前回、FIBAバスケットボールワールドカップ2019ではアメリカとも対戦 ©JBA
来年の夏、バスケ界で世界最大の祭典「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」が沖縄にやってくる。今回は史上初の3カ国共同開催で、フィリピン、インドネシア、日本が開催地だ。日本としては2度目、沖縄としては初のワールドカップ。開催を1年後に控え準備が進むなか、沖縄での開催に対する思いから沖縄のバスケ事情まで、大会のキーパーソン2人に話を聞いた。
沖縄が世界の舞台になる
2017年12月9日、スイス・ジュネーブ。FIBA(国際バスケットボール連盟)の中央理事会で、「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」が沖縄で開催されることが決定した。沖縄でワールドカップ規模の世界大会が開催されるのは初めてのこと。大会は2023年8月25日から9月10日までの予定で、そのうち沖縄アリーナで8月25日〜9月3日の10日間で予選ラウンド20試合が開催予定だ。
「日本のなかでも沖縄にワールドカップがくることは47都道府県の代表としても誇りですし、沖縄を“バスケの聖地”にしたいと思っています」と話すのは、FIBAバスケットボールワールドカップ2023日本組織委員会の理事、日越延利(ひごし・のぶとし)さん。
沖縄県バスケットボール協会専務理事でもある日越さんは長年、沖縄のバスケシーンを支えてきた人物だ。沖縄県立首里高校2年生のときに高校バスケ沖縄代表になり、高校卒業後は東京の大学からも誘われたが地元の大学でプレーすることを選んだ。大学卒業後は地元の企業にバスケチームを作り、天皇杯では現・男子日本代表のHC(ヘッドコーチ)を務めるトム・ホーバスとも対戦した。以降、指導者として活躍しながら、高校や大学でスカウトされ沖縄を離れた選手が沖縄に戻ってきても働きながらバスケを続けられる環境を整えて、沖縄のバスケ発展に貢献してきた。
米軍基地もある沖縄は、そもそも昔からバスケが盛んな土地。小さい頃からバスケに触れる子どもも多い。FIBAバスケットボールワールドカップ2023日本組織委員会の副事務局長を務める笠原健太さんも、沖縄に来て「バスケ普及のモデルケースを見ている気持ちになりますし、今回のワールドカップを通して『スポーツアイランド沖縄』の魅力も発信できたら」と話す。
「大会実施に向けて組織委員会から沖縄に赴任して準備を進めているのですが、街を歩いて実感するのが街中のバスケゴールの多さです。ビーチの近くやスーパーマーケットの一角とかいろいろなところにゴールがあり、子どもから大人までバスケを楽しんでいる姿をよく見ます。バスケ以外でもスポーツが身近で、たとえば海沿いのホテルのそばでは美しい海を眺めながらジョギングやサイクリングを楽しんでいる方もよく見ますし、マリンスポーツや野球も盛んです。2023年は第一にワールドカップで世界トップレベルのバスケを堪能していただきたいのですが、沖縄にはビーチサイドに誰にでも開放されているバスケコートなど魅力的すぎる場所が沢山あるので、沖縄ならではのスポーツの楽しみ方にも注目してほしいです」と、バスケを通して沖縄の魅力をより伝えようと準備を進めている。
沖縄バスケの源流
沖縄にバスケが浸透した理由のひとつが、かつて沖縄本島中部ではNBAが放送されている米国のテレビ電波を受信できる家庭が多く、バスケ観戦が身近にあったからだと言われている。
「それも日本語の放送ではなく英語のテレビ中継。昔は日本全国で一番NBAに詳しかったのは沖縄じゃないかな。基地のなかにあるバスケコートで米軍関係者がプレーしている姿もフェンス越しによく見ていました。子どもたちはそれをまねして公民館の一角にバケツで作ったバスケゴールをぶら下げて遊んでたりしてね。基地の関係者と練習も一緒にすることもあるから、バスケが上手い子どもも多いんですよ」と日越さんは話す。
沖縄では、いろいろなことが混ざりあうことを“チャンプルー”と言うが、このチャンプルー文化もバスケ浸透の理由のひとつだ。日越さんは人種に関係なくバスケを楽しむ姿をずっと見てきた。
「街にあるコートでバスケをしていると日本人も外国人も関係なく一緒にプレーしたり、その場にいる人でチームをつくって1x1や3x3とかゲームするのが当たり前。移民の方も多いですし、“チャンプルー”だから壁がないんですよ。コロナ禍で中止になってしまったのですが、ある神社の宮司さんから昨年末の12月30日に境内で3x3の大会を開催したいから手伝ってくれと言われて。年末年始で神社が忙しいときなのにね」と笑顔を見せる。
沖縄のバスケシーンはストリートだけにとどまらない。「エアフォース(空軍)やネイビー(海軍)など基地内のバスケチームもいくつもありますし、沖縄本島だけでなく離島でもバスケは盛んです。ミニバスだけに限っても沖縄県内には300以上のチームがあります」と日越さんは話す。さらに、沖縄の高校生と基地のハイスクールの生徒が、基地内でバスケの試合をする『琉米親善大会』も沖縄ならでは。そして、何よりも沖縄の県民性がバスケシーンをさらに盛り上げている。
