S級指導者ライセンス取得に向け、岩政大樹が学生を指導しながら感じたこと
私は今、S級指導者ライセンス取得のための講習を受講しています。指導者ライセンスの講習会は他の講習でも大学生がサポートしてくれるのですが、新型コロナウイルスに対する対策を入念に行いながら、今回も協力してくれました。
「相手を見て選ぼう」の言葉に託した意味
協力してくれる大学生の仕事は、合宿のオーガナイズだけではありません。私たちが指導実践を行う中で、プレーヤーとしても参加してくれます。とくにS級はプロクラブを指導するためのものですから、私たち受講生のようなおじさんたちだけでは実践的な講習になり得ませんからね。とても助かります。
ただこれ、単に協力してもらうだけでなく、私にとっては大学生との絡みがいつもとても役に立っています。というのも、大学生も多種多様。色々な若者がいて、彼らの心理から色々と考えると、いつもとても深い学びになるのです。
例えば、毎回いるのが、積極的に質問をぶつけてくる選手。いつもそれほど多くはないのですけどね。でも必ずいます。こういう選手にはつい、色々なことを伝えてあげたくなります。しかし、私が関わるのは数日だけ。ずっと指導し続けるわけではないので、伝える事柄の選び方が大切になります。
とくにこうした勉強熱心な子は、私に言われたひとつのことを実際よりも強く受け止めてしまいがちだと思うので、具体的なものをできるだけ避けて、広く様々な場面で使える抽象的なものに抑えなければなりません。つまり、ある場面のある判断について「こうすべき」と言っただけでは、逆に今後のその選手を惑わせてしまうかもしれないのです。
なので、今回も具体的なことを聞かれた時は、もしかしたら素っ気なかったかもしれませんが、「相手を見て選ぼう」とだけ伝えました。そして、とくに「動いた相手を見るとスペースが見えるよ」、「そのための体の向きは? 立ち位置は?」と、自分でこれから答えを見つけていけるキーワードを伝えたつもりです。
細かい指摘は学生たちの「これから」のために
また、私が毎回してしまうのが、プレーしていると昔の自分に戻ってしまうこと。とくに、近いポジションの選手には細かく指示を飛ばしてしまいます。ただでさえ、私とプレーすることで緊張感を持ってしまう選手がいる中で、いつもの調子で「2m右!」とか「今のは縦からだ!」といちいち指摘を入れてしまいます。
これは言い訳をさせてもらうと、その細かさの基準を知ってもらいたいという願いがあります。中には頭がパンクしてしまいそうになっている選手もいるのですが、その時に考えるのは彼らの“今”ではなく“これから”。講習会が彼らの勝負の場所では当然ないわけで、大学に帰った時に基準となるようなものを持つことで成長していってもらいたいと思って、続けました。
そんなことを大学生とプレーしながら考えていると、いつもとても深い学びになります。実際に大学生たちは、言葉の選び方や接し方次第で、講習会の中だけでも一気に成長を見せることがあります。今回も、すさまじいほどにいいプレーをしていた時がありましたよ。
ただ、私はその後の彼らを一人ひとり追うことはできません。よって、今後、生かされるものがあったのかどうかは分かりません。というより、生かすかどうかは彼ら次第、だということでしょうか。私だけでなく、受講生からもらった言葉や指示は少なくなかったでしょう。それらをぜひ振り返って、今後につなげてほしいと願っています。
自分を知ることが明日への一歩
と、今回協力してくれた学生たちへの個人的メッセージみたいになりましたが、それを意図して書いているわけではありません。
大学生とは、高校生までの時とは比べ物にならないくらい多様な経験をする年代であり、大学はそういう場所だと思います。付き合う友達もそうですよね。これまであった“自分の範囲”の外に人脈も経験も一気に広がっていると思います。その時に、おそらく「自分はどんな選手か」そして「自分はどんな人間か」を計れるようになっていくことでしょう。そして、「基準」というものを知る経験もあるかもしれません。
さあ、それでは自分は、選手としてどのようにプレーするか、人としてどんな生き方をしていくのか、どんな自分を目指すのか。そんなことを考え始める時間を大切にしてください。そして、すべては自分次第であることを自覚して、明日に向かってください。そうしたら、明日の景色が一気に変わっていくのが若者たちの特権です。