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日本女子代表を率いる恩塚亨HC(右)とキャプテンの林咲希

バスケ女子日本代表、アジア杯6連覇へ 世界の頂点に向けたロードマップ

2023.06.13

6月26日、オーストラリア・シドニーで開幕する「FIBA女子アジアカップ2023」において、バスケットボール女子日本代表は2つのミッションに挑む。1つは1年後に迫る世界大会の最終予選の出場権を得ること。もう1つは大会連覇記録を「6」に更新することだ。大会直前の6月16〜18日には「三井不動産カップ2023(高崎大会)バスケットボール女子日本代表国際強化試合」があり、重要な実戦の場となる。まさかの予選敗退に終わった「FIBA女子ワールドカップ2022」の課題を引き継ぎ、再び走り出した恩塚亨ヘッドコーチ(HC)と選手たちに話を聞いた。

恩塚亨HC「私にできることは何でもしたい」

「(ワールドカップの)選手たちの試合後の顔が、頭から離れないんです。私は2021年の世界大会の選手の顔も覚えています。選手たちは力を出し切って、晴れ晴れと喜びを分かち合っていました。あの姿、あの経験を選手たちにしてもらうために、私にできることは何でもしたい。全身全霊でがんばりたいという思いです」

5月11日に行われた記者会見で、恩塚亨HCは力を込めた。

2021年、夏。女子日本代表は東京で行われた世界大会で史上初の銀メダルを手に入れた。1カ月後の「FIBAアジアカップ」からは、それまでトム・ホーバスHC体制でアシスタントコーチを務めた恩塚氏がHCに就任。町田瑠唯(富士通)ら銀メダルの主力メンバーを多く欠きながらも同大会史上初の5連覇を達成し、女子日本代表の行く先は明るいと思われた。しかし、上位進出が期待された昨年9月のワールドカップの結果は1勝4敗。予選ラウンド敗退に終わった。

アジアカップ6連覇に向けた強化ポイントを語る恩塚HC

恩塚HCはこの大会について以下のように話す。

「バスケット界をさらに前進させていくために非常に重要な大会だと思って、出来うるベストを尽くして臨みました。ただ、手間をかけずにチャンスを取り切るという戦い、あるいは高いインテンシティを表現するということに対して課題が残り、選手、ファンの方々の期待に応えられませんでした」

HC就任時、恩塚HCは新たなチームコンセプトを掲げた。「40分間世界一のアジリティを発揮する」、そして「カウンターバスケットボール」。前者は、あらゆる局面に即応して、効果的なプレーを発揮し続けられる能力を養うこと。後者は、セットプレーを多用せず、相手のプレーに対して最適な対応策を出し続ける戦い方を指す。

100種以上のフォーメーションを駆使するシステマティックなバスケから、選手たちに多くの裁量が委ねられたフリーランスオフェンスへ。選手たちは戸惑いながらもこれに取り組み、アジアカップ、そしてワールドカップ直前に行われた親善試合までは高いパフォーマンスを発揮したが、世界最高峰の舞台で通用するところにまでには至らなかった。

チームコンセプトを実現するために

ワールドカップで得た課題をもとに、恩塚HCは2024年に向けた新たなロードマップを設定し直した。簡単にいうと、大きな裁量の中でプレーすることに慣れるためのシステムを導入し、チームコンセプトを実現するための道筋をより明確にした。

まず、アジリティ(敏捷性)という言葉を「ポジショニング」に落とし込んだ。「簡単に言うと、有利なポジションを先取りして、横並びでない状態で勝負することを目指します」と恩塚HCは説明する。

「これまで選手たちには『先手を取る』『スピードを活かす』という伝え方をしてきましたが、結局何を頑張ればいいのかと、私自身がもやもやしたところがあったので、より解像度を上げて『ポジションの先取り』とし、アジリティを高める目的を明確にしました。練習中も、ポジショニングに関しては数秒、数度、数センチにまでこだわって、口酸っぱく指導しています」

ワールドカップでは、チームの強みがことごとく対策された。その反省から、対策されてもなお強みを生かせるようなシステムで対抗。特に”お家芸”とされる3ポイントシュートに関しては「これまでの常識を超えるようなシステムを作りたい」と意気込んでいる。

「一番大事なことは、選手が40分間力を出し切って戦い抜ける状態に持って行くことだと思っています。最終的な理想は、原理原則をもとに選手の判断でプレーしていくことではあるんですが、今回はシステムで全体を包んで、システムの中でいい判断をするように促しています。すると、選手たちが『何をやればいい?』と考え込まず、目の前のディフェンスをやっつけることにフォーカスできるようになるんじゃないかと思います」

