早稲田大RB安藤慶太郎 1試合5TDめざし激走 甲子園ボウルで関西の壁を越える
アメリカンフットボールの関東学生TOP8は10月27日に第6節があり、立教大学と早稲田大学が対戦した。ここまで4勝1敗同士で、前年も好勝負をした両チームにとって大事な試合で、ともにリーグを代表するRBを擁する点にも注目だった。ふたを開けてみると、終始主導権をとった早稲田がリード。後半に立教を突き放し、37-3で大勝を上げた。中でも活躍が目をひいたのが、3タッチダウン(TD)を稼いだRB安藤慶太郎(3年、早大学院)だった。
春に続き立教に完勝、昨年の借りを返す
第1クオーター(Q)3分、早稲田がQB八木義仁(4年、早大学院)からWR入江優佑(4年、関西大倉)に47ydのロングパスを通して敵陣へ。安藤がインサイドから外に展開し、敵に触れられることなく19ydを走り切って先制TDを決めた。立教は次のシリーズでフィールドゴール(FG)の3点を返したが、ここまで激走してきたRB星野真隆(4年、立教新座)が思うように走れずに勢いを取り返すには至らない。第2Qには早稲田が八木のランで攻め込み、入江にTDパスを決めて14-3で前半を終えた。
後半に入り、早稲田のパントスナップミスから立教は良いフィールドポジションを得たものの、得点につなげられずに足踏み。ここで早稲田は、再び安藤の37ydランで敵陣に進攻。FGにつなげて得点を重ねる。第3Qの終盤にはパントリターンでWR角井春樹(4年、早大学院)が47yd返すビッグプレー。敵陣深くからの攻撃権をつかむと、安藤が中央をついて2本目のTDを決めた。
安藤は次の攻撃シリーズでも18ydランでTDを追加。その後早稲田は、2本のFGで6点を加点して37-3で立教に完勝した。
早稲田は昨年、春秋とも立教に負けていた。今年は、春(32-7)に続いて秋にも立教に連勝し、やり返した。
3TD獲得で今季10本目 力強い走りっぷり
安藤の走りが際立った。迷いのないコース取りと走りで、チーム最多の3TDを稼いだ。エースの存在感はリーグ戦終盤にさしかかり、一層研ぎ澄まされている。
完勝の立役者となった一方で、本人は決して満足しているわけではない。強い責任感を抱きつつも、チーム全体のパフォーマンスを振り返って安藤が言う。「キック(パントとFG)で終わるシリーズが多かった点はもったいなかったですね。あくまで関西と戦うことを目標にしてるので、もっとやらないといけないと思います」。力強い走りっぷりに対して、冷静な語り口なのが意外だった。
試合のTDランを振り返ってもらった。「最初のはゾーンで、OLがLOS(Line Of Scrimmage)をきっちりブロックしてくれたので、抜けてからは自分の持ち味のスピードと得意な1対1で相手をかわして、いいイメージで走れました。2本目はパントリターンでフィールドポジションがよかったので、おまけで自分が取れたって感じですね。3つ目は中のギャップのランで、OLがきれいにブロックしてくれたので、かわすべき相手をかわして、走るだけでした」
無我夢中で、どれくらいの距離を走ったかは覚えていないという。「1試合で3本は初めてなので、それは良かったです。今のところ、今日でシーズン10本目です。ランのユニットみんなでとれたTDがこれだけあるのは、すごくうれしいですね」
そう言って、少し控えめに笑った。
法政に負け、スタンダードをゼロから見直し
前節の法政大学戦は関東の首位をかけた戦いだったが、13-16で負けた。この試合について安藤が言う。
「相手がどうのこうのという前に、自分たちがこれまで準備してきたものをフィールドで出しきれなかったという思いが強いです。いらないミスをしてしまって、いつもできてたことができなかった。前提の部分でこけてしまって、オフェンス全体が崩れてしまったような試合でした」
もちろん、相手がそうさせてくれなかったことや、全勝対決の緊張もあった。しかし自分自身で納得できるレベルをつくれなかったことが悔しかった。この2週間は、スタンダードをゼロから見直して徹底してやり直した。
「今日は、その部分では良い部分もあったかなと思います」。もちろん、現状に満足はしていない。
「大きな人に囲まれて」アメフトの道へ
親の仕事の都合でシンガポールで生まれ、海外生活が長かった。ずっとサッカーをしていて、帰国してからもクラブチームでプレーした。
