サッカー

筑波大・小井土正亮監督が学生を迷わせる理由、血肉になるのはエネルギーを注いだ経験

指導者として18年目になった今も、迷いがなくなることはない(撮影・松永早弥香)

筑波大学蹴球部の小井土正亮監督(43)は筑波大学大学院の学生だった時にトップチームのヘッドコーチ(HC)を任され、指導者としては今年が18年目となる。当初と比べて決断が早くなったかと言われれば、「そうでもない」と答える。「昔は引き出しが少なかったけど、今は経験も増え、選択肢が増えた分、迷う材料が増えて迷い方が変わりました。だから今も迷わないことは決してないけど、決断し、うまくいかなかった時に『この決断はこういう理由で失敗したな』と早い段階で分かるようになりましたね」。迷いながら前に進む。その意識を学生たちにも促している。

母校で出会った「一生ものの仕事」 筑波大蹴球部・小井土正亮監督(上)

未来に向けて行動していたのが三笘だった

最短で最良の選択ができるのであれば、それに越したことはないだろう。しかし小井土監督自身も常に正しい選択ができているわけではなく、締め切りが決まっているからこそ、迷いながら決断をしているという。「時間があればあるだけ迷います。早く、正確になったということではなく、また別のベクトルで迷う。迷わなくなれたらいいんですが、ジョゼップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティFC監督)の本を読んでいたら、彼でも迷っているから一緒なんだなと勇気づけられました(笑)。そんなもんじゃないですかね」。少しでも精度を高めるためにできるだけ多くの書籍にあたる。その範囲はスポーツに限らず、量子力学や心理学など多方面にわたり、研究室には読む予定の本が積み重なっていた。

小井土監督は学生に対し、必要以上に情報を与えず、必要以上に断定的なことを言わないようにしている。学生自身が考えて行動することに意味があり、自分に合った方法で道を切りひらいていくことを期待している。例えば蹴球部はアルバイトを容認しているが、「深夜までアルバイトをした時に翌日はどうか。それを続けた結果、もしけがをしたのであれば、改めないといけないですよね。勉強しないと、痛い目を見ないと分からないこともあります。せっかく大学に来たんだからいっぱい失敗しろよって思うんですよ」という思いがあってのことだ。

三笘(右)は大学4年間で様々なトライアンドエラーを繰り返した

「その最たるのが三笘で、自分でつかんでいったなと思っています」と小井土監督が話すのが、筑波大を経て川崎フロンターレで活躍し、東京オリンピックのメンバーに選ばれた三笘薫(24)だ。「三笘も、これをやったら絶対脚が速くなる、これをやったらパフォーマンスが上がる、ってことだけをやってきたわけではない。迷うというか、将来ありたい姿に対して試行錯誤しながら到達するのが大事なわけですから。三笘は常にオープンなスタンスでいろんなことにトライし、自分にいいものを取捨選択していました。そういうのを自分の力でやっていたから大したものだなと思っていましたよ」。小井土監督から見て、三笘は外に意識を向けて大学4年間を過ごせていたと感じている。

指導者としてあえて学生を迷わせる

シーズン中は試合のフィードバックとともに次戦に向けてのスカウティングを同時並行でしており、ミーティング前にはアナライズ班の学生が小井土監督にプレゼンをする。指導者という立場から、小井土監督はあえて学生に迷わせ、考えさせるようにしている。

「自分で考えて、自分ならどう戦うかが言えるくらいでなければダメと言っていますし、私はダメ出しも多くしますが、学生のうちにいっぱい迷ってどうやってアジャストしていくか、その過程が大事じゃないかなって思っています。とにかく、自分はそういう“場”を用意してあげることが大切だと考えています。あと、プレゼンの成否の答えは選手たちの受け取り方です。選手がそのプレゼンを聞いてどう思ったか。それがその学生が意図としていたものと違ったことが伝わっていたら、プレゼンは成功していないということです。だから『選手が答えだから、選手にちゃんと反応を聞けよ』と伝えています」

学生と向き合い、過程を大切にして成長を促す(撮影・松永早弥香)

学生自身が考えて動き、成功体験と失敗体験を積んでいく。「結局は迷うんだけど、血肉になっていくのは大きなエネルギーを注いだ上で、失敗した・成功したという経験だと思うんですよね」。だからこそ、学生にはその土台となる日々を過ごしてほしいと期待している。

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