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連載:サッカー応援団長・岩政大樹コラム

岩政大樹「決して遠回りではない」、伊東純也や三笘薫など日本代表で躍動する大卒選手

岩政さんが日本代表でプレーしていた時は大卒選手はごく一部だったが、今では伊東をはじめ多くの大卒選手が日本代表として活躍している(撮影・伊藤進之介)

サッカー日本代表で大卒の選手たちが躍動しています。最終予選で苦しむチームの救世主的存在となっている伊東純也選手(神奈川大卒)や守田英正選手(流通経済大卒)だけでなく、山根視来選手(桐蔭横浜大卒)、三笘薫選手(筑波大卒)、古橋亨梧選手(中央大卒)など、ざっと挙げてみるだけでもそうそうたるメンバーがいます。大学出身者としてなんとも嬉(うれ)しい。この傾向からどんなことが読み取れるでしょうか。

大学で「本気の試合」を経験できるメリット

11月シリーズのメンバーを調べてみると、いやはやもっとたくさんいましたね。谷口彰悟選手(筑波大卒)、室屋成選手(明治大卒)、旗手怜央選手(順天堂大卒)、上田綺世選手(法政大卒)、長友佑都選手(明治大卒)も。なんと総勢10人もの大学出身選手が日本代表に選出されています。こんなことは10年前には考えられませんでした。

例えば、私が出場した2010年の南アフリカワールドカップでは、私と中村憲剛さん(中央大卒)、そして長友選手だけだったはずです。この時が例外では決してなく、いつも代表には大卒選手は数人だけ。私たちは肩身の狭い思いをしていたものです(苦笑)。時代は変わりましたね。

大学を卒業する“22歳”というのは、サッカーの世界では若いとは言えません。特に日本代表クラスになろうと思えば、既にプロクラブで主力となっていることが望まれる年代となっています。しかし、この最近の傾向は、大学を経由することが決して遠回りではないことを示しています。

三笘(中央)は心身両面を鍛えるため、川崎フロンターのユースからトップチームに昇格する道よりも、筑波大への道を選んだ(撮影・伊藤進之介)

この傾向の一番大きな要因は、18歳から22歳までの、大事な“選手としての成長期”に「本気の試合」を数多く経験できていることだと思います。「本気の試合」は、ただ単に「公式戦」ということではありません。選手たちが“チームとして勝つ”ことに“本気で”のめり込むような試合を毎週のように経験できることで変わるものが多くあるのだと思います。

「何を持っているか」より「どれだけピッチで表現できるか」

特に、大学は高校を卒業して一気に世界が広がる多感な時期です。「社会」というものの中にほっぽり出されて、「自分」という存在を強く意識するようになる年頃です。そのタイミングで、1年ごとにメンバーが入れ替わり、学年を上げていき、4年目には中心として様々に気を配っていかなければならない環境を与えられることで、「組織の中の自分」の活(い)かし方を否(いや)が応でも問いかけられ続けていくのだと思います。

それにより、大学出身者はJリーグの各チームの試合を見ていても、試合の中での自分の個性の出し方をよく理解している選手が多くいる印象です。監督の要求に応え、周りの選手たちを活かし、そして周りに活かしてもらう術を持ち合わせているように感じるのです。それは、先ほど挙げた代表選手たちの顔ぶれを浮かべたら、更によく分かりますよね。彼らのプレーを一目見たら、彼らの個性というものがすぐに分かる選手たちばかりです。

岩政さん自身も、大学4年間でプロとして戦うための力を知識を養った1人だ(撮影・山本倫子)

“本来持っているもの”で比べたら、おそらく大卒よりも高卒の選手たちの方が突出したものを持っていたはずなんです。高校でスカウトの目に止まるほどの選手たちだったわけですから。しかし、プロでは「何を持っているか」ではなく、「どれだけピッチで表現できるか」が競われます。個性を持っているだけでは不十分で、試合の中で表現できなければ意味がないのです。それは選手みんな理解はしていることではあるものの、やはりそれを数多く、本気の勝負の中でトライアンドエラーしながら学ぶ経験ができる大学の選手たちは、その練度を高めていけているということなのでしょう。

それ以外にも、幅の広い交友関係や経験、そして学業の影響も見逃せない要素です。いずれにしても、これだけ生き方の多様性が注目される時代。転職や副業が当たり前になってきた、その時代背景とともに、大学を経由してプロになるという道は、更にその重要度に注目が集まっていくかもしれませんね。

サッカー応援団長・岩政大樹コラム

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