鹿島内定の明治大GK早川友基 リーグ開幕節で見せつけたラストイヤーの決意
それを「春」と呼ぶには、少々無理があるかもしれない。桜の花はとうに散り、代わりに雨粒が地面をたたく。だが「ガチンコ勝負ができることがうれしい」と小柏剛(4年、大宮アルディージャユース)が言うように、選手たちが駆け回るピッチは生命力で満ちあふれていた。7月5日、長過ぎる冬を超えて関東1部リーグに訪れたのは、まさしく「春」だった。
輝きを放った最後の砦
昨年度王者・明治大の初戦は駒澤大とのカード。前半19分にこぼれ球を収めた小柏の1点を守り切り、2020年の初陣を白星で飾った。さらには「途中から入った選手がよくやってくれた」と栗田大輔監督が話すとおり、この日が公式戦デビューとなった時里元樹(4年、浦和レッズユース)らが活躍するなど、実りの多いゲームとなった。
その中でもひときわ輝きを放ったのが、守護神・早川友基(4年、桐蔭学園)だった。後半7分、この試合最大のピンチが訪れる。ゴール前中央に抜け出した相手選手にボールが渡り、フリーでPA(ペナルティエリア)侵入を許してしまったのだ。待ち構えるのは早川ただ一人。「相手の間合いに持っていかれたくはない」。ここで早川は前に出る選択を取った。1対1の駆け引きを優位に保つための判断だった。狙いは奏功し、放たれたシュートを見事右足でブロック。最後の砦(とりで)は崩れなかった。
ビッグセーブのみならず、司令塔としても存在感を発揮した。明治大のサッカーは、3バック、4バックと自在に組み替わるシステムが強み。この日も後半途中から3バックに変わると、DF陣を後方から自らの声で統率。相手のカウンター攻撃をつぶすため「前線の方は個人に任せるけど、リスク管理の面を重点的には伝えるようにしている」。常に0点に抑えるための策を講じ続けた。今節の完封勝利は、まさに早川あってのものだろう。
GKとしてこだわっているのは、安定したプレーで無失点に抑えること。「より細部にこだわるほど試合で力を発揮できる」と、日々の練習からキャッチやセービングなど、さまざまな状況を想定して準備することを怠らない。チームの活動自粛期間中には感覚が鈍らないよう、公園でボールと触れ合っていた。
試行錯誤を続けた日々
明治大に来て最も成長したのはメンタル面だと話す。1年次の総理大臣杯でもゴールマウスを任されるなど、下級生のころから試合に出場していたものの「プレーや行動に甘さが出て信頼を勝ち取れなかった」と振り返る。
「悔しさを隠し切れないときやネガティブになりそうなときがあった。何かに理由付けしている弱い自分がいた」。昨年度の部員ブログではこう綴っていた。
そんな早川が変わったのは、常に自分と向き合い続けたからだ。「試行錯誤を続けて、日々の積み重ねと経験から個人を高めた」。そのかいあってか、昨年度からは再び出番が回ってくるように。1年先輩のGK加藤大智(現・愛媛FC)と熾烈なスタメン争いを繰り広げつつ、リーグ戦では自身初となるベストイレブンを獲得。大学サッカー界を代表するGKとして、確固たる地位を築き上げた。
「即戦力として活躍したい」
6月19日、DF常本佳吾(4年、横浜F・マリノスユース)と同時に、J1・鹿島アントラーズへの内定が発表された。小、中(横浜F・マリノスジュニアユース)、大(明治大)と高め合ってきた仲間と同じ進路を選んだのは「偶然」と言うが、自身の思い描くビッグクラブでのプレーが早くも現実となった形だ。「こういう状況の中で、昨年度の結果やプレーを評価して頂いた。誇りと感謝を持って、即戦力として活躍したい」。努力が報われた瞬間から、早くも先を見据える。
「今まで先輩たちが多くのタイトルを獲得する景色を見てきた。今度は自分がチームを引っ張る番」。ここまでは予想外のことだらけ。それでも「大学ナンバーワンを取るために、日々全力で取り組んでいく」と、やることは変わらない。前述のリーグ開幕節では、その決意をまざまざと見せつけた。早川の大学ラストイヤーは、きっと素晴らしいものになるはずだ。