おりづるリレーでメッセージを届ける広島ドラゴンフライズ・朝山正悟選手©HIROSHIMADRAGONFLIES
「僕にとっての平和。悲しい涙が流れず、笑顔あふれる世界が続くことです」「周りの人に対して、思いやりを持った行動が平和につながると思います」――。B.LEAGUEの選手たちが折り鶴とともに、平和への思いをリレー形式の動画で伝えていく「#おりづるリレー」が、7月26日から8月5日まで行われた。このリレーを実現させた広島ドラゴンフライズの浦伸嘉(うら のぶよし)社長(40)に、クラブで取り組む平和活動と、それにかける思いについて聞いた。
全国の選手たちから届いた折り鶴
おりづるリレーはドラゴンフライズ発の企画として、B1、B2の全クラブとB3の10クラブ、計45クラブが賛同する広がりをみせ、日本全国の選手たちが平和に対するメッセージを発信。ドラゴンフライズも含めて合計46クラブの選手やスタッフが折った約800の折り鶴は、広島市の平和記念公園のほか、広島の原爆の日にあたる8月6日にはおりづるタワーへと寄贈された。
世界遺産・原爆ドームの隣に位置し、ドームを一望するおりづるタワー。高層階には、平和の象徴でもある折り鶴を訪れた人が自ら折り、積み上げていく「おりづるの壁」と呼ばれる場所がある。6日に実施されたおりづるリレーの企画報告会で、ドラゴンフライズの浦社長、朝山正悟選手らが全国のクラブから集まった折り鶴のうち約半数をこのおりづるタワーへと寄贈した。
おりづるリレーが企画されたきっかけは、今年3月に行われた「第1回全国高校生SDGs選手権2020」だった。未来の日本を担う高校生が、SDGsの達成に向けた取り組みをプレゼンテーションし、企業とともに実現していく大会。ドラゴンフライズの浦社長は協賛企業として、大会に参加していた。この大会で組んだ東広島市にある武田高校SDGs研究会生徒4人からの提案の一つに、SNSを活用したおりづるリレーの原形があった。
高校生のアイデアを全国のクラブに
「クラブとしても“広島らしさ”を大切にしたい、特に若い力を持つ方々と取り組みをしたいと思っていました。いいタイミングでご縁をいただきました」と浦社長は話す。
身の回りの小さな幸せや、平和を感じる瞬間に気づく人が世界中に増えてほしい。自らが行動の輪の一部となり、その一片をさまざまな人と重ね合うことで、世界の平和へとつなげたい。そのために、国境を越えて人をつなぐことのできる「スポーツの力」を借りられれば――。
こうした武田高校のプレゼンテーションは結果として総合優勝を受賞するのだが、選手権に向けてオンラインなどで打ち合わせやフィードバックを重ねていくなかで若者のアイデアを取り込み、8月6日を前にB.LEAGUEや所属するほかのクラブも巻き込んでドラゴンフライズが実現させたのが、「#おりづるリレー」だ。
SNSを通じた平和のリレー
「#おりづるリレー」は、B.LEAGUE所属クラブ公式Twitterアカウントを通じて、リレー形式で各クラブの選手たちのメッセージを投稿していく。B.LEAGUEの島田慎二チェアマンのメッセージから始まり、南は沖縄県の琉球ゴールデンキングス、北はレバンガ北海道までと日本を縦断したリレーが出来上がった。ドラゴンフライズがこれらの動画をつなぎ合わせ、8月6日に投稿した完成動画では、若い選手からベテランの選手まで、日本全国の選手が平和についてのメッセージを寄せた。
「家族と過ごせる時間や、ブースターの皆さん、チームメートとバスケットボールができるなにげない日常生活の人とのつながりに、平和というものを強く感じます」
ドラゴンフライズの朝山正悟選手のメッセージに始まり続くのは、いま日本で戦争のない平和な世界にいるからバスケットボールに集中できることへの感謝、多くの人が公平にチャレンジできる環境の希求といった言葉だ。メッセージを寄せた選手たちの中には、東日本大震災を経験し平和に思いをはせる選手のほか、広島県内の出身者やかつてドラゴンフライズでプレーしていた選手もいた。
朝山選手は「広島に携わった選手や出身選手が率先して賛同してくれたのがうれしい。これからも発信や活動を続け、より若い世代に伝えていかなければいけないと思います」と話した。
広島から平和を考え、伝える意義
世界で初めて原子爆弾による被害を受けた広島市では、その経験から国際平和文化都市となることを目指している。広島ドラゴンフライズは、その広島を拠点として活動しているクラブとして、平和への思いが中心にある。
浦社長は言う。「広島は、76年前に原子爆弾を落とされて、そこから復興してきた都市です。長い年月が経ち、被爆された方がどんどん少なくなっていく現状のなかで、プロスポーツクラブとして何ができるか、考えてきました」
また、プロスポーツの中でも、B.LEAGUEだからこそ率先して活動できるという事情もある。原爆の日である8月6日から、終戦の日である8月15日までは、広島にとって特に「重たく、大切な期間」だ。B.LEAGUEはオフシーズンであるため、平和を発信する活動に落ち着いて取り組めるのだ。
活動を率いる浦社長自身、広島県出身。平和への思いも人一倍強い。
「学校に語り部(かたりべ)の方が来てお話をしてくださったり、漫画『はだしのゲン』を授業で取り扱ったり、幼い頃から平和教育を受けてきましたが、県外に出ると平和というテーマは関心を持たれにくいことを知りました。平和でないと、バスケなんてできないですから。広島出身者として、広島を拠点とするクラブとして、メッセージを発信し続けたいです」
スポーツの力で未来と世界を変えていく
そうした背景と平和を発信し続けるという使命感のもと、広島ドラゴンフライズは2018-19シーズンから「ピースプロジェクト」として、活動に力を入れてきた。
具体的には、ホームゲームでの両チームの選手代表による「おりづる交換」セレモニーや、ホームゲーム後、その試合で最もフェアで誠実なプレーをした選手を表彰する「おりづる賞」を創設するなどしている。ホームに迎えたアウェーの選手やスタッフも、リスペクトをもって退場するまで拍手で送り出す。今回のおりづるリレーも、このピースプロジェクトの一環に位置づけられる。B.LEAGUEの社会貢献活動「B.LEAGUE Hope」のうち、「PEACE(平和)」の領域にあたるものだ。
SDGsでいえば、16番目の目標である「平和と公正をすべての人に」を主なターゲットとした活動が目立つが、実は「子ども」にもフォーカスを当てた社会貢献活動を進めている。
広島市内の小中高生に、試合を無料で観戦できる「ドリームカード」を配布し、プロバスケットボールに触れてもらう取り組みを始めたり、選手が学校などに出向いて、練習や交流をする機会を年間150回以上設けたり。子どもの未来に投資することが、ひいてはクラブの未来、プロバスケットボールの未来につながると確信しているからこそだ。
クラブは2019-20シーズンに念願のB1昇格を果たしたが、目指すのは強さだけにとどまらない。子どもの来場者数をB.LEAGUEでNo.1にすること。そして、質でも量でもB.LEAGUEで「社会貢献といったら広島」と認識してもらうことが、目標でもある。
バスケットボールの競技人口は世界で約4億5千万人。「Hiroshimaという世界的な都市が発するメッセージは大きく、バスケという競技人口の多いスポーツと融合させれば発信力もある。バスケの関係者から平和について考えるきっかけを提供できれば、意義があるのではないか」
スポーツの力で、平和の発信を。いずれは国や競技といった枠組みを超え、世界を巻き込むことを見据えている。