アメフト

周到な準備でアクシデントも乗り越えた関西学院大が関西大に快勝し、61度目のリーグV

昨年の4年生たちの思いも背負い、関学のRB伊丹は気迫を前面に出して走った(13枚目以外はすべて撮影・北川直樹)

関西学生アメリカンフットボールリーグ1部第6節

10月26日@東大阪市花園ラグビー場
関西学院大学(6勝)31-15 関西大学(4勝2敗)
(第1クオーターから7-3、10-3、7-2、7-7)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は10月26日、5戦全勝の関西学院大学ファイターズと4勝1敗の関西大学カイザーズが東大阪市花園ラグビー場に8200人の観衆を集めて対戦し、31-15で関西学院大が勝って4年連続61度目のリーグ優勝(2020年はコロナ禍でトーナメント形式だったため関西学連はカウントしていない)と全日本大学選手権進出を決めた。11月10日の立命館大学戦に勝つか引き分ければ単独優勝、負ければ同率優勝となる。2敗目の関大は自力での選手権出場がなくなった。関学は昨年の春、秋ともに敗れた関関戦で、いくつもの周到な準備を実らせた。

関学QB星野秀太が6プレー目で負傷退場

決戦の舞台はラグビーの聖地、東大阪市花園ラグビー場第1グラウンド。選手のことを一番に考えて育てられたという天然芝は、少し長めだ。試合開始のコイントスで、勝った関大が後半をチョイス。前半はディフェンスからのスタートになった。前節の立命館大戦とは違ったスタンスは、関大のディフェンスへの信頼が厚くなった証しだったのか。

関学は今シーズン初めてエースQB星野秀太(3年、足立学園)を先発で送り出した。最初のプレー、左のウィングから右へモーションしたTE(タイトエンド)安藤柊太(4年、関西学院)がフラットに出るとフリーに。星野がポイッと投げ、捕った安藤は相手のタックルをはじいて右サイドライン際を24ydのゲイン。上々の出だしだ。「一昨日ぐらいに僕のパスで始まることになって、昨日からめっちゃ緊張しました。捕ったら思ったより開いてました」。安藤は満面の笑みで振り返った。今シーズンここまでわずか2キャッチの安藤が、この日の関学オフェンスを渋く支えることになる。

「秘密兵器」TE安藤(91番)へのパスで関学オフェンスの幕が開けた

2度攻撃権を更新しての第3ダウン6yd。パスに出た星野が投げられず、走る。最後は無理をせず、タックルされるのを避けるためにスライディング。このときスパイクが花園の芝に引っかかった。星野は立ち上がれない。待ちに待った先発出場で、わずか6プレー目に大きすぎる不運が星野を襲った。昨秋に続いての関大戦途中退場だ。担架に乗せられてサイドラインへ戻ったあと、病院へ向かった。昨年は無理にゲインしようとして負傷。だからこそのスライディングだったが、こんなことになってしまった。

第4ダウン2yd。キッカー大西悠太(3年、関西学院)が38ydのフィールドゴール(FG)を右に外す。エースQBを失い、先制のチャンスも逃す。関学にとって嫌な立ち上がりとなった。

リーグ6戦目にして初の先発出場を果たした関学QB星野秀太だったが、6プレーでフィールドを去った

嫌な雰囲気を断ったディフェンス

たたみかけたい関大オフェンスだったが、関学ディフェンスがそれを許さない。第3ダウン3ydで中央付近のランに出たが、関学DL(ディフェンスライン)川村匠史(4年、清風)とLB(ラインバッカー)永井励キャプテン(4年、関西大倉)がタックル。一度も攻撃権を更新させなかった。

2度目の関学オフェンス。19番が入ってきた。負傷退場した星野の弟・太吾(だいご、1年、足立学園)だ。「こんなに早くとは思ってなかったんですけど、(部歌の)『FIGHT ON(, KWANSEI)』を歌ったときには腹をくくって、いつ出てもいいようにとは思ってました」と弟。弟の入学以来、兄は自身がけがを抱えていたこともあり、弟を早く一人前にしようと育ててきた。夜に下宿に戻ってからもお互いの部屋を行き来して「QB教室」が続いた。関学にとって、これこそが最大の準備だったのかもしれない。弟は春の終盤には独り立ちし、秋も前節まで5試合に先発出場してきた。

