天理大・楠本岳 楽しみ続けた「高いレベルの駆け引き」、天皇杯で髙橋藍と対戦なるか
第77回全日本バレーボール大学男子選手権大会 準々決勝
11月29日@船橋アリーナ(千葉)
早稲田大学 3-0 天理大学
(25-22.25-20.25-15)
大学生活最後の全日本インカレ。関西春季リーグを制し、西日本インカレでは34年ぶりとなる頂点をつかんだ。秋季リーグは近畿大学に次ぐ2位だったが、今季の天理大学は西日本を代表する存在として、決して大げさではなく優勝候補の一角として注目を集めていた。ただ、主将の楠本岳(4年、東山)は最後まで勝負を、そして目の前の相手との駆け引きを楽しんでいた。
早稲田とは「ずっと対戦してみたかった」
会心の1本は、第2セットの中盤だった。
大学に入ってから「ずっと対戦してみたかった」という早稲田大学との準々決勝。第1セットは22-25で早稲田が先取し、第2セットも13-16と先行された。これまでならば「決まった」と思う攻撃も、早稲田の堅いディフェンスに阻まれ、なかなか決まらない。序盤にブロック失点が続いたこともあり、攻撃に迷いが生じる選手もいる中、楠本はむしろ「打っても簡単に決まらない」状況を楽しんでいた。
オポジットの酒井秀輔(4年、広島工大高)の攻撃で追い上げ、16-18。前衛に上がった楠本はネットを挟み、早稲田のオポジット畑虎太郎(3年、福井工大福井)と対峙(たいじ)した。高校時代から互いを知る相手で、楠本の得意な攻撃も知っている。少しでも決めやすくなるようにと、天理大のセッター・田岡悠瑠(2年、坂出工業)はミドルブロッカーのBクイックと見せかけて、レフトの楠本へ速いトスを託した。
ミドルにも1枚ブロックがついていたので、楠本と畑、スパイカーとブロッカーによる1対1の勝負で、楠本は畑がストレート側を警戒しているのが見えたため、クロスへ打とうとモーションを変えると、畑もその動きを見逃さずクロス側に寄った。そして、楠本はそこまですべてを見た上で、ストレートに打つ。後ろにレシーバーも入っていなかったため、鮮やかにライン際にスパイクが決まった。
楠本がその1本を「会心」と挙げた理由は、ただ決まったというだけではない。
「駆け引きしながら勝負するのが、ものすごく楽しかったんです。関西もレベルは高いですけど、ディフェンスのレベルはやっぱり関東。早稲田大はさらに1枚も2枚も上。抜けたコースにもレシーバーがいるから、みんな『決まった』と思っても拾われて、次のプレーに準備ができないままラリーが続いて得点できない。やっぱりすごいな、と思ったし、だからこそ1本決めるのにも駆け引きが必要で、高いレベルの駆け引きができることが何より楽しかったです」
追い上げながらも第2セットを20-25で落とし、第3セットは15-25。セットカウント0-3で敗れ、楠本の全日本インカレは閉幕した。
「ずっとやりたいと思っていた早稲田と当たれたこともうれしいし、最後、負けるなら他のチームに負けるよりも早稲田に負けてよかった、って思います」
最後まで、笑顔を絶やすことはなかった。
3回戦で遭遇した不思議な巡り合わせ
準々決勝の前日、3回戦では関東1部リーグの筑波大学に勝利した。会場となった東京体育館で試合をするのは4年ぶり。コロナ禍の中、チームに発熱者が出た影響で不戦敗を余儀なくされた高校3年の春高以来だ。
筑波大には奇(く)しくも、春高の3回戦で当たるはずだったチームのエース・牧大晃(3年、高松工芸)がいた。不思議なめぐり合わせが重なったが、感傷に浸ることはなかった、と笑う。
「(天理大は)東山の選手が多いので、体育館に入ってから『ここで泣いたよな』とか、みんなであの春高を思い出していました」
不思議な偶然はもう一つ。
