バレー

早大・前田凌吾主将 苦しみの末に遂げた全勝優勝 チームを1つにした前主将の支え

前田凌吾は主将としての責務を負い、支えてくれる4年生への思いを胸に全日本インカレに臨む(すべて撮影・松﨑敏朗)

2024年度秋季関東大学バレーボールリーグ戦

10月27日@日本体育大学健志台キャンパス(神奈川)
早稲田大学 3-0 中央大学
(25-22.25-19.25-23)

全勝優勝の締めくくりは、狙い通り、会心の1本だった。

自分に上がる。確信を持って入った早稲田大学のミドルブロッカー麻野堅斗(2年、東山)のもとへ、セッターの前田凌吾(3年、清風)は「決まる、決めてくれ」と迷わず上げた。前田の後ろから、左利きの麻野が放った速攻が決まり25-23。春の王者、中大に3-0で勝利した。

前田と麻野が磨き上げた1本

優勝が決まった瞬間、前田が麻野に飛びつき、勝利の喜びを分かち合う。タイミング、高さ、まさにドンピシャの1本は、春季リーグや6月の東日本インカレを終えて以後、長く厳しい夏の期間に2人が磨き上げてきた賜物(たまもの)と呼ぶべき1本だった。

前田が言う。

「秋リーグが始まってからもあんまり合わなくて、僕も堅斗も頑張って合わせようとしすぎて、また余計に合わない。このままじゃダメだ、と思ったのでとにかく練習もしてきたし、話し合いもした。お互い思うことを全部ぶつけ合ってきました」

前田凌吾(背番号2)と麻野堅斗(背番号11)は、徹底的に話し合ってタイミングと高さを合わせてきた

攻撃時の些細なズレ

身長207cmの高さを誇る麻野をどれだけ生かせるか。勝負どころでエースの畑虎太郎(3年、福井工大福井)や佐藤遥斗(2年、駿台学園)への警戒を少しでも薄め、決めやすい状況をつくるために、セッター心理としては前半からできる限りミドルの攻撃を使いたい。

特に麻野の高さは大学リーグでは圧倒的で、将来も嘱望される選手だ。事実、昨年の全日本インカレを終え、今年2月から1カ月間、練習生としてイタリアリーグのミラノに渡った。1人の選手として見れば、イタリアで多くの学びや刺激を得て来た一方で、大学に戻ればチーム内で果たすべき役割もある。頭では理解していたが、攻撃時に生じる些細(ささい)なズレを麻野自身も感じていた。

「日本に比べて、ミラノでは身長や(ボールが)出てくるところが高いセッターと合わせていたので、自分のタイミングもズレていたんです。特に春からは(大学で)速さも重視してきたので、自分はもっと高いトスが打ちたいけど速さも求められる。そこでまたなかなかうまくいかなくて、どうしよう、という期間が長くありました」

合わないまま進めても解決策は生まれない。麻野は「高さ」を要求したが、高さと速さを兼ね備えたトスは簡単にマスターできるものではない。ましてや攻撃陣は麻野だけでなく、他のスパイカーと連動してなければ、チームの武器にはならない。

徹底的に話し合うことで、スパイカーとの連動を高めてきた

夏に訪れたチームの転機

チームとしてどう戦うべきか。そのために、今克服すべき課題は何で、どんなトスが望ましいのか。麻野と前田だけでなく、松井泰二監督や本間隆太コーチも交え、夏合宿の期間はVリーグ(現・SVリーグ)チームの胸を借り、うまくいかないことは徹底的に話し合う。苦しく、悩む時間も多かった、と明かしながら前田は「夏がチームにとっての転機になった」と振り返る。

「レベルの高い相手とたくさん試合をさせてもらって、苦労しながらも自信がついた。何より、自分たちがやるべきこと、それぞれの役割は何か。松井先生や本間さんともたくさん話をしていく中で、僕自身も自分のやるべきことが見えてきたし、一人ひとりがそういう意識を持つことでチームもまとまってきた。その形が、やっと秋になってつながりました」

そしてもう1つ、前田にとっては大きな変化と支えもあったと明かす。

「4年生の存在です。(浅野)翼さん(4年、東北)とか、(馬渕)純さん(4年、県岐阜商)がいろいろ話してくれて、やりやすい環境をつくってくれた。4年生は優しい人ばっかりだから、チームを本当に支えてもらいました」