関学のTE安藤(91番)が相手DLにトラップブロックを見舞い、後ろをRB伊丹が駆け抜けた

第1ダウン10yd。ランだ。TE安藤が右のウィングの位置から勢いをつけ、ライン戦の真ん中にいる体重138kgの関大DL芦川真央(4年、大阪桐蔭)を横からはじき出すようにブロック。安藤の背中をエースRB伊丹翔栄(4年、追手門学院)が駆け抜けた。追いすがる2人の足元へのタックルをかわすと右へ。その先ではWR(ワイドレシーバー)の小段天響(2年、大産大附)が高校からの盟友である関大DB吉田優太(2年、大産大附)をしつこくブロックしていて、27ydのゲインとなった。星野弟は「不安もあったけど、あれで一気にゲインしてホッとしました」と話した。伊丹は「太吾が出るんで、ランでまずフレッシュを取っていきたかった。1年生のQBに背負わせたくなかったんで」と振り返った。

大きなミスなくやりきった関学QB星野太吾。「兄が教えてくれなかったらここまで成長できなかった。感謝しています」

第3ダウン4ydは星野弟が得意のスクランブルから30ydゲインしてゴール前へ。最後はRB澤井尋(4年、関西学院)が飛び込んで先制のタッチダウン(TD)。7-0とした。

決まらなかった関大のTDパス

続く2度目の関大オフェンス。ボールは左ハッシュ。QB須田啓太キャプテン(4年、関大一)は右へ単騎で出たWR岡本圭介(4年、関大一)が関学DB岩本航輝(4年、関西学院)をタテに抜いているのを見て右腕を振り下ろす。柔らかくキャッチして41ydのゲイン。この1プレー後にサイドラインへ戻ってきた岩本は仲間から「どうなった」と聞かれ、「まったく聞こえへん」と返した。関大が攻撃権を更新して第3ダウン4yd。須田はエンドゾーン左へ走り込んだ岡本へのTDパスを狙う。岡本はフリーになっていたが、ボールが高くて失敗。キッカー中井慎之祐(3年、関大高等部)が34ydのFGを蹴り込み、7-3となった。

関大QB須田のパスは50%の成功率に終わった

3度目の関学オフェンス。第3ダウン2ydでQBに4年生の林孝亮(関西学院)が入った。林は左からモーションしてきた伊丹に渡すフェイクをして、自ら右へ突っ込んだ。6ydのゲインで攻撃権更新。林はサイドラインに戻るとすぐにヘッドセットを着け、普段の役割に戻った。第2クオーターに入り、関学は大西が45ydのFGを決めて10-3とした。

関大は3度目のオフェンスで須田がWR溝口駿斗(4年、滝川)へ28ydのパスを決め、ゴール前へ。そして第3ダウン6yd、パスプロテクションは十分に持ったがレシーバーがフリーになれず、パス失敗。中井が26ydのFGを決めて10-6としたが、立命館大戦と違って攻めきれないもどかしさが蓄積されていった。

関大WR溝口は9キャッチで157ydのゲイン。ただゲームチェンジャーにはなれなかった

続く関学オフェンス。星野弟のランで攻撃権を更新しての第2ダウン7yd。狭い右サイドに人数を増やし、その右へのパワープレー。OLとTEのブロックが完璧で、RB伊丹が駆け抜ける。40ydゲインでゴール前17ydに迫ると、TE安藤がパスプロをしてからディレイでタテへ。星野弟がビシッと決める。最後は再びRB澤井が持ってTD。17-6とした。

関学ディフェンスはDB城島壮汰(1年、啓明学院)が鋭いブリッツでQBサック。前半最後のヘイルメアリーのパスも、この日スタメンのDB豊野桂也(1年、啓明学院)が奪う。校歌「空の翼」の歌詞にある「若きは力ぞ」の言葉を思い出させるルーキーの躍動で、前半をそのまま終えた。

OLの粘りとRBの機転が生んだロングゲイン

ハーフタイムに入るときのハドルで、関大キャプテンの須田は「いける。ええ顔してやろう」と呼びかけた。関学の星野弟はマネージャーから、兄が腕に着けていた三つのシリコンバンドと、「あとは任せたぞ」の伝言を受け取った。