高校受験に際し、最初は都立高校を受けるつもりだったが、通っていた塾が早慶受験に強みがある塾だったため、流れで早大学院を受験することに。受かったら「まあそのまま大学まで早稲田に行くのもアリかな」と考えが変わった。
早大学院でも、はじめはサッカーをつづけるつもりだった。「でも、入学後にロッカーを背に大きな人たちに囲まれて......」
アメフト部の体験会でFGを蹴って、入ったのが楽しかった。「Kの鎌田(凜太郎、24年卒)さんが、僕が登校する前に教室にきてくれていて『今日も来る?』ってすごく熱心に誘ってくれて。粘りに負けた感じだったんですが、入ったらすごく楽しかったです」
雰囲気は最高だった。「先輩たちはすごく人の良さが出ていて。アメフトを選んで良かったなと思います」
高校2年まではDBをして、3年になるとRBも掛け持ちするようになった。このときに、オフェンスでボールを持って走ることの楽しさを知ったという。
高校で思い出に残っている試合は、3年生の秋に関東大会で対戦した横浜栄高校との試合だ。「あの試合で僕、5TDとったんですよ。だから自分の中ではこれを大学でやりたいなと思っていて。さすがに5TDはあまり聞いたことないですし、それができれば試合にも勝てると思うので」。思い出になぞらえて、安藤は今の目標を話す。
大学2年でSFからRBに転向、東松コーチに学ぶ
大学1年まではSFの準1本目のような位置付けで、シチュエーションによっては先発で試合に出た。これはチームの事情によるところもあって、大学2年に上がるタイミングで、コーチに本来やりたかったRBへのコンバートを申し出た。それからは、今春卒業した花宮圭一郎と安村充生に次ぐ3番手のRBでやってきた。
今年になって、追い風もあった。RBコーチに東松瑛介さんが加入したことだ。日大三高、立命館大学、ノジマ相模原とあらゆるステージで活躍した東松さんに、RBに必要なスキルの多くを学んでいるという。
「東松さんが来てくれてなかったら、今日こんなに走れてないと思うくらい変わったと思っています。去年までは好き勝手に走ってたんですが、今年は東松さんに教えてもらっているTDまでの最短ルート、スピードを落とさない走りを常に意識してやっています。そのためにOLとのコミュニケーションや、POA(Point Of Attack)を大事にして踏み出すことを大事にしています」
去年までの「たまたま出ていたラン」から、「出るべくして出るラン」への変化を実感しているという。
高岡勝監督は、安藤の走りについてこう評価する。「意外性があるタイプで、10言ってそのまま遂行するのではなく、言ったことは8なんだけど12パフォーマンスする、というような感じなんです。そういう意味では、相手のディフェンスも守りにくいんじゃないかなと思いますね。うちのエースランナーとして十分な働きをしてくれてるので、けがなく頑張ってほしいです」
その口ぶりからは、大きな信頼と期待が伝わってくる。
甲子園で「背番号7」の先制TDの再現を
甲子園ボウルへと続く全国トーナメントへの出場が決まった。いま、安藤は何を思うのか。「春、関西大学と試合をして、関西との実力の違いを初めて肌で感じたんです。あの壁を越えていかないと甲子園へはいけないので、そこを勝ち切れるようにしっかりと準備していきます」
RBとして自信を持っているのは、スピードだ。「得意なトスプレーがあるんですが、それはスピードがあってこそ出るプレーなので。やっぱり自分の持ち味で勝負したいですね」
今年からは安藤が「エース番号」と話す、背番号7をつけている。この番号は2019年に卒業したRBの元山伊織さんがつけていた番号で、エース格のRBがつけるようになったのは彼からだ。この話を安藤にすると、こう返ってきた。
「もちろん知ってます。YouTubeでプレーを見たことがあって、『早稲田の7番すげーっ』てなったんです。直接話したこととかはないんですが、アイシールドがカッコよくて、もう動画からイケイケのRBってことが伝わってきて。カットがキレキレな走り方もいいなって思いました」
背格好やプレースタイルも自分に近いと感じ、意識するようになったという。そして続ける。
「でもこの話をすると、コーチからは、不必要なセレブレーションとかが多くてヤンチャだったから、ああいう風にはなってほしくないって言われるんですが......(苦笑)。そこは、見習わずに......(笑)」
あの時の7番は、甲子園ボウルで関西学院大学を相手に先制TDを決めた。今年の早稲田の7番は、それを再現できるか。