今回インタビューにこたえてくれた寺嶋良 ©B.LEAGUE
プロ入り2年目ながら、京都ハンナリーズの副キャプテンとして2020-21シーズンを戦った寺嶋良(23)。プレーとリーダーシップでクラブに貢献しながら、もうひとつ彼がプロアスリートとして大事にしているのが社会貢献活動だ。「誰かのためになりたい」と思った少年時代の夢を形にしている彼の活動と思いに迫る。(取材日:2021年5月11日)
副キャプテンとして活躍した1年目
B.LEAGUE2020-21シーズンは例年に増してルーキーの躍動が目立ったが、京都ハンナリーズの寺嶋も、6月3、4日に開催される「B.LEAGUE AWARD SHOW 2020-21」における新人賞候補の一人だ。
寺嶋は昨年12月、東海大在学中にプロ契約をして京都に加入し、わずか1カ月でスタメンに抜擢(ばってき)されたポイントガード。今季は、小川伸也ヘッドコーチの「1年目からチームをまとめる存在になってほしい」という思いで副キャプテンに就任し、キャプテンの永吉佑也とともにリーダーシップを発揮しながら、レギュラーシーズン55試合にスタメン出場した。
スピーディーかつアグレッシブなゴールアタックでオフェンスの起点を作り、ファンの心をつかむ。1試合の平均スタッツでも出場時間21.48、得点8.1、アシスト3.2と、ルーキーらしからぬ数字を残したといえるシーズンだった。
生まれついての身体能力。名門校で鍛えられたスキル。各カテゴリーで育んだリーダーシップ……。寺嶋の活躍を支える要素は様々だが、これらは彼に限らずB1プレーヤーならば当たり前のように備えているものでもある。ただ、寺嶋はもう一つ、ルーキーとしては珍しいブースターを持っているという点で特異な存在だ
「自分のため」以上に、「誰かのため」にプレーしたい
寺嶋は今季から、京都市に所在する「認定NPO法人あおぞら」と連携し、発展途上国への社会貢献活動を始めた。ホームゲームで最も活躍した選手に贈呈される「HERO賞」の賞金を全額寄付し、2月27、28日のホームゲームでは寺嶋のサイン入りカードが封入されたコーヒーの販売と募金活動を行うチャリティーイベントも実施。来場者からも好評で、新型コロナウイルス感染症の影響で中止せざるを得なかったが、4月17、18日のホームゲームで第2弾を実施する予定も立てられていた。
寺嶋は、これらの活動が今季の自身のパフォーマンスに大きな影響を与えたと話す。
「以前だったら、10点とれたらそれで満足してしまうようなこともありましたが、HERO賞をとって賞金を寄付するという目的ができたことで、いっそうプレーへのモチベーションが高まりました。『もうちょっと頑張ったら誰かのためになれる』と思うと、『自分のため』以上にすごいパワーが生まれるんです。もし新人賞をとれたらチームから賞金が出るので、これも全額寄付する段取りをすでにつけています」
寺嶋の寄付金は、カンボジアの貧困地域に井戸と手洗い場を建設する費用にあてられる。HERO賞とチャリティーイベントで集まったお金をもとに、現地ではすでにこれらの作業が始まっているという。「キャリアの最初から最後まで社会貢献をやり続けたい」と真っすぐな目で話す寺嶋は、井戸と手洗い場をできるだけたくさん設置することを目指しつつ、「カンボジアにも行ってみたいし、いつかはサポートした地域の人々を日本に招待して、僕の試合を見てもらえたら」と夢を描く。
「あおぞらさんのモットーが、『命をすくい、涙をとめ、笑顔をつくる』なので、僕も笑顔を与えられるような活動をしたい。コロナが収まったら、もっと積極的に行動していけたらと考えています」
一冊の本をきっかけに、社会貢献への思いが実り始める
両親の教えや、寺嶋が通っていた小学校がボランティア活動に積極的だったことにより、寺嶋は小さい頃から「将来は誰かのためになりたい」という思いを持っていた。誰かを救いたいから消防士になりたいと思っていた頃もあったが、将来の夢がプロバスケットボール選手に変わってからもその思いは変わらない。「僕が小さい頃に思い描いていたプロアスリートとしての一番の理想の姿は、人のためにプレーすることでした」と、てらいなく言う。洛南高、東海大という名門校を経て京都ハンナリーズからのオファーを得たときは、大好きなバスケットボールで生計を立てられる喜びと同時に、ようやく自分が誰かのために影響力をふるえるところに来たという喜びも抱いたという。