4年生とともに戦い抜く覚悟を持って全日本インカレに臨む

夏合宿前に前田が新主将に

夏合宿を前に3年生ながら前田が主将に就任した。春季リーグや東日本インカレでもゲームキャプテンを務めてきたが、監督、コーチや3、4年生で話し合い、前田の主将就任が決まった。レギュラーメンバーとして出場する選手も下級生が多い代とはいえ、主将になれば伴う責任の大きさは段違い。覚悟を決めて臨んだとはいえ、自分のやりたいことを突き通すだけではチームがまとまらない。

悩み、迷う前田の支えになったのが浅野だった。練習メニューを考える際にも「もっとこういうメニューを入れたほうがいいのではないか」と相談すれば、すべて受け入れるばかりでなくいいものはいい、必要ないものはいらない、とジャッジしてくれた。そのやり取りができるだけでも、自分のやりやすい環境がつくられていた、前田はそう言う。

「僕は僕で、今の課題はこれだと思う、と言えば確かにそうだ、と話しながらじゃあどうやって進めるか。具体的に話もしたし、ちょっと違うでしょ、とぶつかることもあったけれど、その都度コミュニケーションが取れたから、ここまで来ることができた。試合に出ていなくて、ベンチに入っていなくても4年生が声を出してくれたり、見えないところでチームのためにいろんなことをして、助けてくれていたので、本当に僕は助けられた。この秋リーグは自分のためだけじゃなく、4年生のために、という思いを持って戦いました」

苦しみに向き合い再び前を向いた浅野

今季のチームが発足した際、主将に就任したのは4年生の浅野だ。当然、前田とは違う悩みや苦しさと向き合う時間も決して少なくなかった。

「(キャプテンとして)プレーでも引っ張らないといけない、自分の姿でも見せなきゃいけない。やらなきゃ、やらなきゃと思いすぎて周りが見えなくなる時期もありました。周りはそういう自分のこともすごく支えてくれたんですけど、でも何より自分自身が1人の選手として、4年生、キャプテンとして実力がないことが悔しくて、苦しくて。自分の中でずっと葛藤していました」

バレーボール選手である前に学生で、やるべきこと、果たすべき役割はいくつもある。だがバレーボールに本気で取り組みたい、と名門早稲田の門をたたき、最上級生になった。それなのにプレーで貢献できないのなら、何をすればいいのか。苦悩する浅野を支え、求めたのは仲間たちだ。同級生も後輩たちからも、皆から「翼さんが必要だから」という声を聞き、その熱意が「自分にもやるべきことがある」と再び前を向かせてくれた。

秋季リーグで優勝し、「紺碧(こんぺき)の空」を歌う前田凌吾(左)と浅野翼

新たに主将の責務を引き受けた前田に対しても、浅野にしかできないことがあった。

「他の部員に対して、凌吾じゃないとできないこともあるけれど、僕じゃないと言えないこともある。凌吾はセッターとしても1人の選手としても軸がある選手なので、そこを理解しながら周りに凌吾の考えを伝えていくことも僕の役割だと思ったし、みんなが理解して、1つのチームとして重なり合うことができれば1つになれる。練習の中でぶつかり合う時もありましたけど、普段からどれだけ頑張っているかは、僕らが一番わかっているので、とにかく支えるし一緒に戦っていく、という思いだけでした」

全勝で優勝を飾り、秋季リーグのMVPには前田が選ばれた。その受賞を浅野は「本当にうれしかった」と笑みを浮かべ、学生最後の大会、全日本インカレを見据える。

「秋リーグで勝てたことは本当にうれしいですけど、まだまだ課題もある未完成のチーム。これからの1日、1日で今までやってきたことの再現性をとにかく詰めて、一番いい色のメダルをかけて、いい涙を流して終わりたいです」

秋季関東大学リーグ戦でMVPを受賞した

主将の覚悟を持って4年生と戦い抜く

新主将も同じだ。4年生たちと戦う、最後の全日本インカレに向けて。前田が言った。

「コートに立つ下級生たちが安心して、自分たちの力を出し切れるように3、4年生でこの秋リーグも何がよかったか、何がダメだったかを話し合って、下級生たちにちゃんと伝える。僕にとっては頼れる4年生、甘えられる存在がいてくれるので、最後の最後、決勝の舞台で『4年生のおかげで、本当によかった』と言えるようにキャプテンとして覚悟を持って。最後まで、一緒に戦い抜きたいです」

個の力をつなげ、最高のチームになるために。一人ひとり、まだまだやるべきことがある。どれだけ厳しく、苦しくても。自分を、仲間を信じて歩み続ける。

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