バレー

特集:全日本バレー大学選手権2024

早稲田大・浅野翼 模索し続けた「自分にできること」仲間に声をかけ続け、練習相手も

試合中、浅野翼の定位置はアップゾーンの最前列だ(すべて撮影・井上翔太)

第77回全日本バレーボール大学男子選手権大会 準決勝

11月30日@船橋アリーナ(千葉)
日本体育大学 3-2 早稲田大学
(21-25.25-18.25-23.21-25.15-12)

【写真】決勝は女子が筑波―青山学院、男子は日体―専修 バレー全日本インカレ特集

大学生活最後の全日本インカレを、不完全燃焼で終わりたくない。

4年生として、チームのために何ができるか。早稲田大学の浅野翼(4年、東北)はアップゾーンからコートに立つ選手たちへ声をかけ続けた。「今までやってきたことを出すだけ。自信を持って行こう」

第1セット先取も「迷っている感じが伝わってきました」

準決勝まで5日連続で戦ってきた疲労もあり、試合前の練習時からスパイカー陣の動きが少し重いのが気になっていたが、試合が始まれば第1セットの序盤から前田凌吾(3年、清風)がミドルブロッカーの菅原啓(2年、山形南)や麻野堅斗(2年、東山)を効果的に使い、7-4と先行した。

勝てば決勝進出。気合も入るが、いつも通りやれば大丈夫。浅野はアップゾーンの最前列で試合の行方を見守った。日本体育大学の攻撃に対し、中盤にはブロックポイントも加算してリードを広げ、25-21。第1セットを先取した。

第2セットも3本のブロックで4-0と先行。幸先良いスタートを切ったが、リバウンドを取ろうとブロックに当てたボールがそのまま落ちてしまったり、これまでならば着実に取ってきた勝負どころのスパイクでミスが出始めたりした。勝っているとはいえ、浅野はベンチで不安も抱いていた。

「思っているプレーができていない。相手にやられているというよりも、自分たちがやるべきことができなくなって力を発揮しきれていなかった。フリーボールからの攻撃が決まらなかったり、(セッターの)凌吾もスパイカーも、迷っている感じがすごく伝わってきました」

初戦はリベロとしての出場機会もあった

すべてを出し切れず、大会連覇ならず

気付いたことはすべて共有する。タイムアウトの際や交代で下がった選手にその都度伝えた。

「たとえ決まらなくても『俺が決めてやる』という姿勢を見せるだけで相手は嫌だから、1本決まらなくてもトスを呼んだほうがいい。簡単に取れない時は、どうにか工夫して点につなげていこう」

だが、日体大は逆転の糸口をつかむべく、サーブで攻めてきた。早稲田大は山元快太(3年、仙台商業)のサーブ時、2本のサービスエースを含む9連続失点。16-22と逆転を許し、第2セットを日体大に譲った。続く第3セットも吉村颯太(4年、東山)のサーブや髙附雄大郎(4年、鹿児島商業)の好守で勢いに乗った日体大が23-25で連取。第4セットは早稲田大が麻野のサービスエースや前田のブロックで得点を重ねて25-21。最終セットに突入し、最後までひるまず攻め続けた日体大が12-15で押し切った。早稲田大の大会連覇はならなかった。

すべてを出し切ることができずに喫した敗戦に、主将の前田は「涙も出なかった」と言う。「何もできなかった」と思っていたのは4年生の浅野も同じだ。「日体大の4年生たちの意地が出た。この1年、うまくいかない時や苦しい時間があった中で、最後のインカレにかけてきた。その思いの大きさを体現していました」

セット間に気付いたことを共有するため、コートに立つ仲間を呼び寄せる

「後輩にあんな思いをさせちゃいけない」馬渕純の記憶

今シーズンが始まってから、最終学年として越えなければならない壁の高さや厚さに苦しんだのは、日体大の4年生たちだけではない。早稲田大の4年生も同じだ。

主軸を担うのは下級生で、3年生の前田が主将を務める今大会、4年生でコートに立つ選手はいない。試合前の練習時、浅野と馬渕純(4年、県岐阜商業)は後輩たちがレシーブ練習するためのボールを打つ。その1球1球に「試合で全力を発揮できるように。自信を持ってプレーできるように」という思いを込める。試合でコートに立つ機会や時間は限られていても、チームメートとしてともに戦うことには変わりはない。

