認識が指導の根底にある。「たくさんの子どもにとって、アメフトへの入り口になりますから、『毎日練習に行くのが楽しい』と思ってほしいんです。『フットボールがあるから、学校へ行くのが楽しい』って。だから、やりたいことをやらせてあげる。自分たちで決めさせる。僕らは、彼らの考えたことのその次を用意する。佼成でアメフトをやりたいという子たちが入ってきてくれて、アメフトを大好きなまま出ていく。退部者も出さずにやれてます」

試合後、笑顔で仲間に語りかける主将の寺田

主将の寺田は言った。「僕なんかほんとに何もすごいところなんかなくて、ただアメフトが好きで、勝つためにがむしゃらにやっただけです。第4Qのファンブルリカバーも、最後まで無我夢中でやってたら、僕の前にボールが転がってきました」。いや、本気でがむしゃらにやっている人の前にしかボールは転がってこないし、転がってきたとしても、中途半端な気持ちではボールをものにできない。それがフットボールだ。

寺田は来春、慶應大に進む。「偉そうに言うわけじゃないんですけど、こうやって3連覇して、少なからずほかの人と違う経験をしてきました。少しずつでもその経験を慶應のチームに還元して、大学でも日本一を目指したいです」

攻守に大活躍の「必殺仕事人」森川は明治大に進む。「最後にこんな試合ができて、めちゃうれしかったです。大学ではまたRBで走りたいと思ってます」

大阪の青空のもとみんなでチーム名「LOTUS」のLポーズ

アメフトが大好きなまま3連覇を果たした彼らの4years.が、早くも楽しみだ。

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