アメフト

小さくても、やれるよ 佼成学園高LB井上

関東地区決勝で果敢にタックルする井上

第49回全国高校選手権決勝・クリスマスボウル

12月24日@大阪・ヤンマーフィールド長居

立命館宇治(京都1位)vs 佼成学園(東京1位)

アメフトの高校日本一を決める「クリスマスボウル」が12月24日にある。3連覇のかかる佼成学園が立命館宇治と戦う。
来春から大学で4years.を過ごす3年生に面白い選手はいないかと、11月23日に東京・駒沢第二球技場であった関東地区の決勝へ取材に行った。佼成学園が25-3で慶應義塾(神奈川1位)に完勝した。3年生を見に行ったはずが、佼成ディフェンスのど真ん中にいる2年生に目を奪われた。守備第2列のLB(ラインバッカー)井上皓介。身長162cm、体重78kgと体格には恵まれないが、QBサックも決め、慶應にタッチダウンを許さなかった守備陣を必死で引っ張っていた。

兄の勇気がかっこよかった

井上はLBの中でも、真ん中に構えるMLB(ミドルラインバッカー)だ。佼成のMLBはサイドラインにいるコーチのブロックサインを読み、ほかの10人に伝える役割がある。今年から大役をつとめる井上は「周りのことも気にしないといけないので、最初は結構たいへんでした。セットの位置が間違ってる人に『そこじゃないよ』って言ってるうちに、自分の動き方を忘れてしまったりして。でも、いまは少し余裕ができて、コーチのサインの意図も分かってきました」と言って、柔らかい笑顔を振りまく。

小学校1年からフットボールを始めた。いま高校、大学に名選手を何人も出している富士通のフラッグフットボールチームの出身だ。4歳上の兄雄介が佼成学園でプレーしていた。いまも東京都市大でアメフトを続けていて、リーグのパンフレットによると身長158cm、体重66kg。大学3年の今シーズンはRBとLBを兼任した。その兄の背中を追って、弟は佼成へ入ってきた。「兄の高校時代に試合を見に行ったら、僕より小さい体で思い切り相手に突っ込んでいくんです。こわいだろうなと思いながら、かっこよかった。兄にできるなら僕にもできるって思って佼成に来ました」。ほんとに笑顔がいい。

井上の素顔は、格闘技のようなスポーツとは縁遠い感じがする

関学でプレーする先輩にあこがれて

「富士通のフラッグ出身なら1年から試合に出るもんだ」。佼成のチーム内にはそんな雰囲気があったという。だから井上も妙に必死だった。入って1カ月でポジションがLBに決まり、思ったのが「最悪だなあ」。そのときすでに体重は75kgあったが、さすがに相手のOL(オフェンスライン)には当たり勝てない。「フィジカルで勝てないなら、知識で勝つしかない」と思い至った。頼りにしたのが、2学年上のMLBだった赤倉航希だ。誰よりもフットボールの知識が深く、賢く守る先輩だった。夏合宿中はずっと一緒に練習のビデオを見てもらって、何から何まで教えてもらった。「試合の映像を見てると、赤倉さんはオフェンスのプレーを面白いように当てるんです」。いつか赤倉のやっているMLBになりたいと思うようになった。赤倉のおかげもあって、1年生ながらLBとして出場し、クリスマスボウルにも出た。自分より体の大きな人が向かってきても、がむしゃらにぶつかればこわくないことも分かった。

そして2年生になり、念願のMLBになった。相手のパスに対してゾーンカバーで下がるときは、ときどき足がもつれる。「去年は下がらなくていいポジションだったんで。下がるのは得意じゃないです……」。笑いながら、困った顔をした。

敬愛する2年先輩の赤倉は関西学院大に進み、ライスボウルへとシーズンがつながっている。1回生ながら少しずつ出番をもらっている赤倉を、井上はまぶしく見つめる。「僕がこんなこと言うのもおかしいですけど、赤倉さんは地味で目立たないんです。でも、やるべきことをしっかりやってるのが、めちゃくちゃかっこいいんです」

さあ、クリスマスボウルだ。「去年は緊張しなかったです。でも、今年はすると思います。でも、先輩たちはしっかりやってくれる。僕は自分の仕事をやってればいい。そこだけに集中します。活躍はしたいけど、目立ちたくないですね」。なかなか難しいことを言う。

身長は小学6年から、ほぼ変わっていない。「大不満ですよ~」と井上は笑う。それでも工夫次第でやっていける可能性がある。佼成学園の背番号32は、フットボールの面白さを体現してくれている。

小さくてもやれることを証明する日々

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