サッカー

筑波大・小井土正亮監督「筑波プライド」を胸に、学生全員がセルフマネジメント

小井土監督は学生が「自分の言葉」で話すことを重視している(撮影・全て松永早弥香)

大学サッカー界屈指の強豪チームである筑波大学蹴球部は今年、創部125年目を迎えた。今春に新入部員を迎え、小井土正亮監督(43)は改めてその歴史に触れながら、こう話したという。「ただ強さを求めればいいというわけではない。歴代の先輩たちがそうであったように、我々は日本サッカー界を引っ張っていく存在にならないといけない」。その上で小井土監督が選手たちに求めているのが「筑波プライド」だ。

母校で出会った「一生ものの仕事」 筑波大蹴球部・小井土正亮監督(上)

セルフマネジメントシートで宣言

小井土監督は毎年、新シーズンを迎えるにあたり、学生全員にセルフマネジメントシートの記入を求めている。自分史上最高を目指し、これから1年で自分はどう成長していきたいのか、選手自身の言葉で宣言させる。毎年シートの内容は変わり、今年は特に「インテリジェンス」「ハイインテンシティ(プレー強度が高いこと)」「スペシャリティ」という言葉を強調した。

「『筑波プライド』、つまり『筑波らしさ』を一人ひとりがまず考える。そのキーワードとして、インテリジェンスがあること、ハイインテンシティなプレーができること、スペシャリティを持っていること、これらは共通して身につけてほしい。それを自ら宣言してもらい、自分で言ったことはしっかりやろうよって問いかけるんです」

小井土監督は全員のセルフマネジメントシートに目を通し、一人ひとりにコメントを記して戻す。部員は毎年200人規模。なかなか骨の折れる作業ではあるが、小井土監督は「デジタルでできるところはデジタルでしますけど、年1回くらいはアナログで、学生たちの顔を思い浮かべながら書くといいのかな」と言う。部内にはレベル別に6つのチームがあり、小井土監督が練習を見るのは基本的にトップチームのみ。なかなか一人ひとりと向き合えないからこそ、このシートを通じて「ちゃんと小井土は見ているよ」と伝えられたらと考えている。

ある選手から「小井土さんに書いてもらった『頭のいいバカになれ』という言葉が、今年1年すごく残っているんです」と言われたという。「誰かひとりでも刺さってくれたら、この1年はこれを頑張ろうというモチベーションになってくれたら、それでいいんじゃないですかね。プレーを見ていて気になる選手がいたら、その選手のシートを見返して『おまえさ、こういうこと書いているけど、どうなの?』と振り返らせています。『自分で言ったことなんだから、やらないといけないよね』って」

自分史上最高に向け、学生自身が考え行動する

1年後に自分がどういう自分になっていたいのかをイメージさせ、そのための行動を自分で考えさせる。小井土監督はそのステップが踏めているか、学生たちに問う。シートに記す宣言は人それぞれのため、達成率の数値化はできない。「人はだませても自分はだませない。自分の気持ちや考えたことにうそをつく人は、人からも信頼されないですから。成果は測定できないけど、『自分の胸に聞いてみな』っていうところですかね」と小井土監督は笑いながら明かす。そうは言うものの、成果を毎年感じられているからこそ、このセルフマネジメントシートは続いているのだろう。

一人ひとりの能力を発揮できる場所

小井土監督は筑波大大学院の時にトップチームのヘッドコーチ(HC)を任され、その後、清水エスパルスやガンバ大阪でアシスタントコーチを務めるなどキャリアを積み、2014年に筑波大でHCへ、翌15年には監督へ就任した。チームはその14年に関東2部へ降格したため、小井土監督体制は2部から始まった。何かを変えないといけない。そこで学生たちに提案したのは班活動だった。実際、14年に母校へ帰ってきた時、ある違和感を覚えた。「筑波らしくない」と。

「サッカーがうまいやつが偉いというような、サッカーをすることが唯一の評価基準になっているなと感じたんです。プロを目指し、高いレベルで頑張ってはいましたが、プレーだけじゃなくてもっと他に優れた力を持っている学生もいっぱいいた。当時も一人ひとりが部のためにやっていたと思うんですけど、それを目に見える形にしたいと思ったんです。トップチームのパフォーマンスアップもだし、一人ひとりのパフォーマンスアップのために、もっとできることがあるんじゃないか。それぞれのスキルが生かせる場所は、プレーに限らなくていいんですから」

チームには元々、運営や会計など組織運営に関わる局活動があり、全員がどこかの局に属していたが、その局とは別に、パフォーマンスチームやプロモーションチームなど、希望者のみが加わる5つの班活動を新たに設けた。現在、この班活動には全体の半数程度が参画しているという。

小井土監督から見て、自分よりもゲーム分析が長けている学生や、プログラミング技術を駆使して課題を解決できる学生など、様々なスキルを持つ学生がいるように感じた。だったらそのスキルを生かせる場所をつくればいいんじゃないか。それは彼らの将来にもつながるんじゃないか。そういう期待も、この班活動には込められている。

一人ひとりのスキルを生かしたい。その思いから班活動が始まった

今年の部員はちょうど200人。入部する学生は「プロになりたい」「サッカーを極めたい」と挑む選手だけでなく、近年は「マネジメントを学びたい」というスタッフ希望の学生も増えてきたという。特に小井土監督が筑波大の学生だった20年前は女性のマネージャーはいなかったが、今は「サッカーが好き」「筑波大学蹴球部の力になりたい」という熱意から受け入れている。「そもそも我々の組織はどんな組織なんだろう、というところから見つめ直し、筑波大学に入ってサッカーが好きな人はみんな受け入れていいんじゃないか、という意識でいます」

誰もが自分の力を発揮できる場所がある。それが一人ひとりのモチベーションにつながり、その先で一人ひとりの「筑波プライド」が養われていく。

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