後半は関大オフェンスから。いきなり反則で罰退し、攻撃権を更新できずにパント。副キャプテン金森陽太朗(4年、南山)のナイスパントで関学を自陣3ydに追いやった。関学は2度続けて伊丹に託すが進まない。第3ダウン10ydでも伊丹が中央付近を突いて、団子状態になった。しかし関学のエースランナーは、これでは終わらない。左に壁ができているのを見逃さなかった。バウンスバックして駆け出すと、広大なスペースが広がっていた。27ydのゲインで攻撃権更新だ。「(左タックルの)近藤が押し込んでるのが見えたんで、思いきって外を走ったろうと思いました」。伊丹は右手を大きく振り上げ、「ファーストダウン」のジェスチャーで喜びを表した。

第3クオーター、自陣3ydから大きくゲインした関学RB伊丹

伊丹がもとの位置でタックルされていればパントとなり、関大オフェンスに絶好のフィールドポジションを渡していた可能性がある。OLが入学以来徹底してきた「フィニッシュ」とエースRBの機転が関学オフェンスを生き返らせた。このシリーズは星野弟からWR五十嵐太郎(3年、関西学院)への27ydTDパスで結実。9プレーで97ydを攻めきり、24-6と関大を突き放した。

五十嵐へのTDパスにも関学のしたたかさが詰まっていた。直前の3プレーは狭い左サイドに人数を増やしてのランを続けた。ひとり右に開いたレシーバーはプレーサイドにブロックにいく動きを繰り返した。そして、五十嵐がその動きから反転して右へルートを取ると、DBはついてこられない。星野弟が奥に投げすぎて頭越しの極めて難しいボールになったが、冷静さが信条の五十嵐は両腕を柔らかく使ってキャッチした。

技ありのTDパスキャッチにガッツポーズの関学WR五十嵐

関大は次のオフェンスでも攻めきれず、またも金森がナイスパント。今度は敵陣2ydに押し込めた。そして最初のランプレーに対し、関大の副キャプテンであるDL森本祥希(4年、関大一)がエンドゾーンでタックルしてセイフティー。この試合でようやくけがから復帰したディフェンスリーダーの魂のタックルに、関大サイドが沸き立った。24-8。このあと関学が1TDを加え、関大がこの日初のTDを決めたが遅すぎた。31-15で関学が勝った。

夏から進めてきた準備を実らせた

関学は夏合宿から関大戦用、立命戦用のプレーを練習し始める。関大戦用のプレーには、TE安藤の絡むものが多かった。今シーズンこれまでほとんど活躍のなかった安藤は「関大戦は俺のパス来るぞ」と思いながら過ごしていたという。関学のお家芸でもあるショベルパスの受け手にもなり、3回のキャッチで39yd。そして数々のナイスブロックでもファイターズを支えた。自分より40kgほど重いDLをトラップにいくプレーのために、チームメイトのOL紅本隆成(3年、関西学院)に練習台になってもらい、毎日のようにぶち当たってきた。

関学TE安藤の父は、かつて関学のエースRBだった勝康さん。父にも胸を張れる活躍だった

4年生QBの林は第3ダウンショートでフィールドに入り、2度走って2度とも攻撃権を更新した。夏に入る前、QBの1、2番手は星野兄弟でいくという方針が決まった。「それなら自分のできることを最大限にやろうと。自分の武器は何かをもう一回考えて、足腰の強さだけは誰にも負けないと思いました」。その日から、関学で「タイヤ」と呼ばれる練習を繰り返した。2つのタイヤのすき間を、タイヤに当たりながら走り抜ける。「自分のプレーがほしかった」と林。コーチはその思いに応え、ビッグゲームで出番を用意した。大村和輝監督は「相手が分かってても通してこいってことで練習してたんで、取れてよかったと思います」。関学高等部時代はエースQBだった林は「4回生のQBだからやるっていうんじゃなく、一人の選手としてチームにもっと貢献できるようにやっていきます」と笑顔で話した。

春に関学を卒業したばかりのOBが観戦後に言っていた。「関学ってこんなに強いんですね。現役のときは不安しかなかったんですけど、外から見たらめちゃくちゃ強い。とんでもないチームなんですね」

関学は4年生のチームと言われる。QB林(10番)のひたむきな取り組みも関大へのリベンジを支えた

今日でネタ全部出した、また考えないと

関西学院大学・大村和輝監督の話
準備したことが前までよりはちゃんとグラウンドで実行できるようになってきたのが勝因だと思います。星野兄が早い段階でプレーできなくなったんですけど、弟の太吾が春の後半からずっとスターターを張ってやってきてたんで、彼も落ち着いてやりましたし、ベンチも慌てることなくやってました。去年はランを止められてるんで、やっぱり出るランを試行錯誤しながらやって、出たのはよかったです。前半はうまくパスを散らしてたんで、それもよかったかなと思います。OLは今日はよかったんですけどね、まだだいぶやらかしてるんですよ。うそー、っていうのが何プレーかあるんで、それをなくしてもらわないと。まだまだよくなると思います。

