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連載:サッカー応援団長・岩政大樹コラム

W杯アジア最終予選で初登場した「憲剛・岩政カメラ」に見るアイデアの真意

ワールドカップアジア最終予選の解説をするにあたり、岩政さんは通称「憲剛・岩政カメラ」に挑戦した(撮影・伊藤進之介)

9月2日、サッカーのワールドカップアジア最終予選が始まりましたね。日本代表はからくも1勝1敗(9月27日現在)。厳しいスタート(日本 0-1 オマーン)となりましたが、2戦目(日本 1-0 中国)で結果を出したのはさすが。大事な10月シリーズが今から楽しみです。

縦方向に見ないと分からないこと

その9月シリーズにて、私は裏チャンネルで中村憲剛さんと一緒に通称「憲剛・岩政カメラ」を使った解説をさせていただきました。初めての試みだったので、内心ドキドキしていましたが、多くの方に喜んでいただけたようでホッとしています。

この「憲剛・岩政カメラ」とは、通常テレビで見ている横映像ではなく、ゴール裏から縦方向にピッチ全体を映し出した映像です。ワールドカップの時などは「戦術カメラ」なる言われ方で映像だけ配信されたこともありますが、ピッチ全体を常に写せる画角であるだけでなく、選手たちが見ている景色、考えている景色に近いことから、私はかねてよりこの画でサッカーを見ることが大好きだったのです。

サッカーという競技において、ゴールは縦方向にしかついていません。選手たちは縦方向に攻めるのです。当たり前ですが。選手たちは縦方向に攻め、縦方向に守ります。ただ、もちろん相手もいるスポーツですから、正直にまっすぐ突っ込んでも相手に邪魔されてしまいます。だから、少し回り道になっても外から攻め、相手の目線や狙いを分散させた上で、最終的にゴールを目指すわけです。

そう考えると、縦方向に見ないと分からないこと、というものが出てきます。特に、縦パスのコースの有無や横の選手たちの連動、そして、幅を使うことの重要性などが挙げられるでしょうか。これらは全て、ピッチ上で戦術的な行動をチームで行う上でとても重要な事柄ばかりなのです。だからこそ、この画角は「戦術カメラ」とも言われ、マニアたち(いい意味で!)の間で人気を博してきたわけです。

“既存のものと既存のものの掛け合わせ”

今回、この裏チャンネルの企画をいただいてから、私の中で、心はすぐに決まっていました。この縦の映像でサッカーを見てほしい。そして、そこに解説を加えることでピッチレベルの絵に近い景色を伝えたい。少々、いやだいぶ不安の入り混じる初企画でしたが、皆さんの反応を受け、「やって良かった」と思っています。

「憲剛・岩政カメラ」では映像だけでなく話す内容も“リアル”を意識したという(撮影・山本倫子)

アイデアとは“何もないところから新たにこれまでなかったもの生み出すこと”と考えがちですが、実はほとんどが“既存のものと既存のものの掛け合わせ”だと聞いたことがあります。そう考えると随分ハードルが下がったように感じて、「なるほど」と思ったものです。

今回の裏チャンネルも、皆さんに「斬新でしたね」と言っていただきましたが、私たちは決して新しい何かをゼロから生み出したわけではありません。ただ、「戦術カメラ」に「解説」をのせたものは、確かにこれまで見たことがなかった。加えて、少し工夫したことと言えば、その伝え方。普段通りの少し硬い解説スタイルではなく、もう少し砕けた口調で、専門的なことを話しながらも、より聞き取りやすく伝わるようにしてみました。家でサッカーを見る時には、もっと砕けた自分がいるのですが、その一端がときおり出てしまったかと思います。いかがでしたでしょうか。初回の反響を受けて、次回があるのか、ないのか。楽しみにお待ちください。

さて、今回考えていただきたいのは「アイデア」のところのお話です。アイデアとは“既存のものと既存のものの掛け合わせ”。そう考えると、少し楽にアイデアというものに挑戦できる気がしますよね。

そこに大事な視点をもう1つ加えるとしたら、“遠くのものから掛け合わせる”ということだと私は考えています。「戦術カメラ」の“硬さ”の中に砕けた雰囲気の“柔らかさ”を。それが今回の企画のキモだったなと感じています。

サッカー応援団長・岩政大樹コラム

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