サッカー

連載:サッカー応援団長・岩政大樹コラム

サブ組にいたころの鹿島・遠藤康を見て感じたこと、可能性をどう引き出すか

2007年1月、塩釜高の遠藤康(左)は鹿島アントラーズに入団した。当時はまだユニフォームの番号も決まっていなかった(撮影・朝日新聞社)

私は来年から上武大学で指導にあたることになっています。その準備として、大学の練習に顔を出したり、高校生のトライアウトを視察に行ったり、近くの高校にご挨拶にうかがったりしています。新型コロナウイルスの影響で限られた範囲の中にはなっているものの、周辺地域を回りながら日本の秘めた可能性に驚いています。どこに行っても、サッカー選手としての可能性を多分に秘めた選手たちがうじゃうじゃいるからです。

島で育ち、勝つためのサッカーを悟る 元日本代表・岩政大樹さん1

高卒ルーキー時代のヤス

そういう選手たちを見ながら思い出すのは、自分自身の若い頃の記憶です。私も岩国高校時代には山口県選抜にギリギリ選ばれるくらいの、各地域のどこにでもいるようなレベルの選手でした。しかし、東京学芸大学を卒業する時にはたくさんのクラブからオファーをいただくような選手になり、その中から選んだ鹿島アントラーズでも1年目の秋から試合に出続けることができました。

自慢をしたいわけではありません。私の若い頃とこれから接することになる若い選手たちを重ね合わせながら、どんなことを伝えてあげられたら、彼らが自分自身を解き放って飛躍していくことができるのかを考えているのです。

そんな時に思い出したもうひとつの記憶があります。ベテランとなった今でも、鹿島アントラーズを牽引(けんいん)する働きを見せている遠藤康選手(32)の若い時のことです。

岩政さん(右)は東京学芸大学を卒業した2004年より10年間、鹿島でプレーした(撮影・朝日新聞社)

遠藤選手は、私が4年目を迎えた2007年に、仙台の塩釜FCから入団してきました。“鳴り物入り”というほどは注目されていなかったと思いますが、それでも鹿島が高卒でオファーを出すほどの選手です。入団当初から太い足でボールを覆い隠すようなボールキープは健在で、紅白戦で対面することの多かった内田篤人選手がいつも対応に苦慮するほどの選手でした。

しかし、鹿島の中盤は当時最激戦区。1年目からベンチ入りを果たして出場機会こそ与えられたものの、3、4年目を迎えても、“サブ”の域を超えられない状況が続いていました。その頃、すでに私とヤス(遠藤選手)はとても仲が良かった。寮で食事をとる時に一番うるさいのが私たちだったのです。

サブ組から次のステージに行ける選手と行けない選手

そんなある日のことです。確か試合の次の日の練習だったと思います。私は前日の試合に出たので軽い練習で終え、サブ組の練習を見ていました。注視していたのはヤスでした。ヤスはその頃、伸び悩んでいました。時折スタメンで試合に出ることはあったものの、常時試合に出ることは叶(かな)わず、またサブに回されるという状況が続いていました。そんな時だったからか、私はヤスの練習に対する姿勢が不満でした。なんというか、「おれはレギュラーになりたい!」という気持ちを表現できていなかったのです。ヤス自身はそんなつもりはなかったと思います。サボっている、というわけではまったくありませんでしたから。ただ、その時のヤスには“客観的な目”が欠けていたと思います。

サブ組での練習というのは、試合に出られていない選手たちで行う練習です。レギュラーになりたいのであれば、「頑張っています」では足りず、その練習の中で際立つ存在にならなければレギュラー組に昇格することはできないのです。つまり、練習でのプレーぶりや姿勢で「ヤスはここにいてはいけない選手だな」ということを見ているコーチングスタッフやチームメートに示さなければならないのです。「試合に出たい。出ればおれもやれる」。そんなフレーズを言うことは誰でもできます。しかし、それをプレーで、姿勢で示し続けられる選手はそんなに多くいません。サブ組の練習でひときわ目立つような気概を見せ続けられる者だけが、次のステージに向かえるのです。

今年、開幕から苦しんだ鹿島を救ったのは遠藤選手でした。チームの悪い流れに乗ることなく、自らの武器を遺憾なくピッチで表現することで流れを変え、結果を変えました。うだつの上がらない時期を乗り越えたヤスが、鹿島というトップクラブで14年もの歳月を生き抜いてきた価値を改めて示した前半戦だったと思います。

“客観的な目”を意識する

さて、そんな記憶を頭に浮かべながら、今の可能性のある若い選手たちに目を向けると、足りないのはサッカーの才能ではなく、そうした気概だなと行き着きます。それは「持っていない」というよりも「表現できていない」のだと思います。別に、大声を出したり、大きなジェスチャーでアピールしたり、といったことを言っているわけではありませんよ。ただ、なんとなく同調の空気感の中で、個性が埋もれて見えてしまう選手は多いように思います。

自分をアピールでき、チームを勝たせられる選手になるには(撮影・山本倫子)

それはもしかしたら、若い時のヤスのように“客観的な目”を意識できていない、そして、想像できていないことがひとつの要因かもしれません。トライアウトを見にきている人はどんな選手を欲しがるのか。練習を見ている監督はどんな選手を使いたくなるのか。一緒に練習している選手たちはどんな選手を認めるのか。そう考えれば、目的は同調にはならないはずです。「トップ」を目指すのであれば際立たなくてはなりません。悪い流れを、先頭を切って変えていける存在にならなければなりません。

私はそんな選手を多く輩出したいと決意を新たにしています。チームに必要な規律の中で、いかに考え、いかに表現をして自分の個性を際立たせていくのか。そして、チームを勝たせられる選手になるためには。覚悟、気概、解放、そして飛躍。暑い夏ですが、暑い夏だからこそ、頑張っていきましょう。

サッカー応援団長・岩政大樹コラム

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