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連載:サッカー応援団長・岩政大樹コラム

岩政大樹「勝つこと」よりも「勝つことに挑み続け・考え続けること」に価値がある

岩政さんは上武大の監督として「“いい戦い”では足りない。勝ち切らなければ」と学生たちに伝えてきた(撮影・全て松永早弥香)

サッカーから教えられたことはたくさんありますが、その1つは、勝負事に勝つことの難しさです。私は生粋の負けず嫌いだったので、小さい頃からとにかく勝ちたかった。それなのにサッカーの才能がなかったからタチが悪かったのです。勝つために考えて考えて。今もサッカーを考え続けていますが、それでも勝つことは難しい。それがサッカーの魅力でもあると思っています。

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島で育ち、勝つためのサッカーを悟る 元日本代表・岩政大樹さん1

格上のチームに善戦したけど敗れたという事実

先日、アミノバイタルカップ(関東選手権)がありました。私が監督をさせていただいている上武大学は現在、北関東リーグ(実質関東3部)に所属していますが、予選を勝ち上がれば、この関東大会に出られます。関東の強豪たちに立ち向かっていき、自分たちの力を試す、示す。それができる機会は今の私たちのカテゴリーでは限られていますから、この大会をシーズンが始まってからの大きな目標の1つにしていました。

結果は予選こそ素晴らしい内容と結果で勝ち上がることができましたが、本戦では関東1部の強豪・駒澤大学に0-1で返り討ち。大きく掲げていた私たちの目標は達成されませんでした。

内容自体はよく戦えていたと思います。メンバーを大きく変えて臨んできた駒澤大学に対し、互角以上の戦いができたと思います。しかし、結果は負け。サッカーにおいてはこういう時の解釈がとても大切です。

格下のチームが格上のチームに対し、善戦しながらも敗戦。サッカーにおいてはよくあることです。それ自体に価値がないとは言いませんが、サッカーではどんな相手に対しても、善戦することはそれほど難しくありません。だから私は試合前から言い続けていました。「“いい戦い”では足りない。勝ち切らなければ」と。しかし、私たちは結局“いい戦い”止まりで、勝ち切ることはできませんでした。

目を向けるべきは「自分たちの歩み」

ただ一方で、私が目を向けなければいけないのは、自分たちの歩みです。私たちのシーズンはまだ半ば。もっと言えば、上武大学が強豪になるための新たな試みは始まったばかりです。そう考えた時に、駒澤大学との試合、そして予選での戦いぶりは決して悪いものではありませんでした。

練習試合とその後のアミノバイタルカップでの戦いぶりを見て、確かに進んでいることが見てとれた

数カ月前にも、練習試合ですが、強豪大学やJリーグのクラブと引き分けたりはしていたのです。しかし、駒澤大学との試合ほど自分たちで意図的に数多くチャンス(の手前)を作り出すことはできていませんでした。それはその日の調子というより、自分たちの戦い方に対する確信や再現性が高まってきていることによるものだった。であるならば、サッカーの観点において、私たちは歩みが止まっているわけではなく、進めることができているということです。

結果と内容。このバランスも勝負の世界でいつも突きつけられる難題です。自分たちの歩みの正しさを証明するものは結果でしかないのが、このサッカーという世界。しかし、不確定要素の多いサッカーという競技においては、結果だけを見ていては間違ってしまう道というものがあります。結果と内容をどう解釈し、チームとしてどんな絵を描いて、次に進むのか。そこがサッカーチームのマネジメントの最も重要なポイントだと思っています。

選手たちを“チームを勝たせる選手(男)”にしたい

最近、少し分かってきたことがあります。私は“本気のサッカー”を通して、ずっと勝つことに対して考え続けてきました。ただ、それは「勝つことに価値がある」からではなく、「“勝つこと”に本気になって挑み続けること・考え続けることに価値がある」からだったのだろうということです。勝ったって負けたって、結局、私の人生は続いてきたし、結果がどこかでどう入れ替わっていても自分は自分でいられた自信があります。しかし、勝つことに対し、考え、悩み、挑み続けたからこそある今の自分は、そうしてこなかったら、きっと今のようではいないだろうと思うのです。

岩政さんが選手だった時も、“勝つこと”に本気になって挑み続け、考え続けてきた

今は立場が変わり、私は選手ではなく指導者になりました。私は“プレーするのは選手”だと思っていますから、“チームを勝たせるのも選手”だと思っています。だから、「自分が勝たせたい」という気持ちにも少し変化がありました。今は「自分が勝たせたい」と言うと語弊があるかな。「選手たちを“チームを勝たせる選手(男)”にしたい」。挑み続けます。

サッカー応援団長・岩政大樹コラム

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