アメフト

大けがから帰ってきたテンキョウ、謙虚に1プレーに集中 関西学院大学WR小段天響

リーグ戦2試合で5キャッチ121ydで1タッチダウンの関西学院大学WR小段天響(撮影・篠原大輔)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は9月21、22日に第3節を迎える。甲子園ボウル7連覇を狙う関西学院大学ファイターズには、この秋の初戦から頼もしいWR(ワイドレシーバー)が戻ってきた。昨秋の京都大学戦で大けがを負い、戦列を離れていた小段天響(こだん・てんきょう、2年、大産大附)だ。桃山学院大学、大阪大学との戦いで5キャッチ121yd、1TD(タッチダウン)。帰ってきたテンキョウがKGのワイドユニットを引っ張る。

「もう、幸せでした。アメフトができて」

関学のリーグ初戦となった9月3日の桃山学院大戦。この日2度目のオフェンスで、2024年秋の関学最初のパスがルーキーQB星野太吾(だいご、足立学園)の右腕から放たれた。小段天響は右のナンバーツーレシーバーからタテに10yd走って右へ。体の向きとは逆に来るターンボールになったが、体をひねってキャッチ。16ydのゲインだ。タックルを受けて倒れ、立ち上がるとき、フェイスガード越しに彼の笑顔がはっきり見えた。「もう、幸せでした。アメフトができて、試合できてるのが幸せで。ショートパスだったんですけど、うれしかったです」。テンキョウが昨年10月28日以来、311日ぶりに戦いの場へと戻ってきた。

小学1年生からの経験値が小段を支える(撮影・篠原大輔)

次のシリーズでは星野と息の合ったところを見せた。ハーフライン付近で第3ダウン残り9yd、ボールは左ハッシュ。小段は右のナンバーツーから外へ。右ポケットからのパスだったが、星野は最初のタイミングでは放れず、相手のラッシュをかわして右オープンへ出た。小段はフリーになっていたが、さらに右のサイドライン際を奥へと駆け上がった。星野はその先へパスを投じ、小段がゴール前20yd付近でキャッチ。相手につかまりそうになりながら、エンドゾーンに駆け込んだ。311日ぶりのTDだ。

「試合前にたまたま太吾と『スクランブルで(TD)取りたいな。奥行ってバーンって決まったら最高やな』って話してたんです。プレーが崩れて目が合ったときに『ここで捕ってもサイドライン出て終わりやな』と思って。がめつく奥に行ったら気づいてくれるかなと思ったら、太吾はちょっと待って奥に投げてくれた。太吾のおかげで取れたタッチダウンです」。そんな会心のTDにも、テンキョウは昨年のように大喜びはしなかった。

リーグ初戦のあと、タッチダウンパスを投げてくれたQB星野太吾(左)と(撮影・篠原大輔)

復帰へサポートしてくれた家族に感謝

小学1年でアメフトを始め、高3のときはキャプテンとして大産大附を11年ぶりのクリスマスボウル出場へと導いた。鳴り物入りで昨春に関学へ。「1年の春から4年の秋までずっと活躍します」「1年からチャック・ミルズ杯(年間最優秀選手)とります」と公言し、その通りに物事は運びつつあった。10月28日のあの瞬間までは。リーグ第5節の京大戦。小段は第3クオーターにQB鎌田陽大(現・富士通)からのTDパスを受けた。次のシリーズではQB星野秀太(現3年、足立学園)からの短いパスを受け、約20ydを走ってゴール前へ迫った。TDにしたくてエンドゾーンへ向かって飛び込んだが、わずかに届かず。小段は立ち上がれない。担架で運び出され、けが人用のテントに入ったまま出てこなかった。

昨年のリーグ初戦となった龍谷大戦で秋シーズン初のタッチダウンを決めた(撮影・篠原大輔)

