サッカー

一橋大学ア式蹴球部・戸田和幸監督 次の100年に向け、学生たちと歩む第一歩

戸田さんはコーチを経て、今年3月より監督として一橋で学生たちを指導している(撮影・全て松永早弥香)

1921年(大正10年)に創立された一橋大学ア式蹴球部は今年、100周年を迎える。その節目のタイミングで2つの大きな変化があった。ひとつはOBOGたちが立ち上げた小平グラウンドの「人工芝化プロジェクト」を経て、3月にグラウンドが人工芝になったこと。そして同じ3月に元日本代表の戸田和幸さん(43)が監督に就任したこと。「これまでの100年と次の100年のつなぎ目にいて、新しい第一歩を踏み出せる稀有(けう)な立場。その喜びと責任と使命感をしっかりもって、毎日頑張ろうと伝えています」と戸田さんは言う。

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ユニット制を敷く学生主体のチーム

戸田さんは2013年に現役を引退した後、S級ライセンスを取得。18年には慶應義塾大学のコーチとしてCチームの指導をしている。一橋OBからの声かけと学生たちの意思を受け、戸田さんは20年2月にまずはコーチとして一橋大学ア式蹴球部に向き合った。

部員は毎年80人ほど。これまでチームには普段から指導してくれる監督がおらず、トレーニングや戦略などは学生たちが考えてきた。部は学生主体の組織であり、ゼネラルマネージャーも学生が担っている。マネジメント部、会計部、営業部、用具施設部、プロモーション部、フィジカル部、パフォーマンス部というようにユニット制を敷いており、スタッフだけでなく選手も皆、どれかのユニットに所属している。

スポーツマネージメントを学んでいるスタッフの長島直紀(右、2年/長田)は、戸田さんと一緒にAチームを支え、Bチームでのコーチングやマネージメントに生かしている

近年は東京都リーグに所属しており、16年には36年ぶりに1部昇格を果たした。しかし翌17年には2部に降格し、現在に至る。チームが目指すのは東京都1部リーグ昇格。チームを強くするには指導者が必要だと感じ、戸田さんをコーチにすえてチームは動き始め、今年3月に戸田さんは監督になった。「(コーチだった去年から)やっていることはほぼ一緒。東京都1部リーグを目指すのは変わらないです。でも肩書が変わって責任は増しました」と戸田さんは言う。

サッカーだけではなく、人材育成の意識をもって

選手たちは皆、狭き門を突破して入学した学生ばかり。スポーツ推薦はもちろんない。その上で学生たちはどのくらいボールをしっかり捉えられるか、組織としてプレーするベースをもっているか。自分たちが属する東京都リーグ2部がどのくらいのレベルで、その中でどのくらいのパフォーマンスを発揮できるか。戸田さんは、サッカー中心の生活をしてきた自身の経験はまず置いて、今目の前にいる学生の現在地を見定めることから始めている。

戸田さんが学生たちに最も求めていることは、「毎日グラウンドに来る目的は何か」ということ。サッカーが好きだから、自分の限界に挑戦したいから、学生主体の組織運営を学びたいから……。学業を第一とする学生が多い大学だからこそ、一人ひとりが様々な目的を持つことを否定しない。ただチームが東京都リーグ1部に昇格するために必要なことや意識は明確に伝える。その上で学生たちがどう考えて行動するかを見て、そのためのサポートをしている。またサッカーに限定せず、その後のステージにどう生かしていくかということも、指導する上で意識している。

「フットボールはひとつの社会生活と同じだと思っています。例えば会社にはそれぞれの理念や達成目標があると思うんですけど、それに向けて一人ひとりの役割が決まるし、個々人が担うことも変わっていく。まずは人としての部分ですね。その場所に自分が存在して、協力して、どう振る舞うのか。サッカーって振る舞い方を考えるスポーツだと思っているんですけど、仲間がいて相手がいる中でどうやって自分たちが思うような結果に近づけていくか。学生たちとコミュニケーションを取りながら次のステージを見据えて声をかけています」

