対談したインフロニア・ホールディングスの岐部一誠社長(右)とBリーグの島田慎二チェアマン(左)
2026年から始まる「B.革新」を控え、Bリーグは「イノベーションパートナー」として、インフロニア・ホールディングス株式会社の就任を発表した。日本バスケ界の改革を進めるBリーグとインフラ業界の「ルールチェンジ」をけん引するインフロニア・ホールディングス。両者の協創にはどのような狙いがあるのか、期待されるシナジーとは——。Bリーグの島田慎二チェアマンとインフロニア・ホールディングスの岐部一誠・代表執行役社長兼CEO、それぞれイノベーションに臨む組織のトップである“同志”が、思いを語り合った。
両者を結びつけた、地域活性化への思い
2024年12月中旬、アルバルク東京が名古屋ダイヤモンドドルフィンズをホームに迎えた一戦。平日の夜にもかかわらず多くの観客が詰めかけ、熱気を帯びる会場の裏で、和やかなムードのなか対談は始まった。
——今回のイノベーションパートナー契約締結に至った経緯を教えてください。
岐部社長 私たちインフロニア・ホールディングスは、日本の社会課題をインフラの観点から解決したいと思い、2021年に設立しました。母体は前田建設という建設会社ですが、工事を請け負って“つくる”ことをゴールにするのではなく、つくり終えたインフラの“運営”にまで主体的に関わることを目指す「総合インフラサービス企業」です。
少子高齢化が進み、税収が少ない状況下で地方をどうやって活性化させるかは、日本の大きな社会課題であると感じています。Bリーグは島田チェアマンの努力もあって、41都道府県、全国津々浦々に近い規模でプロバスケットボールクラブを生み出しました。Bリーグはスポーツを通して地方を元気にして、我々はインフラという観点から地域やBリーグの取り組みを支援できるという期待から、今回のパートナーシップにつながりました。
島田チェアマン(C) 初めてお会いしてから、まだ1年も経っていませんね。最初の会合は1時間ほどでしたが盛り上がって、前向きに理想の社会を実現するコラボレーションができたらいいですね、というレベルまで話が進みました。我々もクラブとアリーナを通した街づくり、地域の活性化を目指しているので、思いが一致しました。
岐部社長 島田さんにお会いして、実際にリーグと地方をどう変革したいと考えているのかをお聞きして、同じ思いを抱いていると分かり、トントン拍子で「一緒にやりましょう」という話になりました。
インフロニアが挑戦する新しいアリーナ建設の形
——このタイミングでパートナー契約を締結されたのには、理由があるのでしょうか。
岐部社長 理由は2つあります。ひとつは、地方創生のために何かしなければ、という差し迫った思いがあったということ。スポーツが地方を元気にするという現象は世界中で起きているので、日本でもスポーツが地方創生に向けた手段になるのではないか、と考えていました。もうひとつは、バスケットボールが大きな盛り上がりを見せているので、地域活性化への効果が大きいだろうと考えたからです。
島田C Bリーグは「B.革新」を掲げて2026年に構造改革に取り組みます。クラブとアリーナが一体となって地域を活性化するために、全国でアリーナ整備を推進しているところです。一方で岐部社長は、アリーナ建設にあたり「BT+コンセッション(※)」という方式に積極的にトライされています。そういう考え方は我々が目指すべきことであり、すでに実践している企業とご一緒して、さらに大きなものにしたいと思いました。まさに、絶妙なタイミングでしたね。
※BT+コンセッションとは、民間事業者がインフラを設計・建設した後、所有権を公共に移転する「BT方式」と、所有権を公共主体が保持したまま運営を民間に委託する「コンセッション方式」を組み合わせた事業方式。企画から運営まで民間のノウハウを活かした効率的な収益構造を設計できる利点がある。
岐部社長 基本的に、日本のアリーナは自治体が所有・運営をしているケースが多いんですが、運営のノウハウがないと最大限地域の活性化につなげるのはなかなか難しい。では、スポーツビジネスが発展しているアメリカで、NBAはどうしているのかを参考にしようと、私も実際に足を運んで現地で調査しました。
結論としては、ものをつくることを目的にするのではなく、どうやってアリーナの価値を上げて、経営という視点で長く運営できるかを考えないと、スポーツを起点に街や経済を活性化できない。工事することをゴールとせず運営にも携わる「BT+コンセッション」方式をはその一つの解決策となると考えています。ところが日本では、「どうせ工事をやりたいんでしょ」「終わったらいなくなるんでしょ」と言われて、なかなか信用してもらえませんでした。アリーナを通じて一緒に地域を盛り上げたい、地域の本当のパートナーとして認知してもらいたいという強い思いがあり、今回の締結では「イノベーションパートナー」という名前を付けていただきました。