しかし寺嶋は、プロアスリートとしての活動を経験するにつれて、無力さも痛感するようになる。「プレーすることで見ている人に元気を与えられているとは思うんですが、それが直接的に『誰かを助ける』という行動につながっているかと考えると、ちょっと自信がないというか……」。ただプレーをするだけでは、自らが幼い頃から理想としていたものには届かないのか。そんなもどかしさを抱いていた昨年のオフに、寺嶋は一冊の本と出会う。NPO法人あおぞらの理事長、葉田甲太の自伝『僕たちは世界を変えることができない。』だ。
「150万円でカンボジアに小学校が建てられる」というパンフレットを見つけた医大生が、自らのちっぽけさや発展途上国の現実、国際支援における様々な困難に直面しながらチャレンジしていく……。映画化もされたこの本に感銘を受けた寺嶋は、社会貢献という形で人のためになろうと決意し、あおぞらのホームページから「活動について話を聞きたい」とメールを送った。文面では自らがプロバスケ選手であるということは伏せていたが、バスケ好きのあおぞらのスタッフが「京都ハンナリーズの寺嶋」ということに気づき、リモートでの対面が実現。当初は自身が寄付することしか考えなかったが、あおぞらのスタッフたちと意見交換をするうちに、クラブを巻き込んだ活動ができるかもしれないと思うようになった。
「自らの社会貢献活動をバックアップしてほしい」。この寺嶋の申し出に対して、クラブがすぐさまGOサインを出し、実現したのが先に紹介したチャリティーイベントだ。クラブも積極的にPRを打ち、用意した70セットのコーヒーは開場から15分で完売。購入できなかった人からの要望で、ネット通販もスタートした。寺嶋のもとには「コーヒーを飲んで温かい気持ちになった」「間接的だけど、自分の誰かのために活動できているということを感じられてうれしかった」といった声が届いたという。
選手やクラブが動いてくれることで、大きな活動につながる
寺嶋は言う。「僕個人ができることは本当に少ないです。いくら一人で募金しても救える人数は限られますし、誰にも知られなかったでしょうし。だけど、クラブが動いてくれたことでより多く人たちに思いを届けることができ、実際に支援につなげてくれた人も増えました。この活動を今後も続けることで、より大きなものが生まれるのではないかと思っています。僕のような在籍年数の短い若手の意見に耳を傾けてくれたクラブにも本当に感謝しています」
そして、同世代の若い選手たちと手を取り合えば、もっと大きな社会貢献ができるのではないかとも思っている。「僕自身は、何かを始めるなら早いほうがいいと思っていたので、ルーキーであることを理由に行動を躊躇(ちゅうちょ)する気持ちはまったくありませんでした。パフォーマンスが安定してから……という考えもなかったですし、たとえ試合に出ていなかったとしても社会貢献活動を始めようと思っていました。クラブにお願いをするときは多少『ベテランじゃないから難しいかな』いう心配はありましたが、実際はすごくスムーズに受け入れてくれました。人はそれぞれ価値観が違うので、『ほかの選手もぜひ』とは言えませんが、アクションを起こしたい同世代の選手が増えてくれば、もっと大きなことができるんじゃないかなと思っています」
読書家である寺嶋の自宅リビングには、お気に入りの本が美しく配置された一角がある。大好きなその場所に、寺嶋は賞金を寄付するごとにあおぞらから贈られるメッセージカードを飾っている。リモート取材のディスプレイ越しにカードを披露した寺嶋は「見ているだけでなんだか幸せになるので、一番よく見る本棚に飾ってるんです」と微笑んだ。
寺嶋が今季贈られたカードは3通。今後も活動を継続し、カードの数を増やすつもりでいる。プロバスケットボール選手としての影響力を介して、人々を笑顔にする。たくさんの人を笑顔にしたいから、苦しいときもあと一歩を踏み出せる。無限の螺旋(らせん)は、今後も寺嶋をより高い場所へと運んでいくだろう。