戸田さんから指導を受けて1年。北西は日々の練習も目的が明確になり、ワクワク感をもってサッカーができていると話す

主将の北西真之(4年、浦和)も、戸田さんから指導を受ける中でチームの変化を感じている。「もちろんサッカーの指導者ということで、サッカーの領域で大きな変化はあったけど、学生の部活として人として、社会に出る1歩前の立場でとても学ぶことが多いなと思っています」と話す。

北西自身、これまでのサッカーを振り返ると、監督からの指示に従うことが多かったという。自分で正解を見つけていく学生主導の組織の中で人間として成長したい、というのが北西がここでプレーする元々の目的だった。今は主将としての責任も加わり、東京都リーグ1部昇格のために自分ができることを日々考えながら、チームの理念である「部に関わる全ての人々を熱狂させる」を体現していく。

人工芝化の感謝の思いを結果で示す

戸田さんが指導に立ってから、チームはA・Bの2チーム制になった。Aチームは戸田さんが指導し、戸田さんからコーチングやマネージメントを学んだ学生スタッフがBチームの指導にあたっている。そのA・Bチームは毎週のようにメンバーが入れ替えられ、適度な競争意識が生まれた。

また選手たちは普段の練習でも、チームの練習着でグラウンドに立つ。これは戸田さんの提案だ。「自分たちは一橋大学の選手なんだという意識付けにもつながるでしょうし、誰かが見た時にどういう印象を与えるかというのも大事です」。服装に限らず、普段のあいさつひとつをとっても自分たちの姿が表現される、ということも学生たちに伝えている。

前述の通り、3月30日に人工芝のグラウンドが完成した。ア式蹴球部が100周年を迎える今年に合わせ、ア式蹴球部とアメリカンフットボール部のOBOGたちがプロジェクトを起こし、そこに準硬式野球部も加わり、19年から寄付募集を開始。最終的に約1.4億円が集まり、2面の人工芝が今、小平グラウンドには広がっている。それまでは土のグラウンドだったため、近辺の施設を借りて練習をしてきた。戸田さんは言う。

「最高ですよ。決まった時間に練習できるし、備品もたくさん使えていろんなトレーニングもできるし。『感謝』の一言しかないんです。学生たちも分かっていると思うんですけど、人間慣れますからね。常日頃から感謝の気持ちをもって、自分たちがここにいて何をしなければいけないのか、しっかり認識してほしいなと思っています」

北西も「ホームグラウンドができたことはありがたいです。本当に素晴らしいグラウンドなので、ミスをグラウンドのせいにできない」と感謝の思いを胸に、結果を出すことで恩返しをしたいと考えている。

練習では戸田さん(右)も体を使って指導している

一人ひとりが重要な存在

いつまでに東京都リーグ1部昇格を果たすか。戸田さんは「学生次第」と言う。監督として最大限の準備をした上で選手をピッチに送り出す。ただ「最初から1部昇格と言うな」と学生たちに伝えている。「それは1試合1試合戦った先にしかないことだから。僕たちはあくまでもチャレンジャーなので、次の試合のことしか考えていません。でも可能性はなくはないと思っていますよ。僕たちのスタート地点から考えるとすごく伸びてきていると思っていますし」

スポーツ推薦があるようなチームではないからこそ、戸田さんは一人ひとりが重要な存在と伝えている。高い目標設定を掲げて勉強を積み重ね、一橋に進学してきた学生たちだから、サッカーにおいても現在地を見定め、目標に向けて何が今の自分に必要なのかを一人ひとりが考えてほしいと期待している。

「学生が一番」という意識で戸田さんは学生たちと向き合っている

練習前、戸田さんは学生たちにこう言った。

「頑張るよ。単純な言葉だけどいろんなことが含まれている。やってきたことをもっともっとレベルが高いところで頑張ります」

情熱を胸に、更なる高みを目指し、躍動する。

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