安藤はパスの練習ばっかりしてるんですよ。キャッチングがすごくいいんです。ウチのオフェンスのTEとかRBの使い方がここ最近はあんまりよくなかったんで、捕れるんやったら投げていこうかという感じで使いました。今日のために置いてたという部分も若干はあります。でも今日でネタ全部出したんで、また考えないとダメですね。何もないです。

DLは頑張ってましたよ。去年から両エンドが抜けて、だいぶ迫力がないフロントになってるんですけど、ランプレーはちゃんと止めてますし、パシュートもちゃんとできてますし、よくやってると思います。DBはタックルがね、まだまだ。どうしても飛び込んでしまうんで、あそこは練習しないと。

関学の大村監督は大一番で壁を破ったDL陣をたたえた

去年と同じ思いをしたくなかった

関学RB伊丹翔栄の話(16回162yd、1TD)
ホッとしました。校歌を歌ってるときにウルッときたんですけど、まだ通過点なんでみんなの前では泣かんとこうと思って。でも、去年関大に負けて卒業した先輩のこととか考えてたら泣いてしまいました。去年は負けて帰って、家で一人になってから「止められたな」と思って、すごく悔しくて。去年と同じ思いをしたくなかったし、先輩の借りも返したかったので、そこはよかったかなと思います。

ずっと先輩の前田公昭さんを目指してやってきましたけど、もうここまできたら前田さんのようなランというよりは、自分にできることを精いっぱいやろうと思って。前田公昭さんというよりは、僕というランナーで今年は勝ちたいので、自分のよさを出せたかなと思います。

気持ちの部分で誰にも負けたくなくて、1枚目と2枚目で伊丹と澤井あるんですけど、正直僕が僕がという気持ちが強くて、澤井にも負けたくないですし、勝負どころは全部僕が持っていきたいと思ってて。気持ちで誰にも負けてないのが自分のいいところかなと思います。

関学RB伊丹は誰よりもアツい男だ(撮影・篠原大輔)

僕らの準備を一枚上回られた

関大QB須田啓太キャプテンの話
関大らしいフットボールをさせてもらえなかったです。関学さんの強さを感じた試合でした。用意してたことを出す前にやられた感じですし、出したときにOLは持ってるのに奥があいてないとか、奥があいてるのにOLが持ってないとか、OLもレシーバーも完璧なのに僕がミスったりとか。歯車がかみ合わずそのままいってしまったなってのがありますし、その責任は僕なのかなと強く感じてます。

立命戦に勝ったあと、みんな切り替えてくれました。関学に向けて油断せずにやってくれてたので、僕も厳しいことを言い続けてましたし、オフェンスリーダーの岡本もディフェンスリーダーの森本も、キッキングリーダーの寺田もすごく厳しいことを言い続けて、4回生中心に関学に向けていい雰囲気で練習できてたんで、それを勝利につなげられなかった僕の責任なんで、そこはみんなに申し訳ないなと思ってます。油断せずに準備してくれてたからこそ、とくに思うっすね。

力を出す前につぶされたというのがあって、プレッシャーのかけ方だったりだとか、よく研究されてましたし、僕らも準備してたんですけど、それを一枚上回られた感じですね。そこに関学の強さがあるのかなと思いました。

ここで「もうええわ」ってやめるのか、「これだけはやろう」と貫いてきたものを最後の京大戦までやって、チームとして成長して終わるのかどうかは4回生次第だし、どうせやるならカッコいい終わり方しようぜという話をしました。何とかモチベーションを保って、前を向いて、突き進んでいかないと、運も転がってこないと思うので。どうせやるなら自分たちがやりたいことを最後まで貫こうという話をしました。最速11月9日で引退なんで。厳しい現実ですけど、それが勝負の世界なんで。自分たちがコントロールできる範囲内で120%頑張りたいなってのがいまの気持ちです。

星野(秀太)君なりにチームのことを考えてスライディングの選択をしたはずです。そこが去年からの成長だと思うんですけど、かわいそうやなと思いましたし、自分もスライディングするつもりでいたので他人事じゃないなと思いました。

関大QB須田がキャプテンとして作ってきたカイザーズは全日本大学選手権へ生き残れるか

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