島田C 革新的なこと、ゲームチェンジをされている方々は、やはり発想が違います。いろいろなイベントを誘致しやすいように、運営する側の論理をベースにして計画・設計をしていくわけです。施設を建てて終わりではなく、運営まで考えてつくるからこそ良いものができる。良いものができれば多くの人たちが来て地域が潤い、ネーミングライツなどでお金が動いて運営がさらに安定し、また地元が潤う。この発想はスタジアムなどあらゆるものに通じることで、インフロニア様と一緒にこのことを伝えていけたら、すごく大きなことだと思っています。
試合観戦やイベントを通じて、地域とのつながりを感じてほしい
Bリーグはインフロニア・ホールディングスと共に「来て、見て、触って、親子で初めてのアリーナ」をテーマに、気軽にバスケを楽しめるイベント「INFRONEER B.Hi TOUCH」を2024年10月13日~12月31日の期間中、日本全国の対象試合において開催した。バスケに加えて、インフラについても身近に感じながら学べる工夫が随所にちりばめられている。
——イノベーションパートナーの取り組みとして、親子向けイベント「INFRONEER B.Hi TOUCH」を実施されています。パートナーシップやこのような企画を通して、どんな変化を期待しますか。
岐部社長 我々は“地域にちゃんと貢献できるパートナーだ”という信頼を受けたいと思い続けています。5年、10年、たとえそれ以上かかっても、信頼を築いていきたい。そういう意味で「INFRONEER B.Hi TOUCH」は、将来を担う子どもたちが参加できるイベントを中心にしています。インフロニアブースでは「バスケとインフラでハイタッチ!」をテーマとしたブースを展開しております。子どもたちに、インフラにはものすごく大きな可能性があり、地域の経済や皆さんの成長に貢献するんだと意識してほしいんです。そういう思いで、このイベントを楽しんでもらう努力を地道に続けていきます。
島田C Bリーグとしては、単につくるのではなく“価値あるアリーナ”をつくって地域を活性化することが一番の目的だということを、インフロニア様と一緒に伝えていきたいと思っています。また、全国で施設の老朽化が進んでいることに、一般市民の方々にも目を向けていただきたい。補修には税金も投入されるわけですから、これも社会課題です。施設を補修しながら持続性を高めていくことも、地域創生の重要な一部だと思います。
岐部社長 「INFRONEER B.Hi TOUCH」を通じて、子どもの頃からスポーツとアリーナ、さらに自分が住んでいる地域が頭の中でリンクする経験をしてほしいんです。現在は都会に人が集まっていますが、地方に魅力がないわけではありません。そう感じる人を増やすことが結果的に日本の発展につながるので、子どもの頃から自分が住む地域とインフラのつながりを意識してもらいたいです。
パートナーシップが生む良い循環に期待
——すでにパートナーシップを組んだ影響を感じることはありますか。
岐部社長 私が社内でこういう話をしても、当初はアリーナ建設が目的だと思っている社員が圧倒的に多かったはずです。また、私自身が学生時代にバスケットボールをしていたことを知っている社員も多いので、社内でスポンサードを説得する際には、それが理由だろうと思われるのを心配していました(笑)。でも、今日の試合会場と同じように各地域で開催されるイベント運営をその地域の社員が行うことで、こういう活動が地域への貢献と信頼関係につながると実感できた、という声がたくさん上がってきています。
島田C いずれ競技面にも影響は出てくるはずです。競技力を上げるには、競技者の母数を増やす必要があります。運動能力が高い子どもにバスケットボールを選んでもらうには、人気があって年俸も高いなど、バスケ界のプレゼンスを上げていく必要があります。ビジネス面と競技面の強化は、ものすごくリンクしています。その両輪のバランスを取りながら前進するために、しっかりアリーナ経営もしていきたいですね。
対談後に2人が視察した「INFRONEER B.Hi TOUCH」では、冬空の下でも子どもたちがイベントを楽しんでいた。
インフロニアグループの建設機械「かにクレーン」で3Pシュートを体験できるブースでは親子連れが列をつくった。補修材「マイルドパッチ」を利用してドリブルに挑戦できるブースでは、小学生たちが「難しいけど楽しかった」「バスケはドリブルも好きだし、シュートも、チームワークで勝つところも全部好き」と満面の笑みだった。
会場内ではファン参加型の「バスケインフラリーグ(BIリーグ)」体験版も展開。体験版の「BIスタンプラリー」は、「バスケのゴールと信号機の高さが同じくらい」など、バスケとインフラの情報が入った「キャレたんBIパネル」が各所に展示され、来場者がそのパネルを撮影し、ハッシュタグを付けてSNSに投稿するイベントだ。スタンプラリーに参加した女性は、受け取った賞品のステッカーとイベントの説明に、熱心に目を通していた。
Bリーグとインフロニア・ホールディングスの協創により、バスケットボールとインフラをハブとして多くのファンや子どもたちを巻き込んだイノベーションが起こり、地域の未来を拓(ひら)くことを期待したい。