「けがをしたときは何も考えられなくて。アメフトを始めてから大きいけがは一回もなかったんで。京大との試合が終わるまでテントの中にいて、あれだけでも長く感じました。テントを出るとレシーバーの先輩の(鈴木)崇与(たかとも)さんや衣笠(吉彦)さん、五十嵐(太郎)さんがめちゃくちゃ心配してくれて。そのときもめっちゃ悔しかったですし、立命戦、関大戦のために春からやってきたといっても過言ではなかったので、何も考えられなかったです」

フィールドからテンキョウの姿が消えた。ずっと憧れていた立命館大学、関西大学とのビッグゲームはもちろん、甲子園の芝の上で走ることもできなかった。年が明けてもU20日本代表の選考会に参加できず、ファイターズのアメリカ遠征にも行けなかった。

「アメフトはずっと大好きだったんですけど、けがをしてから見るのも嫌で。練習に行くのも嫌だったんですけど、とくに家族が僕のために何でもサポートしてくれたんで、家族のために復帰できるように頑張った感じです」。父の剛さん(53)はかつて同じけがを負ったことがあり、リハビリのための器具をそろえてくれたり、いい病院を探してくれたりした。「お父さんにはほんとに感謝してます」。テンキョウが真顔で言う。

昨年の甲子園ボウルの試合前、小段(中央左)は4年生WRの鈴木崇与と握手(撮影・北川直樹)

QB星野秀太「僕らの前では弱さを見せなかった」

高校の大会へ母校の応援に行くと、恩師である山嵜隆夫監督(現・総監督)から「チャック・ミルズとるとか言うてるからけがするんや」と怒られた。「山嵜先生のご指導を受けて、謙虚に生きることに決めました。去年は何が何でもタッチダウン。むちゃなことしてもタッチダウンしようとしてたんですけど、それでけがしたら元も子もないんで、けがをしないで活躍するイメージを持って復帰しました」とテンキョウが笑う。ようやく今年の夏から練習に合流し、秋シーズンでの戦列復帰へこぎ着けた。

彼の復帰への過程を見守ってきた関学QB星野兄弟の兄・秀太は言う。「ほんとに悔しい思いをしたと思うんですけど、僕らの前では弱さを見せなかった。タフだなあと思いました。みんなの前ではすごく笑顔で振る舞ってて、『2年生でここまでできるんか』と思わされました。いつもはクソガキみたいなヤツなんですけど、そういう部分はすごく大人だなと思うし、練習になったらスイッチが入るんです」

小段は桃山学院大戦のあと、「星野兄弟とはめちゃくちゃ気が合う。自分の中で二人は最高のQBです」と話した。星野兄にそれを伝えると、「それはこっちも感じてます」と笑った。「プレー中はいてほしいところに、いてくれる。ちっちゃい頃からフットボールをやってきた同士の勘というか、めっちゃ分かります。夏合宿でうまくいかなかったパスがあって、僕とテンキョウで話した解決策を監督のところに持って行ったら、『それでやってみたら?』という話になって。何か困ったら僕はテンキョウに聞きますし、向こうも僕に聞いてくれる。プレーのアサイメントだけじゃなくて、ワイドユニットをどうしていこうかみたいなことも一緒に考えてるんで、アイツがいなかったら、このチームでやっててこんなに面白くなかったと思います」

この1年は仲間の輝きをずっと見てきた。ようやく自分が輝けるときが来た(撮影・廣田光昭)

先輩から受け継いだ「4」

テンキョウに今シーズンの目標を尋ねた。「去年はまだチームを助ける存在にはなれてなかったんで、今年はちゃんとシーズンをやりきって、とりあえず謙虚に何事も一戦必勝で、1プレー1プレーに集中して臨みたいと思います。そこが去年と一番違うとこです」。そう答えて彼は笑った。

尊敬し、大好きなレシーバーである鈴木崇与(現・パナソニック)の背番号4を受け継いだ。鈴木は後輩の戦列復帰について、「僕の中で一番うれしいことです。試合のネット中継で出るコメントが『4の系譜を継ぐエース』になってて、それもうれしかったです。僕より全然うまいんですけどね。テンキョウに負けないように頑張ります」と話している。謙虚に集中して、テンキョウがフィールドを駆け巡る。

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