アメフト

特集:第77回甲子園ボウル

甲子園ボウル3度出場の元早稲田大RB元山伊織さん 関学に勝つために必要なこと

2018年ビッグベアーズのRB同期、電通キャタピラーズで活躍する片岡遼也さんと(撮影・北川直樹)

2019年以来3年ぶりに全日本大学選手権・甲子園ボウル出場を決めた早稲田大学。早稲田は前回、前々回(2018年)出場時と同様に、関西学院大学と対戦する。2018年の甲子園ボウルでエースRBとして活躍した元山伊織さんに、ご自身の経験とライバル関学への思いを話してもらい、現役選手に向けたアドバイスとエールを聞きました。

第73回甲子園ボウル(2018年12月16日@阪神甲子園球場)
関西学院大学37-20早稲田大学

第1Q、関学がRB中村のTDで先制。早稲田はRB元山のランで同点に追いつくが、関学K安藤が2本のFG、主将QB光藤のラン、RB三宅の独走で得点を重ねて27-7で前半を折り返す。後半も関学が得点を重ねて一時27点差まで開くが、早稲田QB柴崎がWR遠藤にロングパスを決めて追う展開。第4Qに関学がFG、早稲田は再び遠藤へのTDパスを決めて37-20でゲーム終了となった。

元山さんの関学に対する思い

僕の場合は、豊中高校3年春の関西大会で関学に14-21の1本差で負けたことから始まります。大学では甲子園ボウルの舞台で関学を倒したかったので、関西の大学ではなく関東の早稲田に進みました。

関学は個人的にすごく因縁を感じている相手で、今でも夢に出てくるくらいです。夢の内容は甲子園ボウルそのものではなく、直前1週間ごろのグラウンド練習のことが多いです。その辺に何か後悔があるんだろうな、というのが正直なところです。

社会人では2020年の1シーズンだけIBM BIGBLUEでプレーした

甲子園ボウルには3度 関学とは2度対戦

1年のときは、2010年以来5年ぶりに早稲田が甲子園へ行った年で、相手は立命館でした。早稲田としては非常に戦力が整っていた年でしたが、自分はまだチームに貢献できるレベルにはなく、ただただ先輩たちの雄姿を見ているという感じで。リーグ戦では少しRBとして出ましたが、甲子園ボウルの思い出と言えるほどのものは正直なかったです。

2年のときはリーグ戦で接戦が多く、法政、慶應と三つどもえになったシーズンでした。序盤から厳しい試合が多かったので出番は少なかったんですが、1本目の先輩2人が満身創痍(そうい)だったこともあり、関学と対戦した甲子園ボウルでは、RBの序列で4番目の自分にも出番が回ってくるんじゃないかとワクワクしていたのを覚えています。試合展開は終始関学のペース、まさに「横綱相撲」という感じで、隙を見せてくれなかったなという印象です。試合はキックオフカバーで出場することができました。実際に当たる関学の選手は、ビデオで見てるよりも一回り大きいなという印象でした。体幹がしっかりしてるという感じで、関東のチームにはないファンダメンタルでしたね。

3年時は日大に負けて出られず、4年で再び関学と対戦しました。オフェンスリーダーをしていたこともあって、1年間がとても濃く印象に残っています。それまで早稲田はディフェンスが強いチームだったんですが、4年はオフェンスで勝ち上がってきた、という自負もありました。RBの中村多聞コーチ(当時)の厳しい練習で心身が鍛えられていて、「ここで勝たないと何のために生きてるんや」くらいの感覚がありました。実際、甲子園の土を踏むときの瞬間の気持ちも1、2年時とは全然違いましたし、強い気持ちがありました。

4年の甲子園ボウル。第1Qには触れられずに関学守備を切り裂いたが...

あとは関東決勝のあとに4years.で「関学を切り裂いて勝つ」って大口たたいたこともあって、実行しないとダサいなと(笑)。イメージとして、カメラの位置なんかも確認してました。タッチダウンを決めたらどこへ行けば目立つかとか。

俺が切り裂く、俺が勝たせる 早大RB元山

試合自体は、やりたいことをさせてもらえずストレスを感じたなという記憶が強く残っています。自分はゾーンプレーでディフェンスにゆがみを作ってカットなりで走路を開いていくのが得意だったんですが、関学の守備は個の選手が出しゃばらないので、ゆがみができないんです。全員がおのおのに割り当てられたレスポンスをしっかり守る。そんな中でしっかり3ydなりをコンスタントに出してダメージを与えていくことが大事なんですが、そこがうまくできなかったなという感じでした。

関学との間には、プレー終了時の「やりきり」に差を感じた

大事なのは、観客席から見て「止まった」と見えるプレーであっても、関学にダメージを細かく与えて蓄積させていくことだと思います。そのためにRBはとにかく最後まで突っ込んで、OLはグラブホールドで押し切る、WRはストークをやり切る。とにかく最後まで押す。これを続けることが大事です。

関学の怖さは「戦術」「集中力」「後半」

関学はとにかく戦術がしっかりしてるという印象です。僕のイメージでは、関学はもう何十年も同じベースのフットボールをしているなと。戦術に裏打ちされた強さがあって、選手が全員それをしっかり信じてる。だから統率された軍隊のように目の前のことに集中できる。その背景には、頭脳的な強さがあると思います。