恩塚HCは「これまでの常識を超えるようなシステムを作りたい」

カオスを制することにトライする

そしてもう1つ、このチームで恩塚HCがチャレンジしようとしていることがある。

「今の世界トップレベルのバスケは、試合開始5分でお互いのセットプレーの読み合いが終わり、以降はそれを壊し合う、カオスの勝負になります。中高生年代の選手から試合後に『どうプレーしていいかわからなくなった』という言葉が出ることがありますが、これはカオスに対応できなかったゆえに出てくる言葉です。私たちはそのカオスを制することにトライしようと思っています」

「自分たちのバスケができたから勝てた」「自分たちのバスケをさせてもらえず負けた」。学生年代からプロまで、あらゆるカテゴリーのコーチ・選手たちが使う言葉だ。日本人は、与えられた型の中でその質を高めることは得意だが、型を失った後の対応が苦手だと言われている。恩塚HCはこの点に着目し、日本バスケ界全体が抱える課題を乗り越えられるチームを作り上げようとしている。

強化合宿に臨む高田真希(右)

キャプテン・林咲希、助け合いながら前進

選手たちの取り組みにも目を向けよう。

ワールドカップではコンディション不良でメンバーから外れた林咲希(富士通レッドウェーブ)は、前回のアジア大会ぶりにキャプテンに就任した。恩塚HCは「チームを勝たせることはもちろん、みんなのいいところを引き出せるようにしたい、困っている人の力になりたいという気持ちを感じる選手」と林を評し、キャプテン就任を要請した。

代表活動のスタート時、林と恩塚HCは何度か話し合いを行ったという。どうやればチーム内のコミュニケーションが活性化されるか、どうすればキャプテンがうまくチームをまとめられるか……。今回から導入された、ガード、フォワード、センターのポジションごとにリーダーを立てる方式は、林のアイディアで生まれたものだ。

「恩塚さんがHCになった当初は、わからないことが多くて、選手が疑問や不満を溜め込んでしまうようなこともありました。でも、今は年齢関係なく思ったことを言い合えるようになったし、若い選手の意見も積極的に聞こうという雰囲気になっています。難しいことをやっている自覚はありますけど、できるようになったらもっと世界と戦えるようになれると選手たちは理解し始めていると思いますし、私は一番それを理解しているつもりなので、それをちゃんと発信できたらなと思います」

目指すのは、試合に勝つことはもちろん、全員がお互いを思いやり、助け合いながら前に進んでいく集団だ。

「みんなが自分のプレーを出して、行き詰まったとしても誰かが助けたり、チーム全体で挽回する。そんなチームを作っていきたいです。もちろん試合をやってみないことにはわからないですけど、自分が中心となって、練習から雰囲気を作っていきたいです」

林咲希は練習から雰囲気を作りを大切にしている

大学生の朝比奈あずさ「自分自身を成長させ、優勝を」

朝比奈あずさ(筑波大学2年)は、最年少かつ唯一の大学生として、アジアカップ出場メンバーに残った。代表初招集となった昨年はチャレンジャー志向が強かったが、今年は「どんどんエネルギーを出して、(センターの先輩である)高田(真希、デンソー)さんや渡嘉敷さんを超えられるように頑張る」「2人と一緒に国際大会に出場したい」と視座が引き上がった。

強みは、チームメイトの動きに呼応して得点を狙えるスキルと判断力。対世界のフィジカルコンタクトのポイントとして「コンタクトに入るスピードやぶつかり合いに入るときの低い姿勢」を挙げるなど、恩塚HCの掲げるスタイルによくマッチしている選手だ。

「恩塚さんからは、合わせのプレーで自分にディフェンスが寄った時の展開や、適切なスクリーンを求められていると思います。そういう部分に注力して自分自身を成長させて、アジアカップでは優勝を狙いたいです」。期待の若手はそう抱負を語った。

大学生の朝比奈あずさ(左)の成長に注目したい

「三井不動産カップ2023」で実戦

女子日本代表は、6月16〜18日に高崎アリーナ(群馬県高崎市)で開催される「三井不動産カップ2023」(対デンマーク代表)をへて、6月26日よりアジアカップに挑む。日本代表はこの大会でまずはベスト4に入り、来年に控えるフランス・パリでの世界大会の最終予選の参加資格を獲得した上で、自らが保有する大会連続優勝記録の更新を目指す。

試行錯誤し、痛みを重ねながら、ようやく目指すべきものへの道筋が明らかになった女子日本代表。新たなフェーズに進んだ彼女たちの進化と、来年の世界大会に至るまでの過程に、改めて注目してもらいたい。

三井不動産カップ2023(高崎大会)の公式サイト、チケット情報はこちら