試合に出る選手たちに、自分は何ができるか。チームのために力を果たせることは何か。それぞれが模索する中、前田と同じセッターでもある馬渕には「後輩にあんな思いをさせちゃいけない、と胸が痛くなった」と振り返る記憶がある。

「凌吾が1年のインカレ準決勝で筑波に負けた時、凌吾が大泣きしていて。実力では群を抜いている選手なのにこれだけ背負わせてしまって、自分は何もできていない、とすごく悔しかったし、ふがいなさを感じました。今年の春季リーグも同じで、負けた時に後輩の(佐藤)遥斗(2年、駿台学園)が泣いている姿を見て『後輩を泣かせるようなことをしていちゃダメだ』と思ったんです。コートでプレーして助けることはできないかもしれないけど、練習中や試合の中で、僕らにできること、やらなきゃいけないことは絶対にある。最後はどんな形であっても後輩たちと笑って終われるように、と思い続けてきました」

控えセッターの馬渕(4番)は浅野のそばに立つことが多い

前田凌吾「僕にとって大きな支えでした」

全勝優勝で終えた秋季リーグ、MVPに選出された前田は言った。

「自分がしんどい時に、翼さんや純さんが話を聞いてくれてすごく助けられた。励ましてくれるだけじゃなく、いいことはいい、でもそれは違うよ、とちゃんと言ってくれるのも僕にとっては大きな支えでした」

ただ、コートの外からチームを動かすことは容易ではない。「やらなきゃ、やらなきゃ」という思いが募るたび、浅野は「自分の力不足を痛感した」と言う。

「選手としても最上級生としても、自分の力がないことをまず自分が受け止めないといけない。それも僕にとっては簡単ではなくて、苦しい時もありました」

そんな時に支えてくれたのは同期の仲間であり、後輩たちだった。だからこそ試合前の練習でボールを打つ時も、日々の練習で課題や気付いたことを発する時も、常に全力で「チームのため」「仲間のため」と思いを込め、取り組んできた。

試合前の練習から「チームのため」という思いを込めて取り組んだ

チームで軸になる前田と畑虎太郎(3年、福井工大福井)には、責任を感じる立場だと理解しているからこそ、時に厳しいことも口にした。全日本インカレの期間中も、なかなか調子が上がらずにいるのを見て、準決勝進出を決めた29日の試合後も浅野はこう言った。

「自分の調子がいい悪いはもちろんあると思うけど、調子だけじゃなく、発する雰囲気がそのままボールに伝わる。うまくいかないこともあるだろうけど、コートの中で前向きに引っ張ってほしい」

事あるごとに声をかけてくれる浅野に、敗れた悔しさをあらわにしながら、前田も「ずっと助けられていた」と口にした。「試合が終わった後も、すぐに声をかけてくれたし、いつも自分たちのことを考えてくれたのに、その思いに応えられなかったのが本当に申し訳ないです」

3年生主将の前田は浅野に「ずっと助けられていた」と感謝する

最後はみんなで笑って終わるために

日本一という目標に向け、苦しみながらも走り続けた1年間。全日本インカレで頂点に立つことはかなわないが、まだ大会が終わったわけではない。最終日には3位決定戦、メダルをかけた戦いが残っている。

前田は「出しきらずに負けたままでは4年生に申し訳ない」と完全燃焼での勝利を誓う。何より「出し切ってほしい」と願うのは浅野も同じだ。

「試合に出ている選手たちにはこれからがある。悔しいことに変わりはないし、気持ちを切り替えるのは難しいですけど、でも3位決定戦は次の1年に向けたスタートでもあるので、『この経験をプラスにする』と思って今日できなかったすべてを体現してほしい。そのために、僕もできることをすべて、体現して出し切りたいです」

全力で声を出し、全力でボールを打つ。最後は、みんなで笑って終われるように、と。

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