早稲田大・花宮圭一郎 持ち前の負けん気で、エースRBの座と甲子園ボウルつかむ
10月16日、アメリカンフットボールの関東学生TOP8は、一次リーグの最終節があり、早稲田大学と中央大学が対戦した。初戦の東京大学戦を落としたが、それ以降尻上がりに調子を上げている中央大が一時14点リード。あわやの感があったが、早稲田がRB花宮圭一郎(3年、足立学園)の2TDなどで追い上げ同点に持ち込み、延長タイブレークも花宮のTDランで制して、ブロック1位を決めた。
14点差追いつき、タイブレークも制す
今シーズン、早稲田は安定感のある戦いでリーグを勝ち進んできた。豊富なRB陣を入れ替えながらフレッシュな状態で進めるラン、QB国元孝凱(こうが、3年、早大学院)の投じるミドルパスの安定感が高かった。
しかしこの日は、ランこそコンスタントにゲインしながら、パスの精度が一歩かみ合わず、第3ダウンコンバージョンも成功率3割と低調。攻守の各プレーは早稲田が上回ったが、第1Qにハーフラインでファンブルロストして以降、厳しいフィールドポジションを強いられたのが苦戦の要因だ。ようやく敵陣に攻め込んだ第2Qは、第4ダウンギャンブル成功後にダウンをつなげられず、パントに追い込まれた。
一方の中央大は、時折決めるビッグゲインで効率良く進み、TDを先取。7点リードでゲームを折り返し、第3Qの5分すぎに追加点を上げて14点差に広げた。早稲田は今シーズン初めてのビハインド、それも2ポゼッション差を追うことになった。
流れを変えたのは、WRの佐久間優毅(4年、早稲田実)だった。春に大活躍した圧倒的存在感と比べると、リーグ戦では控えめだったが、第3Q中盤に36ydレシーブのロングゲインで敵陣へボールを進めた。仕上げは、後半からローテーションで登場した花宮。連続キャリーでエンドゾーンに押し込み、反撃の狼煙(のろし)を上げた。
早稲田は、FGで4点差にすると、次に回ってきた攻撃で、またも花宮が連続キャリーでボールを進める。そして33ydを走り切り、17-14と逆転した。
試合終了間際、中央大がパスで攻め込んだが、反則とロスで後退。FGで17-17の同点となり、延長タイブレークにもつれ込んだ。先攻の中央大がFGを外し、後攻の早稲田が花宮のTDランで試合を決めた。TOP8では、2017年以来5年ぶりのタイブレーク戦だった。
6キャリー68yd、3TD「花宮の日」
花宮の日だった。タッチダウンは全てを自分の足で稼いだ。現在、早稲田のRBは、3、4人のレギュラーメンバーをシリーズごとに回しており、前半は安村充生(みつき、3年、早稲田実)と萩原奎樹(けいじゅ、4年、早大学院)の2人が、後半は花宮と安村が入った。花宮は6回のキャリーで68yd走った。
「(キャッチアップでランが出ていた)状況もありますが、4Qに連続で持たせてもらえたのは、信頼されているようでうれしかった」と花宮はいう。逆転につなげたTDについては、「やっと全員が自信を持っていつも通りプレーできるようになってきて、ホッとしました」。ランとパスがかみ合いはじめた早稲田は、前半の不調を一気にまくった。
花宮にとってここまでは、決して順調な道のりではなかった。昨年は第2節の東大戦で先発したが、6回走って5ydしか稼げず。その後はけがで戦列から外れてくすぶった。今春もけがで出場機会がなく、秋初戦の横浜国立大戦で2TDを上げたが、拮抗(きっこう)したゲームという意味では、この日がデビュー戦みたいなものだった。一次リーグの最終戦で、存在感が光った。
「文武両道」にあこがれ猛勉強
足立学園出身の花宮は、高校の1学年先輩にあたる永山開一(かいいち、昨年度主将)の熱心な誘いを受けて、早稲田を目指し始めた。永山は一般受験で現役合格し、文武両道を体現していた。花宮は同期でQBだった石原とともに早大を目指したが、石原は合格したものの、花宮は不合格に。
「心では早稲田を目指していたんですが、あまりにも成績が悪くて、周りにはあまり言える状況じゃなかったんです」。勉強をほとんどせず部活専門だった花宮は、現役時に受けた模試で偏差値30台を出したこともあった。浪人時の秋には偏差値50くらいまでは持ってきたが、早稲田大の合格ラインには、まだまだ足りない。入試直前の冬の話だ。「睡眠時間を3時間ほどに抑えて、SNSも全て断ちました。睡眠不足は頭が働かないと言いますが、非常識なことでもしないとひっくり返せないと...」。目が開いているうちは、ずっと世界史や英単語、古文単語の暗記をしていたという。「結果的に受かったのでよかったんですが、反省として、今は計画性を大事にしています」と苦笑い。1浪を経て早大合格を勝ち取った。
「現役のときも浪人時も、早稲田しか受けてないようなもんでした。それくらい早稲田のフットボールに憧れがありました」。同期がアメフトに明け暮れる中、寝ずに勉強をしたからこそ、いま一緒にプレーできる状況がうれしくて楽しくて仕方がない。
早稲田大ビッグベアーズの魅力については、「スポーツ推薦がない中で、一般受験や他競技出身者を含めてチームをつくり上げ、リーグのトップで戦ってる。まさに『文武両道』でカッコいい」と話す。憧れのビッグベアーズで3年目。自分が勝たせたゲーム後の表情は、スッキリと明るい。
背番号「25」、選手も観客も鼓舞する
早稲田には今季、エースRBが居ない。安村、萩原、田村(光、4年、城北)、花宮らが日々の練習で競い合い、その週に出来がよかった順番で試合の出番を決めている。花宮は、これからはじまる二次リーグを前に、ここから抜け出す気概を持っている。
RBとしてこれだけは負けないという売りは、「自分で決めたことをやり切ること」。昨年卒業し、現在RBコーチを務める吉澤祥さんも太鼓判を押す「負けん気」がある。「小さい勝負事にもこだわって、負けたくないと思って全力で取り組める。気持ちとかみ合ったときの爆発力がありますね。以前はムラがあったんですが、そこもコントロールできるようになってきたなと感じます」。吉澤の花宮に対する評価だ。
今年は、昨年エースだった吉澤さんの背番号25を着けることになった。「もともと高校でも25だったんですが、祥さんへの憧れの意味合いの方が大きいです」と花宮。吉澤さんも、「自分とタイプが似ているので、教えがいがあります」と後輩の活躍に期待をかける。
二次リーグ初戦は10月30日、立教が相手だ。花宮は「観客や選手を鼓舞できるような熱いプレー」で、早稲田として3年ぶり、自身初の甲子園ボウルを目指す。