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特集:第76回全日本大学バスケ選手権

日大・米須玲音 パス1本で局面を打開する〝魔術師〟高校時代とは違う涙で有終の美

男子の最優秀選手賞に輝いた日大の米須玲音(すべて撮影・小沼克年)

第76回全日本大学バスケットボール選手権大会 男子決勝

12月15日@オープンハウスアリーナ太田(群馬)
日本大学 70-63 東海大学

※日本大学は15年ぶり13回目の優勝

【写真】日本大学が15年ぶり13回目の優勝、女子は白鷗大が2連覇!バスケインカレ

12月15日に群馬県太田市のオープンハウスアリーナ太田で行われた第76回全日本大学バスケットボール選手権(インカレ)男子決勝は、日本大学と東海大学による一戦となった。日大は第1クオーター(Q)で27-14の好スタート。後半は反撃にあい、残り2分で66-63まで迫られた。それでも最後は相手の猛追をしのいで15年ぶり13回目の優勝。最優秀選手賞には、自身1年時以来のインカレとなった米須玲音(4年、東山)が選ばれた。

「ウインターカップを思い出した」唯一の得点シーン

日大が5点をリードして迎えた第4Q残り34秒、一刻も早く時間を止めたい東海大はファウルをするしかなかった。それを受けた米須は右手でガッツポーズを作り、フリースローレーンへ向かった。「やっぱりウインターカップを思い出しました」

脳裏をよぎったのは高校3年時、ウインターカップ決勝の記憶だ。当時の試合では3点を追いかける残り16秒に3本のフリースローを獲得。計り知れないプレッシャーがかかった中でも、米須はメンタルの強さを見せて3本とも沈めた。しかし、当時はそこから逆転シュートを許して日本一を逃した。奇(く)しくも前半で得た2桁リードを相手に追いつかれるという試合展開までウインターカップ決勝と重なったが、今回の結果は違った。

最終盤のフリースローシーンは、ウインターカップ決勝と重なるものがあった

「あのフリースローまでは自分のシュートが1本も入ってなくてシュートタッチが悪かったですけど、ベンチに戻った時、いろんなメンバーが『絶対に入るから』と言葉をかけ続けてくれました。そのおかげでああいう状況でも2本決められたのかなと思います」

インカレ決勝で記録した得点は、このフリースローのみの2点。それまで放った計6本のシュートはリングに嫌われ続けた。それでも、米須には司令塔としての責務がある。コート上では現在のリードと残り時間を考慮してテンポやプレーの選択しているかのように、何度も天井に設置された大型ビジョンを見上げ、試合をコントロールし続けた。

「1試合を通して、いい時間帯も悪い時間帯もありましたけど、最後にこうやって勝ち切れたことが一番大きなことだと思っています。反省することもないですし、とにかく日本一になれてうれしいです」

決勝が終わり、東海大の選手たちと健闘をたたえ合う

ケガと戦い、ディフェンスを磨いた4年間

高校時代から世代トップクラスのポイントガードとして名をはせ、日大に入学後もすぐに輝きを放った。真骨頂は広い視野から繰り出すアシスト。パス1本で局面を変えられる稀有(けう)なプレーヤーだ。2021年の関東大学選手権(スプリングトーナメント)では1年生ながらアシスト王を獲得し、チームの15年ぶりとなる優勝に貢献。昨年と今年の関東リーグ戦でも、2年連続でアシスト王に輝いている。

一方で、ケガに苦しんだ4年間でもあった。1年目のオフシーズンは川崎ブレイブサンダースの特別指定選手としてプレーしたBリーグで右肩を脱臼。2年目は新人戦後に右ひざの前十字靭帯(じんたい)を損傷。3年目はリーグ戦で肩のケガが再発し、そこから手術とリハビリを経て、4年目のリーグ戦でようやくコートに戻ることができた。

広い視野から繰り出されるアシストは、米須の真骨頂だ

「ケガをしてしまったことで、バスケットよりトレーニングに励む時間の方が多かったです。けど、その分しっかり上半身と下半身のトレーニングができましたし、そのおかげでディフェンス力をつけることができたんじゃないかなとも思っています」

高校時代に60kgだった体重は、75kgまで増えた。日大への入学当初、米須はディフェンス練習が大半を占めることに戸惑ったそうだが、この4年間でディフェンスへの意識と重要さを学んだことも、成長の証だ。「ディフェンスは、うまい下手よりも、まずは気持ち。その中で自分は前からプレッシャーをかけて、相手に嫌な思いをさせることを意識していますし、そういった意識づけも今のディフェンス力につながっていると思います」

日大で過ごした4年間で、特にディフェンスの重要さを学んだ

苦戦を強いられている川崎の救世主となれるか

大学日本一が決まると米須はしゃがみ込み、高校時代とは違う涙を流した。表彰台に立ち、金色の紙吹雪が舞う中、笑顔でMVPのトロフィーを掲げた。

「大学バスケの4年間は、半分以上の大会に出られなかったというのが事実です。でも、自分がケガしてる時でも周りの4年生がしっかり声をかけてくれましたし、その分、今シーズンは自分としても4年生のために、後輩たちのために日本一にならないといけないと思っていました。このメンバーで最後まで戦えてよかったですし、最高の景色が見られて本当にうれしいです」

紙吹雪が舞う中、笑顔でトロフィーを掲げた

苦しんだ末につかんだ頂点の余韻に浸る間もなく、魅惑のポイントガードはBリーグへ戦いの場を移す。所属チームは高校3年時から縁がある川崎ブレイブサンダース。今シーズンの川崎は、いまだかつてないほどの苦戦を強いられている。米須にかかる期待は決して小さくないが、本人はいたって自然体だ。

「自分は今までのバスケ人生でやってきたことを出すだけです。Bリーグでもしっかり自分を出して、少しでもチームに貢献できるようにプレーするだけだと思っています」

淡泊にも聞こえるが、その言葉には確かな自信と決意が詰まっているように思えた。

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