あとは、試合中の感情の起伏がすごく少ないです。例えば立命や早稲田の選手なんかはフットボールを楽しみながらって感じなんですが、関学の場合は彼らが得点しても、こちらがQBサックなんかを決めても「やったったぞ!」とか「やられた!」みたいな感じが一切なく、目の前のことに集中して安定してる感じです。聞いた話だと、試合中はスコアボードを見るなって言われてるらしく、余計なことは一切考えてないイメージですね。

低さ、しつこさの差が積み重なったと振り返る

そしてこれが重要なんですが、関学は後半がメチャクチャ強いんですよ。前半で相手を見切るんでしょうね。序盤で相手に気持ち良いプレーをさせておいて、後半全部アジャストしてきてバチッと止めてくる感じです。立命も関大もそれで毎年やられてるように思います。なので、関学に勝つとしたら前半でとにかくやり切ってたたき切ること。まあこれが難しいんですが。

関学に勝つチームっていうのは、関学のスカウティングの期待値を上回れる選手がいる時ですよね。15年の西村七斗選手(立命館大卒、現・オービック)や、17年の林大希選手(日大卒)がそれだったのかなと。そこでいうと、僕自身は関学のスカウティングの範囲内のパフォーマンスしかできなかったんです。そこは自分でもはっきりと自覚していますね。

自分と早稲田に足りなかったもの

負けたんで色々あるんですが、一番はフットボールにかける時間と意識の差かなと思いました。僕は関西出身なので交流なんかもあったりして見聞きしてるんですが、日常生活においてアメフトのことを考えてる時間が、彼らの方が圧倒的に長いという風に感じました。

関学はアメフトが好きな選手が集まってるってのもあると思いますし、早稲田は未経験の選手も多く、割とリベラルな雰囲気がチームにあるんです。彼らと比べたときに、アメフトにかける時間、意識、どれだけアメフトが好きかって部分に差があるような気がしています。

甲子園で大歓声につつまれ、すこし浮ついてしまったのが反省だ

あとは、月並みなことばですが「根性」ですかね。アメフトってコンタクトスポーツなんで、どっちかが先にプレーをやめるってとこが顕著に出ると思うんです。甲子園ボウルで感じたのは、「相手の方が最後までやり切ってるな」という瞬間が多かったことです。笛が鳴ってこっちの選手がプレーをやめても、向こうが押しててその流れで終わるみたいな感じです。1プレーだとなんともないんですが、これが積み重なるとこっちの心身にそれが蓄積してくるんです。「また出なかった、やられた」みたいな感じですね。そこの執念の違いが大きな差として出た感じはあったのかなと思います。

甲子園前と、甲子園後の感覚

4年のときはアメフトに全てをかけて、各パートを信頼して、早稲田の歴史の中でも勝てるなら今しかないくらいの気持ちがあったんです。でもいざ負けてしまって、やる前は完璧な状態だったはずなのにめちゃくちゃ悔いが残りました。「あのときこうしてれば」みたいなのがたくさん出てきました。とにかく、自分だけじゃなく全員が東伏見のグラウンドに何も残してこないってのが一番大事だなと思います。

ひとつ個人として気付いたことは、自分がオフェンスリーダーをしていたことで、そこしか見られてなかったのかなという気付きがありました。練習内容や時間、取り組みなど色々変えたつもりでしたが、4年生としてチーム全体をもっと俯瞰(ふかん)的に見られてれば、他にも何か変えられたのかもと。もっと頭を使って工夫できることがあったんじゃないかって。

今の学生はコロナ禍ということもあって規制も多く大変だと思いますが、「コロナだから、オンラインだから」とならず、みんなでアイデアを出し合ったりして最大限の工夫をこらしてやり切ってほしいです。

甲子園という場所の独特さ

やっぱり地鳴りのような歓声とどよめきですね。第1QにOLの完璧なブロックもあり、誰にも触られずにアウトサイドゾーンでTDをとったんですが、自分でも予想してなかったくらいの歓声が起こって気持ちよくなっちゃったんです。あれは醍醐(だいご)味でもありつつ、落とし穴でもあると思いました。あれで浮ついてしまって調子が狂ったというのは正直あります。喜び過ぎてしまい、コーチからは「お前のあれのせいで負けた」と今でもいじられますね。

甲子園球場は関東の常設会場にはない天然芝だ。しっかりと事前練習で確認を!

あとは甲子園は関東の多くの会場とは異なり、天然芝です。ここ数年は早慶戦(会場は天然芝の駒沢陸上競技場)が行われてないこともあり、現役選手はあまり天然芝でプレーする機会がなかったかと思います。当たり前のことですが芝の状況も事前練習で抜かりなくチェックして、当日の自分の走りをイメージしてください。

RBの後輩たちへ

先日練習に行き実際に話をして、今の現役の子たちは良い意味で一喜一憂しない安定した心を持ってるなと感じました。甲子園はそれぞれがもっとわがままになって良いのかなと思います。チームうんぬんよりも、自分が勝たせる、エンドゾーンまで持っていくっていう気持ちを、どれだけ高いレベルで最後まで持ち続けられるかが大事だなと。絶対的なエースがいないなかで、自分が活躍する、自分がチームを勝たせるという強い気持ちを持ってほしいです。

その先に何が待ってるかっていうビジョンも強く持っておいてほしいです。僕の場合は、試合に勝って、インタビューで何を話すのかってとこまで事前に考えていました。家族やコーチ陣への感謝なんかも用意していました。彼らにはそういったことも考えつつ、目の前のことに一生懸命になってほしいなと思います。頑張ってください!

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