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特集:第74回全日本大学バスケ選手権

東京医療保健大に残る「恩塚イズム」、6連覇で証明 監督交代の変化も進化の糧に

6連覇を果たし、喜ぶ東京医療保健大の選手たち(撮影・松本麻美)

第74回全日本大学バスケ選手権 女子決勝

12月11日@ 国立代々木競技場 第二体育館(東京)
東京医療保健大学 77ー52 白鷗大学

「全員が40分間で命を使い切ろう」

端からみれば「大げさ」とも「過激」ともとれる言葉。これが、歴代最長タイの「6連覇」の偉業を狙う、東京医療保健大の合言葉だった。

「現状維持」では足りない 芽生えた覚悟

根底にあるのは、今年3月まで指揮を執っていた恩塚亨前監督の「バスケットを通して人生を良くしよう」という考え方だ。勝利至上主義にとらわれた強権的な指導で選手をこわばらせてきた過去を反省し、「ポジティブ」な雰囲気や言葉遣いによって、選手個々が持っている力を最大限に引き出すことを狙った。そして、時間をかけて選手たちと向き合って浸透させてきた。

その監督が退いた後、なぜ、冒頭のような強い合言葉が生まれたのか。主力を担う4年生の伊森可琳(かりん、桜花学園)が説明する。

「私たちは、それぞれの役割を理解して、『バスケットを楽しむ』『自分自身の命を輝かせてプレーする』ということをすごく大事にしてきたチーム。そのマインドセットで強くなってきた。ただ、6連覇を達成するためには、それだけでは足りないよねって話して。『命を使い切ろう』という言葉が出てきた」

大きな目標に対して、強い覚悟で向かおうとした部員たちが自分たちで考え、生み出した合言葉だった。

伊森は4年生の主力として、後輩たちをプレーで引っ張った(撮影・小俣勇貴)

ベンチ含む「全員バスケ」で圧倒

それを体現する集大成の一戦。相手は今季のリーグ戦で敗れた強敵・白鷗大だったが、序盤から圧倒した。

テンポよくボールを回し、的を絞らせない攻撃で波に乗った。岡本美優(3年、桜花学園)が外角からリングを射抜き、ゴール下ではジョシュア・フォノボ・テミトぺ(4年、高知中央)が大黒柱として攻守に安定感をもたらした。

ディフェンスでは「とにかくボールプレッシャーをかけよう」と、選手交代を活用して休むことなく圧力をかけた。スチール数は、相手を3個上回る8個を記録した。

最初の得点をのぞき、一度もリードを許すことはなかった。白鷗大の佐藤智信監督も「とにかく圧力がものすごかった」と脱帽するほどの完勝。第4クオーターの最終盤は、控えの4年生をコートに送り出し、試合終了の瞬間はベンチの選手も一緒になって喜びを爆発させた。

継承へ 「理想の成長」見せた1年

東京医療保健大のベースを築いたのは、紛れもなく恩塚氏だ。その指揮官が女子日本代表監督に専念することになり、チームを離れた。6連覇という大きな目標に向かうチームにとって、大きな出来事だったはずだ。

後任が、日高哲朗監督だったことが大きかった。恩塚氏にとって筑波大学在籍時の「恩師」の一人。リーグ戦で白鷗大や筑波大に敗れ、結果が伴わない時期もあったが、日高監督は教え子の指導と選手たちを信じた。

「恩塚イズムはしっかり選手たちに染みこんでいた。ぶれずにやり続けていけば大丈夫だと思っていた」

司令塔の古木梨子(3年、アレセイア湘南)は、1年生の時に恩塚前監督からかけられた言葉を今も大事にしている。

「恩さんは、『プレーが良いから良い気分になるんじゃなくて、自分が楽しくバスケットをやるから自然と良いプレーができるようになるんだよね』と教えてくれた。自分はその考え方でプレーしてみて手応えがあったし、仲間にも良い雰囲気が伝わるんだと思った」

岡本は言う。

「恩塚監督とやってきたものをベースに、日高監督がファンダメンタル(基礎的)な部分やディフェンス面の補強をしてくれた。理想的な形で成長できたと思う」

新監督を迎えた東京医療保健大は、スタイルを守るだけでなく、磨き続けてきた。強い合言葉も、一つの産物だろう。

日高監督も「恩塚が作ったプログラムが非常に良いということを、選手がしっかりコート上で表現してくれた」と目を細めた。

日高監督(左端)とともにつかんだ6連覇の喜びを全員で分かち合った(撮影・松本麻美)

改めて、東京医療保健大の強さを印象づけた6連覇。今後は、恩塚氏を知らない選手が増えていくなかで、いかにそのイズムを継承していくかが課題となる。

池松美波(3年、聖カタリナ学園)は、「4年生は人格もプレーも尊敬できる人たちで、背中で見せてくれた。自分たちも、バスケットの技術だけでなく、まずは人として、そうなれるよう、日々の態度から後輩たちにしっかり伝えていけたら」。前人未到の7連覇に向け、力強く前を見据えた。

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