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島田慎二チェアマンが「B.革新」の概要を発表した ©B.LEAGUE

Bリーグの新時代を描く「B.革新」 発表までの舞台裏「正解がないことへの挑戦」

2023.08.28

2023年7月、B.LEAGUEの島田慎二チェアマンが都内で会見し、2026年に始動するB.LEAGUEの構造改革「B.革新」の概要を発表した。新たなディビジョン名とロゴも紹介し、「B.LEAGUEは“世界一型破りなライブスポーツエンタメ”の実現を目指します」と熱く語った。日本バスケットボール界のみならず、国内のプロスポーツ全体の発展を牽引(けんいん)するべく大改革を進める。「B.革新」に込めた思い、概要発表までの舞台裏を関係者が明かした。

サラリーキャップ導入やドラフト制度

「私自身、ワクワクしています」

壇上に立った島田チェアマンは、少し緊張の色を浮かべながら、そう切り出した。

2023年7月27日、「B.革新」のお披露目の瞬間だった。

言葉に魂を宿した、と言っていいかもしれない。これまでは「将来構想」という言葉で新リーグを語っていたが、「具体性に欠けていたと思っていた」と島田チェアマンは振り返る。入場者数平均4000人以上、売上高12億円以上、厳しい基準をクリアしたアリーナの確保。2026年からの最上位ディビジョン創設にあたり、高いハードルとして独り歩きしてきたイメージに、しっかりとした輪郭を与えた。

「あくまで構想ではなく実行段階に移る。将来構想という言葉を変えよう」

その思いが「B.革新」という形になった。

国内最高峰のディビジョンは、「B.LEAGUE PREMIER」(B.PREMIER)と名付けられ、世界レベルの競技力を追い求める。そのためには日本人選手にとっては痛みを伴うことになるかもしれない、外国籍選手のオンザコートフリー(同時にプレーできる外国籍選手の人数制限を設けないルール)も含めて検討するという。戦力均衡のため、ドラフト制度も取り入れる。

頂が高くなるだけではなく、裾野も広がる。それがB.PREMIER入りを目指すクラブが集まる「B.LEAGUE ONE」(B.ONE)だ。現B1と同等レベルを想定する。ライセンス基準が一時的に緩和される分、全都道府県でのBクラブ誕生を促し、バスケの普及が期待できる「キャスティングボートを握る」(島田チェアマン)ディビジョンだ。

B.ONEを目指す「B.LEAGUE NEXT」(B.NEXT)には新規参入クラブなどが属し、将来的にB.ONEと統合することが思い描かれている。

また、すべてのゲームが最後まで緊張感と魅力にあふれる接戦となるよう、全ディビジョンでサラリーキャップ(選手年俸総額の上限)を導入する。

会見には田臥勇太(宇都宮ブレックス)、富樫勇樹(千葉ジェッツ)、河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)の3選手も出席。それぞれ年代が違い、プロの世界に入った際のリーグはまさに「三者三様」だったが、ベテランの田臥は「また新しいステージに向かうということで、選手としてもワクワクさせてもらえる」と、新たな挑戦への期待を口にした。

会見では現役選手からの発言もあった

ライセンス基準、数百時間かけて議論

華々しく会見が行われた裏で、「発表できたことは良かったなと思いつつ、ここからが勝負だなという感覚」と語った人物がいる。「B.革新」の制度設計に関わり、現在は競技運営を担当するB.LEAUGE競技運営グループアシスタントマネージャーの渡邊咲だ。2019年に概要を発表していた将来構想を再加速させるべく、2020年夏に経営戦略担当グループに所属していた時に、将来構想の実行役として指名された。

理事会や、各クラブの代表者が参加する実行委員会、リーグ内の経営戦略や競技運営などの複数の分科会だけではなく、役員などさまざまな人物とともにB.LEAGUEの将来と発展に知恵を絞ってきた。それぞれの事情を抱える各クラブの実行委員の意見もあり、「リーグ内でまとめるのにも時間がかかりますし、実行委員の中でも意見が違ったりと、本当に大丈夫なのかと思うこともありました」と率直に明かす。

「B.革新」には、3つの軸がある。クラブの「経営力」と日本代表の強化に資する選手の「強化」、そして「社会性」だ。それぞれが基軸でありながら、密接にリンクし、支え合わなければならない。クラブ経営と競技運営の両方を担当してきた渡邊には、その難しさが身に染みて分かっている。

ライセンス基準の確立だけでも、話し合いや会議に要した時間は「数百時間になると思います」と振り返る。しかも、2026年の新リーグ開幕という「デッドライン」は決まっていた。そのスタートラインに間に合わせるための準備期間を取るために、具体的な構想発表という「締め切り」をチェアマンに進言したのは渡邊らだった。限られた時間でタスクをこなさなければならないプレッシャーは、相当に大きかったはずだ。

各方面からアイデアが湧いては引き下げられ、時間をおいて復活することもあった。サプライズの最たるものはドラフト制度だ。「ユースでの育成との両立が難しいので、2028年以降ということで話が進んでいたのですが、島田が『それでは遅くなる』と」。会見直前の変更で再検証に追われ、「結構大変だった印象はあります」と苦笑いする。

