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関西学院大学RB伊丹翔栄 偉大な2人の先輩から刺激、関西を代表する走り屋へ成長

京大戦で大暴れした関西学院大RB伊丹翔栄(京大戦はすべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関西学生リーグ1部は11月11、12日に第6節の4試合がある。前人未到の甲子園ボウル6連覇を狙う関西学院大学ファイターズは11日にヤンマースタジアム長居(大阪)で立命館大学パンサーズとの全勝決戦に臨む。オフェンスでは3年生RB伊丹翔栄(追手門学院)の存在感が試合ごとに大きくなっている。

京大戦で決めた2本の独走TD

伊丹は第5節の京都大学戦(45-20で勝利)のあと、多くの報道陣に囲まれた。7-7に追いついたあとの第1クオーター(Q)終盤と第2Qの5分すぎ、立て続けにシリーズ最初のプレーで独走タッチダウン(TD)を決めた。伊丹はこの試合がサンテレビで生中継されたことに触れ、「いつも応援してくれるおじいちゃん、おばあちゃんにも見てもらえるから、燃えました」と笑った。

最初のTDについて伊丹は「理想的な独走TDでした」と表現した。自陣7yd、ハッシュ右。第1ダウンで中央やや左へのラン。「OLが開けてほしいところを開けてくれました」。ブロックが完璧で、ほとんど体勢を崩さずに第一線を抜けられた。DBの中でもフィールド中央の最後尾を守るSF(セイフティ)が詰めてきたのを、右へのカットでかわす。すると右に出ていたWR小段天響(1年、大産大附)が相手CB(コーナーバック)の外側に体を入れた。「天響が頑張ってくれた」と伊丹が言うように、小段はそのままCBと並走。伊丹はサイドライン際の花道をエンドゾーンまで駆け抜ける。93ydのTDランとなった。OLがパーフェクトなブロックをし、自分はカット一発でSFとの1対1に勝ち、WRのブロックに守られての独走。確かに理想的だ。

2本目はディフェンスが相手のギャンブルを止め、自陣45ydからの第1ダウン。ボールは中央。これも中のラン。第一線を抜けるとき、相手DLの追いタックルを外した。そして5yd前進したところで、もう一回タックルをはねのけた。「粘って粘って、あとはSFとの1対1やなと」。鋭いカットで右へかわすと、右サイドでWR鈴木崇与(4年、箕面自由学園)が相手DBが伊丹に寄れないように体を入れているのが見えた。背後から追ってくるタックラーも感じていた。腕で足をひっかけられないように足を高く上げる。3人が飛び込んできたが、触らせずにエンドゾーンへ駆け込んだ。

京大戦の2本目の独走TD。中途半端なタックルを難なくかわす
鋭いカットでSFとの1対1に完勝
追いすがるタックラーに触れさせもしなかった

7回ボールを託され、179yd進んで2TD。昨年の甲子園ボウルMVPの副将RB前島仁(4年、関西学院)が欠場した中で、34番はしっかり関学オフェンスを引っ張った。第5節までトータル388ydを走り、ラッシング部門2位。1位は同学年の立命館大RB山嵜大央(大産大附)で426ydだ。伊丹はもはや関西リーグを代表するRBへと成長した。前島は伊丹について、「大事なところで(ゲインを)とってくれる。今年はエースの自覚を持って練習からやってくれてます」と話している。

「うまいランナー」から「強いランナー」へ

1年生の春に大阪産業大学とのJV戦で初めて伊丹を見たとき、線が細かったこともあって、ひょろっとした体形という印象があった。巧みなカットバックを披露し、「また関学にうまいRBが入ってきたな」と感じた。この年、彼の印象はずっと変わらず「うまいランナー」だった。それが昨年の秋シーズンが深まるにつれ、試合の中で当たりの強さを見せるようになっていった。前島がWRとしても起用されていたこともあって場数を踏み、リーグ戦では計42回ボールを託されて188ydを走った。早稲田大学との甲子園ボウルでは第3Qにチーム初のTDを挙げた。

1年生の春、大産大とのJV戦での伊丹(撮影・篠原大輔)

タックラーをかわすだけの「うまいランナー」から、しっかり当たってタックルを外せる「強いランナー」へと成長したのには、2人の先輩の存在が大きかったという。「1回生のときに4回生だった前田公昭さん(現・エレコム神戸ファイニーズ)と齋藤陸さん(現・初田防災設備ホークアイ)の走りを間近で見て、速かったけどフィジカル的にも強かった。2人が抜けて僕がチャンスをもらったとき、このままじゃダメだと思いました」と伊丹。前田さんはこの2021年の年間最優秀選手、齋藤さんは甲子園ボウルの最優秀選手に輝いた。切磋琢磨(せっさたくま)して学生トップレベルのRBとなった2人が身近にいた幸せを、しっかり生かせたのも伊丹の強みだ。

2021年の甲子園ボウル直後。前田公昭(中央)と齋藤陸(右)のコンビはえげつなかった(撮影・北川直樹)

1回生の途中からスピードを落とさず強くなれるように意識して練習してきた。昨年の甲子園ボウルのときに体重72kgだったのが、食べてトレーニングして、いま81kg。40ydを4秒8で走るスピードはそのままに、強さを手に入れた。

走りの変化について、伊丹の説明は明快だ。「1回生のころは大きなカットで相手をしっかりかわさないと、ちょっと当たられただけで倒れてました。でもいまは小さなカットで体をちょっとずらすだけでよくなった。鍛えたフィジカルが生きてきて、一発では倒れにくくなったからです」。より直線的にエンドゾーンへ向かえるから、独走TDのチャンスも増える。OLの中心選手に同じ3年生が多く、ミーティングからいろいろ注文をつけやすいのもラッキーだったと感じている。

高校の先輩・鎌田陽大とのスタメンに「感慨深かった」

大阪府池田市で生まれ育った。小学4年生から地元の池田ワイルドボアーズでフットボールを始め、中学時代も同じチームでプレー。追手門学院高校に進むと、1学年上に肩の強い長身QBがいた。いま関学4年生のQB鎌田陽大(はると)だ。伊丹は言う。「カマハルさんには高1のときからずっと、面倒を見てもらってきました。近大戦、京大戦と2人ともスタメンで、メンバー表で名前が並んだのは感慨深かったです」

この秋の近大戦と京大戦で、スタメン表に鎌田と伊丹の名前が並んだ

関学から声がかかったときは「日本一の環境でフットボールができる。すごいワクワクしてやれる」と感じたそうだ。もちろん鎌田とまた一緒にやれるのも大きかった。「関学に行くのが決まってカマハルさんに報告したら、いつもは感情をあまり出さない人ですけど、喜んでくれました」と笑う。

いよいよ立命との全勝決戦だ。「向こうのディフェンスはスピードもあるし、苦しい場面が絶対にくる。そんなときに自分のランで流れを変えたい。RBで勝ったという試合にしたい」と伊丹。着実に進化を遂げてきた走り屋が、パンサーズに襲いかかる。

立命戦で走ってこそ。誰よりも伊丹がそう思っていることだろう

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