サッカー

上武大・岩政大樹監督、10年後に常勝チームになるための1年「プレーモデルはない」

チームとしては「関東大学リーグ昇格」という目標があるが、岩政監督はその先を見すえている(撮影・全て松永早弥香)

元日本代表の岩政大樹さん(39)は昨年4月に上武大学サッカー部のアドバイザーになり、今年1月、上武大の監督とビジネス情報学部スポーツ健康マネジメント学科准教授に就任した。監督になってからすぐのタイミングで、岩政監督は「10年後に大学サッカー界で名を馳(は)せるような常勝チームになっていること。今年はその1年目にしよう」とチームに呼びかけ、改革に着手した。

上武大の監督になり、岩政大樹が学生に感じた「無限の可能性」
島で育ち、勝つためのサッカーを悟る 元日本代表・岩政大樹さん1

サッカーの“原則”を伝え、選手自身が考えて判断する

「この前のゲームでいいシーンがあったよね?」

練習前、岩政監督は選手たちを前にしてJリーグやプレミアリーグのワンシーンを、ホワイトボードを使って紹介する。それは練習の時に限らず、ことあるごとにチームのLINEに「よかったらこれ見ておいて」と学生たちに伝えている。しかし強要はしない。「選手たちには最初に伝えましたけど、チームを作るのは選手たちだと。選手たちが判断して、自分たちのプレースタイルを決めていく。それが僕の指導スタイル」と岩政監督は言う。

岩政監督は学生に対し、常日頃から「プレーモデルはないよ」と話している。監督としてサッカーの“原則”を選手に伝え、選手自身が考えて判断していけるような状況を作り、チームの絵を作り上げていく。だから監督としての意気込みをたずねられても、「僕自身はそれほどないですね。選手が決めていくことなんで」と答える。

Jリーグやプレミアリーグのプレーを紹介するのも、選手たちの可能性を広げるひとつの方法

サッカー部は上武大創立の翌年(1969年/昭和44年)に創部し、2003年に強化指定クラブになった。08年には関東大学リーグ昇格決定戦を制し、関東大学リーグ初昇格を果たしている。しかし10年に北関東リーグへ降格。その後は毎年、リーグ内1~3位と実績を残している。昨年はアドバイザーだった岩政監督は、チームに対し想像していたよりもレベルが十分高いと感じ、これからもっと成長できる可能性を感じた。

「大学のスローガンに『雑草魂(あらくさだましい)』というのがあるんですが、みんな真面目に取り組んでいます。ただサッカー的に言うと、発想とか変化とか、面白さとか、驚きとかがまだ比較的ない。サッカーだけではなくて、当然、日常から関わっていると思います。日々どのように過ごしているのか、どのような考え方で組織が回っているかは、ピッチに表れるものだと思っています。僕の経験上、真面目にコツコツというのはベースとしてありつつも、その先で大きな結果を残すためには、一人ひとりの発想や、これまでの慣習にとらわれ過ぎない姿勢も大事。実際にそれをチームに植え付けたところでどのように変わっていくのか、というところだと思います」

選手に寄り添い、時には律し、時にはともに笑い

部を訪れた日は練習の強度を落とした日だったこともあり、岩政監督の表情は柔らかく、選手たちも時に笑みを見せながら練習に取り組んでいた。もちろん強度が高い練習の時には厳しい指摘もしながら、選手たちの“基準”を高めていく。「これまで要求されていなかったところまで要求されているというのはあるだろうし、そういった厳しさを彼らも感じていると思うんです。(監督と選手の)関係性でどれだけ選手に響くかは変わってきますので、そのために僕は彼らの中に入り込む必要があります」。時には厳しく律し、時には手を差し伸べる。状況に応じて接し方を変えながら、選手たちに寄り添っていく。

プロの世界を知る岩政監督に、選手はワクワクしながら学んでいる

主将の大久保龍成(3年、上田西)に岩政監督の選手時代の印象をたずねると、11年のAFCアジアカップ(カタール)で日本が優勝した時の印象が強いと話すが、当時はまだ小学5年生だった。テレビでその活躍を目にした人が自分たちのチームの監督になると知り、うれしさがあった一方で、プロの世界を知る人だからこその厳しさ・怖さも感じていたという。

実際に指導が始まると、今のプレミアムリーグやJリーグでのプレーも取り入れた練習は素直に楽しく、質問にも的確な答えが返ってくる。「言っていることややっていることは面白かったり納得できたりする部分が大きいので、そんなところに経験の差を感じています」。大久保は今、入部した時から思い描いてきた「関東大学2部リーグ昇格」、そして「天皇杯初出場」に向けてチームを支えながら、ラストイヤーはサッカー選手としての自分の可能性を広げたいと考えている。

また今年2月からは班活動が始まった。これは200人規模の組織全体を巻き込んでいくような活動を目指し、岩政監督が提案したものだが、あくまでも主役は学生自身。希望を募り、それぞれが活動している。班は「コーチング班」「トレーナー班」「フィジカル班」「プロモーション班」「地域貢献班」「分析・サッカー研究班」「メンタル班」と分かれており、例えばトレーナー班は専門スタッフに学び、練習でけがした選手の元に駆けつけてくれる。「普段の練習でも安心できるようになりました」と大久保は言う。こうした班活動でチームの基盤を支えるとともに、学生一人ひとりの自主性を育て、自分の武器を増やしてほしいと岩政監督は期待している。

時には選手と一緒に笑い、選手に寄り添う

大学4年間、みなが挑戦をしてほしい

チームは岩政監督が指導するトップチームを含め、5つのカテゴリーに分かれている。学生の中にはその先にプロを見すえている選手もいれば、大学4年間でサッカーをやり切りたいと考えている選手もいる。色々な目的を持ってサッカーと向き合う学生たちに、岩政監督は指導者として「バランス感覚」を大事にしている。

「僕の場合は幸い、日本のサッカーを上から下まで見ることができていますので、どこまで要求すれば彼らがどうなっていくのかある程度は想像がつきます。それを彼らに示しながら、でも示すだけではギャップが起きてお互いに一緒の舟に乗れなくなってしまうので、彼らに寄り添いながら少し上にもっていけるように声かけをする。そんなバランスを意識しています。僕は(監督に)就任した際に『BE PROACTIVE』な人材になろうと呼びかけたんですけど、サッカーを卒業後も続けるかは別にして、これまでの慣習も大事にしながら、自発的かつ積極的に自分たちがこうと思うことを始めていけるような人材であってほしい。成功・失敗は出てくると思いますけど、試してやってみたということを経験して卒業してほしいなと思っています」

学生たちに求めるからこそ、岩政監督自身も「BE PROACTIVE」を常に意識している

10年後を見すえた1年目。監督に就任してからまだ約3カ月ではあるが、岩政監督はすでにチームの変化を感じている。「結局、1日1日成長していった過程を経て、結果は後についてくると思うんです」。これから学生たちが少しでも上を目指して歩んだ先でどこまでいけるか、岩政監督自身も学生たちの可能性を楽しみにしている。

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