神奈川大・山本愛哉 3Pでチームを救う163cmのスコアラー「小さいは言い訳」
日本時間10月26日、身長173cmの河村勇輝(メンフィス・グリズリーズ)が日本人史上4人目となるNBAの扉をこじ開けた。彼が未来の子どもたちへ与えた夢の大きさに比べれば物足りないかもしれない。だが、河村と同じように、大学バスケ界にも「小さくても通用する」を証明する選手がいる。
シュートを打ち続け、決めることが責任
ボールを持てば何かやってくれる――。神奈川大学の山本愛哉(3年、飛龍)は高校時代からそう思わせる選手だった。身長は163cm。自分より15cm以上も背の高い相手に囲まれても緩急自在のドリブルで間を抜け、ブロックが飛んできてもダブルクラッチやボールをフワッと浮かせたフローターシュートで得点を決める。中でも代名詞とも言えるのが、ステップバックからの3ポイントシュート。ワンステップで後ろに下がり、瞬間的にディフェンスとの距離を作って放つ高難度のそれは、第100回関東大学バスケットボールリーグ戦でもたびたびチームを救った。
「シュート確率がいい時は本当に全部入る感覚で打っていますし、なんなら全部自分が打ってやろうっていう気持ちでいます。どうしてもシュートタッチの悪い日はありますけど、それでもチームメートや幸嶋(謙二)コーチは『打ち続けろ』とか『3本に1本決めればいい』って声をかけてくれます」
神奈川大へ進学して3年目の今季、山本はスコアラーとしてコートに立ち、1部リーグでトップ3位に入る得点力を発揮した。全22試合で合計394得点を記録し、1試合平均に換算すると17.9得点。3ポイントでは成功数(79本)と試投数(225本)でいずれも2位の数字を残した。「シュートを打ち続けること、それを決めることが僕の役割、責任だと思っています」と山本は言葉に力を込める。
高校と大学バスケを通して学んだ「人間性」
山本がバスケットボールをする上で大事にしていることの一つに、「人間性」がある。これは、高校時代の恩師にあたる原田裕作コーチから学んだことであり、幸嶋コーチから現在進行形で学んでいることでもある。
「原田先生には『なぜ今、自分たちが当たり前にバスケットができているのか』ということを教わりました。両親の支えだけじゃなくて、毎日コートを使えるのは学校の支えがあってこそですし、そういった周りへの感謝や謙虚な気持ちを忘れずにプレーすることをずっと言われてきました。幸嶋コーチのように大学に入っても人間性の大切さを言ってくださる方は少ないと思いますし、今でも学んでいる最中ですね」
スポーツの世界では、どうしても審判の判定に対して納得のいかないシチュエーションがある。負けている状況であれば、より感情を抑えきれなくなる選手も少なくない。「幸嶋コーチから言われていることは、審判の笛が鳴らなかったり自分の思った判定ではなかったりした時でも、冷静に受け止めてプレーすることです」と明かす山本は、ポイントガードとしてゲームメイクを担う立場でもあり、「流れが悪い時こそハドルを組んで、チームで戦うことを意識しています」と話す。
チームは11勝11敗でリーグ戦を終えた。1桁点差で敗れた試合もあるが、反対に2、3点差で競り勝った試合もある。最終戦では東海大学に76-56の快勝を収め、昨年よりも〝戦えるチーム〟に成長を遂げた。その要因については、「チーム全体で我慢できる時間帯が増えました。今年はリバウンド、ルーズボール、ディフェンスの部分でも成長を感じています」と語る。
大前提として、気持ちで負けていたら勝てない
「高校1、2年の時は1cmずつ伸びていた記憶があります。そもそも163で止まる予定はなかったですし、さすがに170くらいにはなるだろうと思っていました(笑)」
そう言って白い歯を見せる山本には、少年の頃から憧れや目標に掲げるプレーヤーがいなかったという。だが、Bリーグが誕生し、その舞台で躍動する河村や167cmの富樫勇樹(千葉ジェッツ)、172cmの齋藤拓実(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)といったガード陣を見て、内側からフツフツと湧き上がるものがあった。
「やっぱり自分もこれぐらいできなくちゃいけないんだ」
謙虚さを持ってコートに立つことを大切する山本だが、控えめなプレーを心掛けるという意味では決してない。163cmという身長でチームに認められ、試合に出るには、人間性や謙虚さと同等、あるいはそれ以上に重要なことがある。
「やっぱり一番は、気持ちっすね。小さいから勝てないとか、小さいからできないというのは自分の中では言い訳だと思っていますし、大前提として気持ちで負けていたら絶対に勝てない。それは自分でも分かっています」
思えば、恩師の原田コーチもかつてこんなことを話してくれた。「山本は自分が小さいということをずっと背負って戦ってきているので、弱気になったら戦えないというのが体に染み込んでいるんだと思います。だから負けん気があって精神的にも強いんです」
「身長が低いのでディフェンスで狙われることが多いですけど、それ以上にオフェンスで点を取ってやろうという強い気持ちがあります」と述べる神奈川大の背番号3は、これからも自分のスタイルを貫き、自らの存在価値を高めていく。「得点を取ることにフォーカスしていきたいです。コートに立ったら自分が一番うまいと思ってプレーしていますし、得点を取れなければ自分がいる意味がないです」
左手から放たれる数々の放物線は、チームだけでなく、我々にも勇気を与えてくれる。