関西学院大学・五十嵐太郎 開幕から大活躍の新星WR、ファイターズ“最速”に名乗り
学生アメリカンフットボールで前人未到の選手権6連覇を狙う関西学院大ファイターズは、開幕2戦を終えて2連勝。今年も安定した強さを見せている。9月17日、第2節の甲南大学戦は、部内のインフルエンザ流行により30人程度を欠く布陣での戦いだったが、戦力の厚みを見せて35-3で勝利を飾った。シーズン2戦目にして、五つ目のタッチダウン(TD)を決めたWR五十嵐太郎(2年、関西学院)は、常勝軍団の新たなスター候補として輝きを放っている。
開幕から2試合で5TDを稼ぎ新戦力に
これが王者の強さだろう。春までは聞かなかった名前の選手が、大きな存在感を見せている。五十嵐もその一人だ。開幕の龍谷大学戦で三つのTDを決めてアピールすると、甲南大戦でも二つのTDを奪った。ヘルメット越しの端正な顔立ちは、会心のプレーにほころんだ。
秋シーズンに入り、五十嵐はアウトサイドWRとして鈴木崇与(たかとも、4年、箕面自由学園)と小段天響(てんきょう、1年、大産大附属)に次ぐ存在として台頭。スターターの2人にも負けない能力をアピールしている。関学の個性豊かなWR陣の中でも随一のスピードが武器だ。
14-0で迎えた第2クオーター(Q)3分、QBの星野秀太(2年、足立学園)のスクリーンパスを受けると、持ち前の走力でサイドライン左側を疾走。ブロックを生かしながら22ydのTDレシーブを決めた。11分過ぎにもハーフライン付近で星野が投げたスラントのパスをキャッチし、持ち前のスピードでグンと加速。守備をかわし、エンドゾーンまで48ydを駆け抜けた。
この試合でチーム最多の5レシーブを決めた五十嵐は、85ydに2TD獲得と大活躍。試合後、納得の表情でプレーを振り返った。
「一つ目のTDは仲間が粘り強くブロックしてくれて、僕はただ走るだけでした。二つ目は、自分でディフェンスのタックルをかわして決められた。スラントは普段の練習からいいイメージで走れてたんですが、TDにつながったことはなくて。今日は星野との息もよく合ったと思います」。普段は喜びを見せない関学選手だが、五十嵐は2本目のTDのあとに笑顔で小さく「よっしゃ!」と叫んだ。レンズ越しにうれしさが伝わってきた。
後半は、得点が第3Qの7点だけと伸び悩んだ。「今日はもう、全然あきませんね」と厳しい反省を口にした大村和輝監督も、五十嵐の話題になると表情を緩ませた。「着実にうまくなっています。去年もよかったんですけど、より動きが柔らかくなってますね。若手が頑張ってくれると上級生の刺激にもなるので、いい影響が出てると思います」。新たな戦力の台頭を素直に喜んだ。
友の敗戦を見てアメフト転向を決意
中学で関西学院に進み、中高はサッカー部。全国大会にも出場した。一方、関学高等部でWRとしてプレーした父・光博さんの影響でアメフトが身近な環境で育った。光博さんは、前田涼太(2年、箕面自由学園)、山本桜汰(2年、関西学院)らの父と同級生で、毎年4月に開催される家族向けイベント、「FIGHTERS DAY」に一緒に参加したこともある。ただ、父にアメフトを勧められたことは一度もなかった。
当時はアメフトをすることなど全く考えていなかったが、高校3年の秋に同級生の試合を見て考えが変わる。日本選手権のクリスマスボウルを目指すトーナメントの関西地区決勝戦で、立命館宇治に敗れた試合だ。同級生の活躍する姿、悔しがる様を目の当たりにして心に火がついた。そして「僕にもできるんじゃないかっていう、自信みたいなのを感じました」。
高校サッカー部を引退してからは、家が近所の同級生、東田隆太郎や礒田啓太郎、井上誉之らと公園でアメフトのキャッチボールをした。「特に井上は、家族ぐるみで仲がいいんです。中学まで一緒のサッカー部で、高校から井上はアメフト部に移った。(自分がアメフトを始めれば)大学でまた一緒にできるというのも大きかったです」。彼らの存在もあって、五十嵐はアメフトへの転向を決めた。
足の速さを生かすためポジションはWRに。同じポジションのエース格、衣笠吉彦(4年、関西学院)は中高サッカー部からの先輩で、プライベートでも仲が良いという。彼からの誘いがあったのかと聞くと、笑いながら「それはないです、それはないです(笑)」と否定した。
「衣笠さんは内のWRで僕は外ですが、『足が速いキャラ』みたいなのはかぶってて、目指してる選手像は似てるのかなと思います。衣笠さんの良いところを盗み、僕もスキルアップしていきたいです」
五十嵐の語り口からすると、衣笠は先輩というより負けたくないライバルという感じらしい。
大一番で、チームの勝ちを引き寄せるWRに
「今はまだまだです。外側のWRには崇与さんと天響がいて、3番目くらいですかね。外は2人しか同時に出られないですが、2人だけで試合を通すこともできないです。そこに僕も入っていって、3人で相手を圧倒できるようなユニットを作っていきたいと考えています」
五十嵐について、小段は言う。「スピードもそうですが、センスや動きが2年目には思えないと驚かされます。なによりも素直なところが五十嵐さんの強さで、プレーでうまくいかない時には(後輩の)僕にも『今のどうしたらええかな?』と聞いてくれるんです。一緒に頑張ってます」。夏の合宿で同じ部屋になり、2人の距離はぐっと近づいたという。
目指している選手は、NFLのダラス・カウボーイズで活躍するWRシーディー・ラム。「彼は大事な場面で絶対に決める選手。僕はまだ任せてもらえないかもしれないですが、これから信頼を重ね、大一番の関大、立命を相手に勝敗を分けるプレーを任されるような選手になりたいです」
自信を持っているのはスピードと、パスを受けてからのランアフターキャッチだ。「関学では衣笠さんが一番速いことになってると思うんですけど、それよりは僕の方が速いかな(笑)」
ファイターズ“最速”の足を持つ新星が、これからどんな成長曲線を描くのか。今年の大一番は、背番号6の俊足WRに注目だ。