あちらを立てれば、こちらが立たず。そんな状況に、「妥協的というか、双方の中間を取る話になりそうなこともありました」と渡邊は述懐する。そんな妥協の産物が生まれそうになった時にひっくり返したのも、島田チェアマンだったという。

「『尖(とが)ってやらないとダメなんじゃない? So-So(そこそこ)を選んでもしょうがないでしょ?』と言うんです」。まさに「世界一型破りなライブスポーツエンタメ」にという、「B.革新」のスピリットが息づいていたというわけだ。

7月の発表内容を詰める会議の前には、Bリーグ役員との話し合いに4時間近くをかけた。そのためのアジェンダづくりには、前日の夜遅くまで時間を要した。実行委員会では厳しい意見を受けることも。それでも、「自信を持ってやってもらってありがたいです」との言葉に背中を押されることもあった。

何よりも渡邊を支えるのは責任感だ。「バスケを見る文化にする。それが人と地域にとって良いものになっていくということを示していくのがリーグの役目。人のため、クラブのためになると思うから頑張れます」と汗をかき続ける。

「B.革新」の概要資料の一部。「B.LEAGUE PREMIER」「B.LEAGUE ONE」「B.LEAGUE NEXT」の3部制になる ©B.LEAGUE

新ロゴに込められた「継承と進化」

渡邊らが担当したのが中身ならば、広報を担当するバスケットボール・コーポレーション株式会社広報・映像グループの袋江聡子らが担ったのは「顔」をつくる役割だ。

新しいロゴをつくる作業も、時間との戦いだった。今年2月に始まったロゴとディビジョン名の決定は、やはり会見直前まで議論が続いた。

コンペに参加した4社からは、40種類ほどのロゴ案が提出された。袋江は「ああじゃない、こうじゃない、求められているのはこういう方向性だからと、事務局で毎週1、2時間かけて議論しました」と思い出す。

話が広がっては、行き先がいくつも見えてくる。終わりの見えないレースを続けていたが、ふと立ち止まって足元を見直した。「核になる部分、どういう方向性で行くのかということを整理しました。そのテーマが『継承と進化』でした」

軸が決まると、自然と物事が進んでいった。「色をどうするかという話も出たものの、選択肢にはなりませんでした。今までのロゴがモノクロだったのは、スタイリッシュさを表していたからです。それは今後も大事にしていきたい継承すべき部分でした」

カラーを変えることなく、進化していく。これまで使用してきた「BLG」の3文字を凝縮しつつ表したロゴは、新リーグそのものだった。五角形の底辺が尖っているのは、「将来構想を象徴するアリーナをイメージしています。『B.革新』で大事にしていくもの、デザイン化できるアリーナをこのロゴに込めました」

ディビジョン名は不思議と最初から意見が一致していた。「トップになるということを考えた時、他にフィットする文言がありませんでした」と、B.PREMIERがすんなり誕生した。B.ONEには日本のバスケ界を牽引していく唯一無二のリーグであること、B.NEXTには次代を担うとの意味と願いを込めた。

相当に話し合って決めた「顔」だが、不安がなかったわけではない。誕生したロゴが現B.LEAGUEのクラブや他競技のクラブのデザインに似ていることは、事務局内でも気になっていた。

「テーマに立ち戻り、進化という意味で考えると、デジタル化にあたりスマホなどでも見やすくシンプルなものにしなければなりませんでした。似たロゴから遠ざかるデザインにしようとすると、テーマからズレてしまう。だから、何か言われようとも我々の意見を貫き通そうという話をしました」

結果は想像以上のものだった。広報担当として、会見のライブ配信中にYouTubeに寄せられるコメントなどをチェックして、覚えたのは安堵(あんど)の気持ちだった。

「似ているという声もありましたが、プラスの意見の方が多くありました。事務局としては、『B.革新』の内容も含めて不安はありました。現状を変えるという発表がされる時には、批判のコメントが多く寄せられるだろうと予想していたからです。でも会見が始まると、コメントのほとんどは『B.革新』への賛同や理解の声でした。むしろ一緒に今後のリーグを考えていきたいというコメントもあって、感謝しています」

新しいロゴには様々な思いが込められている ©B.LEAGUE

会見で壇上に立った3選手は、ドラフト制度やオンザコートフリーなどへの不安を率直に口にした。それでも「明るいバスケ界にしていくためにも、大きな変化はもちろん必要なのかなと思っています」(富樫)、「JBLから(NBLやbjリーグを経て)B.LEAGUEに変わる過程などの経験がないからこそ、B.PREMIERに変わっていくことへの楽しみな思いがある」(河村)と先を見つめた。

魂を吹き込まれた「B.革新」は血肉を得て、表情もはっきりしてきた。これからは2026年という「誕生日」までに、詳細を詰めて完成にたどり着く作業が始まる。

日本バスケ界の未来は、まだまだ成長の途上だ。「正解がないことへの挑戦ですね。今回の発表から間を開けずに決めなければいけない話もあるので、より忙しくなるんじゃないかと思います」。そう話しながらも、渡邊はどこか楽しそうだった。

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