関西学院大学・鈴木崇与 けがから帰ってきたクラッチWR「勝負どころで絶対にとる」
前人未到の甲子園ボウル6連覇を目指す関西学院大学ファイターズが、春季最後のバーシティーゲーム(主力選手が出場する試合)となる立教大学との試合に臨んだ。前半はランを中心に攻め、フィールドゴール(FG)1本リードによる3-0と膠着(こうちゃく)したが、後半にパスプレーに活路を見いだすと攻撃が進み始めた。1試合を通じて関学攻撃を率いた星野秀太(2年、足立学園)が、鈴木崇与(たかとも、4年、箕面自由学園)と小段天響(1年、大産大附属)にTDパスを投げて2TD、K大西悠太(2年、関西学院)のFGで3点を追加。20-0で試合を締めくくった。
練習から意見を言いやすい環境作りに尽力
関東TOP8中堅の立教大に、前半はFGのみの3点差と手を焼いたが、「練習できてないとこ(立教守備への対応)をランでこじ開けにいくよりは、投げていこうと」と大村和輝監督。後半にパスを増やすと、第3クオーター(Q)7分に最初のTDパスをとった鈴木らWR陣が効果的なゲインで攻撃に勢いを作った。パスの好調はランの好循環を生み、守備も応えて関学の流れを確かなものにした。
「ずっとワイドユニットがチームに迷惑をかけてきてましたが、今日は少しいいプレーもできたので、そこはよかったかなと思います」
類いまれな勝負強さを持つWR、鈴木崇与が帰ってきた。この日は3キャッチで1TD。タレントがそろう関学WR陣の中、1年時から試合に出場。勝負どころで投げられるロングパスなど、確実なキャッチングと守備に負けない高いファンダメンタルで活躍してきた。決して派手なタイプではないが、クラッチなWRで、安定したパフォーマンスは関学パス攻撃の柱だ。
しかし、最後の春シーズンを前に負傷。2週前の関西大学戦では数プレー試合に出たが、復帰後すぐの試合だったこともあり見せ場はなかった。立教戦で主力のローテーションに復帰し、先制TDのレシーブで観客を沸かせた。このプレーは鈴木によると「TDを狙った決めのプレー」で、毎日練習に早く出て「何度もタイミングとキャッチの感覚をあわせていた」ものという。
QBの星野は、「崇与さんと『立教戦で絶対に決めたい』と話をしていて、一番練習したプレーです。僕が(公式戦で)初めて出た昨年の甲南戦で、最初にパスをとってくれたのも崇与さんでした。それを思い出してすごくうれしかったです。やっと一緒にまたやれるって」と笑顔で話し、続けた。「どんなボールを投げても絶対キャッチしてくれる。ここにいてほしいと思ったらそこに走ってきてくれますし、QBとしてリズムが作りやすく楽しいです。気づいたら息がピッタリになってました」
常に笑顔でいてくれて、練習から意見の言いやすい環境を作ってくれる。合わせたいプレーがあるときには、嫌な顔をせず最後まで付き合ってくれるという。「一番信頼してるWR。僕がファイターズでプレーするのに、崇与さんは欠かせない存在です」と星野は言う。
試合後、鈴木の復帰については大村監督も「とても大きいですね」と目を細めた。
ルーキーの小段には「自分らしくプレーしてほしい」
長期離脱はフットボールを始めてから初めてのことだった。欠場した今春の序盤は、後輩のサポートに徹した。5月20日の中央大学戦から試合に出続けている1年生WRの小段は言う。「関学に入ってから崇与くんにはWRのことをずっと教えてもらっています。アサインメントは産大高校とは全然違うプレーばっかりなので、イチから全部教えてもらいました。今日は2人でTDがとれて本当にうれしかったです」
普段から鈴木にはこう言われてきた。「お前は1回生やから、伸び伸びやれ。俺ら4回生がぜんぶ責任取ったる。何かあってもどうにかしたるから」。先輩に頼りながら自分のプレーに集中できる環境を作ってくれたことに、小段は感謝を口にする。
同じWRとして、鈴木も小段には大きな期待をかけている。
「自分が出られていない状況で1回生から試合に出るってことは、もちろんミスをすることもあると思います。その責任を彼に負わせるのは、よくないことだと思ってるんです。小段には『楽に、自分らしくプレーしてほしい』と思っていました」
気持ちの部分だけではなく、技術的なアドバイスもずっと横についてしてきた。「小段は普通の1回生とは違います。プレーがうまいのはもちろんですが、技術のことを4回生にグイグイと聞きにくるのは、彼だけ。自分は4回生ですが、彼のプレーを見て学ぶことも多いです」。3学年下の後輩には違いないが、互いに切磋琢磨(せっさたくま)できる仲間ができたことはうれしいという。
祖父は甲子園ボウル4連覇に貢献した名QB
祖父の智之さん(2016年に逝去)は、関学のQBとして史上初の甲子園ボウル4連覇(当時)に大きく貢献した名選手。卒業後は、商社を経て瓶ビールや缶詰などの食品梱包(こんぽう)に使用する機器の輸入を行う「株式会社スズキインターナショナル」を経営する傍ら、創部期の東京大学アメフト部の監督も務めた。晩年は1998年にアサヒ飲料クラブチャレンジャーズのスペシャルアドバイザーとしてチームの組織づくりに尽力し、3年でチームを日本一に導いた。文字通り、辣腕(らつわん)の持ち主だった。
鈴木は幼い頃、一緒にキャッチボールをして、ボールの投げ方、とり方を教えてもらった。しかし、智之さんからは一度もアメフトをして欲しいと言われたことはない。「何事もやるなら一流を目指せ」という言葉が心に残っていて、鈴木が取り組むことに対しては何でも応援してくれた。一方で「祖父のこともあって、高校からアメフトをすることは早くから決めていました」と言う。
「後々アメフトをするなら、色んなスポーツ経験があったほうが良い」と考えて、小学生のときはバスケットボール、中学では野球に取り組んだ。高校で箕面自由学園に進学し、アメフト部に入部。WRとして活躍し、3年時は主将を務めた。高校卒業前には「International Bowl 2020」のU18高校日本選抜にも選出され、アメリカチームに勝ってゲームMVPも受賞した。
「今考えても、他のスポーツをやっていたことによる『引き出し』のメリットは大きいですね。アメフトには色々なスポーツの動きが詰まっていて、バスケや野球の経験が間違いなく生かせています」
高校から一緒の主将・海﨑を支える
ラストイヤー。主将には、箕面自由学園時代からともに幹部として戦ってきたLBの海﨑琢が就任した。海﨑との7年目シーズンを迎えた鈴木は言う。
「ずっと一緒なので、キャプテンとして海﨑がしたいことはわかっています。ただ、関学は人数が多いのであいつ1人では回せない。そこの手助けをしたいと思っています」
WRとして去年から攻撃で勝てていないという責任を感じている。「誰かに任せるんではなく、勝負どころで星野が投げたボールは絶対にとるっていう、強い気持ちでオフェンスを引っ張っていきます」。ずっと主力として活躍し、結果を出してきた。しかし、おごることなく謙虚な物言い、まじめで実直な姿勢が鈴木の人柄だ。
鈴木崇与は、自信を持つ球際と競り際で勝ち切り、一戦必勝を積み重ねる。