「県民性もあって子どものバスケの試合があると、家族総出で応援にくる方も多いです。ピクニック気分で楽しむ方もいますし、親子三世代で盛り上がる方もいます。保護者会の方は、試合のボランティアにも一生懸命。それだけバスケに触れているからか、琉球ゴールデンキングスの選手たちに対しても壁がないんです(笑)」。イメージとしては「隣のお兄ちゃんが選手になった」くらいの感覚で、プロの選手たちにもフレンドリーに接するそうだ。
ワールドカップが決定したとともに昨年には会場となる沖縄アリーナも完成し、よりバスケ熱は高まっている。ゴールデンキングスの試合も熱狂的に盛り上がることでも知られている。日越さんは「コロナ禍だから歓声は控えめですが、本当は指笛ふいて応援したいんじゃないかな」と笑いながら、「アリーナが完成したときは感無量でした。NBAのアリーナなども視察して参考にしたアリーナなのでエンターテインメント性のある素晴らしい施設ですし、何よりアリーナを訪れる方が目を輝かせてニコニコしているんですよ。フードコートも、テクノロジーを使った演出も、ビジョンも立派で」と話す。
ワールドカップを通して、バスケ、そして沖縄の魅力も発信
ワールドカップの準備が着々と進むなか、FIBAとの連携に加え、沖縄県をはじめとした行政との調整やフィリピン、インドネシアとのホスト国間連携などを担う笠原さんは、「2019年に中国で開催されたワールドカップの視察後、本格的に始動する矢先にコロナ禍になってしまったのに加え、FIBAとホスト3カ国の仕事の進め方など色々と難しい面もあります。ただ、みな自分たちのホストシティだけが成功すればいいとは考えていなくて、お互いの知恵と経験や文化などを持ち寄り尊重しあいながら大会を作り上げています。世界最高峰のバスケの祭典を3カ国で力を合わせながら成功させること、そして、沖縄の魅力発信はもちろん、開催地沖縄にとって意義のある大会にすることが大事だと考えています」と話す。
プロモーションやチケッティング、運営計画、マーケティングなど大会にむけた準備は着々と進んでいる。今年の2月にはワールドカップの沖縄会場で開催される日本代表戦全5試合が観戦できるチケットの限定販売をしたところ、1時間30分で完売した。今月にはFIBA関係者の沖縄アリーナ視察も控え、今年の夏には1年前イベントや一般チケット販売が予定されるなど大会に向けた準備のみならず、機運醸成にも力を入れる。日越さんも笠原さんも何より「沖縄、そして日本の子どもたちにワールドカップの成功を見せたい」という気持ちがある。
「誘致の段階で『沖縄が候補地になるのはどうですか』と言われたときから、子どもたちのためになるなら大賛成と思いました。沖縄市の沖縄アリーナが舞台ですが、石垣島や宮古島、久米島、与那国島、大東島など離島すべて含めて沖縄です。だから離島を含めた沖縄の子どもたちに素晴らしいワールドカップを見せたい。ワールドカップを成功させて、子どもたちに『沖縄県民がみんなで力を合わせれば、どんなことでも実現できるんだよ』ということを伝えられたらと思っています」と日越さん。
笠原さんも「世界中から沖縄へワールドカップを観戦しに来ていただきたいのですが、特に日本の方々には大人だけでなく、子どもたちにも世界のプレーを間近で感じてほしいと思っています。2019年のワールドカップでも実感しましたが、世界のトップ選手が国を代表する真剣勝負のバスケには本当に胸を打たれます。子どもたちに、10年後、20年後に『こんなにすごいワールドカップが沖縄であったんだ』と思ってほしいですし、沖縄の盛り上がりが日本中に浸透し、バスケのみならずポーツ全体の普及につながるような大会にしたいです」と思いを口にする。
そして、バスケとともに沖縄の魅力も世界に発信していくつもりだ。
「FIBAと開催3カ国は今回の大会を『ワールドカップ史上、最も盛り上がる大会にしたい』という思いをもっていますので、組織委員会としてはその実現に向けて、地元も盛り上げていきたいと思っています。沖縄アリーナのあるコザの街(沖縄市)は外国の方も多くてオリジナルな文化があるのですが、ワールドカップを通じて沖縄の街が盛り上がり、観光客の方には盛り上がっている街を訪れこれまで知らなかったいろいろな沖縄の顔を楽しんでいただくような好循環が生まれる大会にしていきたいですね」と笠原さんは力を込める。
日越さんも沖縄の可能性をもっと広く世界に伝えたいと思っている。
「沖縄の海も空も、世界自然遺産になった『やんばるの森』も、そういった自然はぜひ体感していただきたいですね。三線やエイサーなどの伝統芸能も見てほしいですし、沖縄の“人”とも触れ合ってほしいと思っています。お客さんがくるのをみな楽しみにしていますし、沖縄はいろいろな国の方がいるから誰にでもフレンドリー。地元の子どもたちも手を振ったら振り返してくるし、それくらい人懐っこいです。『ぜひ皆さん、ワールドカップを見に沖縄へいらっしゃい』という気持ちですね(笑)」
日に日に盛り上がりを見せる沖縄。現在、世界各地でワールドカップの切符をかけた熱戦が繰り広げられているが、来年の夏には日本代表をはじめ、世界の強豪国がこの地に集結する。世界が注目する舞台となる沖縄アリーナを中心に、新しい日本のバスケ文化が花開こうとしている。