「実は(筑波大と対戦する)今朝、夢を見て起きたんですけど、試合当日になって棄権する夢で。目が覚めて『夢だったんだ、よかった』って(笑)。あの時は確かにショックでしたけど、バレー人生が終わったわけじゃない。悔しいのは悔しいけど、僕はすぐ次に進もうと思えたから、またこうして東京体育館で戦えてよかったです」
強い相手との対戦時は、自分のレベルを知る機会
昇陽中、東山高で全国制覇を経験し、当時から「将来はバレーボール選手として高いレベルでプレーしたい」と思い続けてきた。高校卒業後の進路を考える時、上京して関東1部リーグの大学へ進もうかと少しは頭がよぎったこともあったが、1学年上に中高でともにプレーしたセッターの中島健斗(現・VC長野トライデンツ)がいたことや、「スタメンで試合に出られるチャンスが多いところへ行きたい」という思いが上回った。
関東のチームと対戦する機会は年に1度、全日本インカレに限られるが、そこで関東勢を倒せば注目を集めるし、何より強い相手や、大きい相手には負けたくない。そんな反骨心も、天理大で楠本を成長させた。
中島とともに出場した2年前の全日本インカレでは、この年の関東秋季リーグを制した中央大学にフルセットで勝利した。中島のトスワークや質の高さも一因ではあったが、身長177cmとアウトサイドヒッターとしては小柄な楠本が、体格差を忘れさせるような抜群のテクニックで着実に点を取ったことも、まぎれもなく勝利を引き寄せた要因となった。
当時も今も、強い相手と対戦する時は「自分が今、どれだけのレベルにあるかを知りたい」と楠本は言う。何が通用するか、何がまだ足りないのかを見極める絶好の機会と考え、この日の早稲田大戦もそうだった。手堅いディフェンス力と高い戦術遂行力を誇る相手に、今の自分はどれだけ通用するのかを試したかった。
「ストレート側のブロックに当てて出すのは、どんな相手に対しても決められる自信があります。だから今回はどれだけインナーに決められるかが勝負だと思っていた。正直言えば、ここまで手堅いディフェンスをするチームは西にはないので、そこでどれだけ打てるか、と思っていたけど、ブロックがそろわれると打ちきれない。(麻野)堅斗(2年、東山)も高校時代よりもだいぶ(ブロックの)寄りが速くなっていたし、手も前に出ていてきれいに止められた。まだまだ課題がある、とよくわかりました」
「やることは全部やりきれたので、十分満足」
最後の全日本インカレは終わったが、学生最後の試合としては12月12日に開幕する天皇杯が残っている。地元の大阪で、大学だけでなく高校やクラブチーム、SVリーグなど、全国から勝ち上がったチームが一堂に会し、日本一を争う。天理大は近畿ブロック代表として出場権を手にし、初戦はつくばユナイテッドSun GAIAと対戦。格上相手に勝利すれば、2回戦ではSVリーグのサントリーサンバーズ大阪と当たる。
サントリーには、今季から髙橋藍が加わった。対戦が実現すれば、ともにコートへ立ってプレーするのは高校2年以来、5年ぶりとなる。楠本は中島のことを「健斗」と呼ぶのと同じく、髙橋のことも「藍」と呼び捨てにするのも、仲の良さの証明だ。
「藍と対戦するのはだいぶ楽しみです。ディフェンスに関しては僕も自信があるので勝負したいし、これから『トップリーグでもやっていけるんやぞ』というのを見せたいですね」
大学生活で目標に掲げた日本一を全日本インカレではかなわず、今大会の目標としてきたベスト4にも届かなかった。それでも「やることは全部やりきれたので、十分満足できた」と笑みを浮かべる。これから当たり前に強いチームになっていくために。後輩たちへ向け、楠本が言った。
「来年は打つ選手が抜けるので、今年よりしんどいと思います。今年もレシーブ練習には時間をかけてきたけど、まだまだ足りなかった。またイチから取り組んで頑張ってほしいです」
天理大が今季新たな歴史を刻んだように、楠本も、新たな道を切り開いていく。