町田瑠唯は女子日本代表として金メダル獲得を目指す 🄫日本バスケットボール協会
パリ2024オリンピックがまもなく開幕する。メダルの期待がかかるのが、3大会連続出場となるバスケットボール女子日本代表だ。恩塚亨ヘッドコーチ(HC)が掲げる「走り勝つシューター軍団」のコンセプトのもと、主将の林咲希や司令塔の町田瑠唯、宮澤夕貴(いずれも富士通レッドウェーブ)らが内定選手に名を連ねた。それぞれが試練を乗り越えて臨む舞台では、前回の東京2020オリンピック銀メダルを上回る、金メダルの獲得を目指している。
町田瑠唯、進化を止めない世界のアシスト王
東京2020オリンピック(以下、東京大会)を振り返るとき、真っ先に思い浮かぶ競技の一つが女子バスケットボールだ。史上初の銀メダル獲得はもちろんのこと、準々決勝ベルギー戦での逆転劇は、これからも語り継がれる名シーンだ。
その戦いで活躍が光ったのが、決勝の3ポイントシュートを決めた林、そのシュートをアシストした町田、そして7本の3ポイントシュートを沈めた宮澤だ。3人はパリ2024オリンピック(以下パリ大会)でも日本代表に内定した。
しかし、3人にとってこれまでの3年間は決して順調だったわけではない。それぞれが紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、世界の舞台に臨むことになる。
東京大会でアシスト王とベスト5に選ばれた町田は、その翌年、アメリカの女子プロバスケットボールリーグ・WNBAで1シーズンをプレーしている。しかし、こと日本代表となると不運が続く。その活動時期にけがが重なり、東京大会後に始動した恩塚HC率いる日本代表に、なかなか選出されることがかなわなかった。町田にとってのパリ大会は、東京大会以来の国際大会なのである。
「恩塚さんのバスケットを言葉で説明するのは難しいんですけど、結局のところは、ガードがどれだけプレーをクリエイトできて、生まれたチャンスを逃がさずに良い選択をできるかが大事になってくると思っています」
町田がそう語るように、恩塚HCが求めるバスケはガードの攻撃がカギを握る。しかし自らを「感覚でプレーを選択する選手」と認める町田には、コート上で考えることが増えて、それが難しいのだと言っていた。むろん、これまでも何も考えずにひらめきだけでプレーしていたわけではない。いくつもの経験を積み重ねて、そこから紡ぎ出される考えをもとに、自らの感覚を研いできた。それでも考えることがこれまでよりも格段に多い。
「考えることが増えることは決して悪くないので、それが自然にできるようになってきたら、私自身の考え方やプレーの選択肢も広がるだろうし、選択するプレーの質もおのずと上がるのかなと思っています」
パリ大会は町田自らが進化するためのステージにもなると言える。
「リオデジャネイロ大会のときも、東京大会のときも、今回のパリ大会でも、起用のされ方は違うし、立場も変わっています。その意味では今回もチャレンジです。だからこそ、やり残しのないようにしたい。東京大会は『ああすればよかった、こうすればよかった』という気持ちを残しての銀メダル獲得だったので。もちろん私の性格上、やり残したことがゼロになることは確実にないんですけど、それでもパリ大会を通して少しでもステップアップしたいです」
宮澤夕貴、復活の舞台で恩返しを
東京大会でチーム2位となる69得点を挙げ、3ポイントシュートも19本沈めた宮澤だったが、2022年のワールドカップを最後に日本代表から離れていた。本人がそれを求めたわけではない。候補選手にも選ばれることがなくなり、日本代表を客観的に見るようになったと認める。
しかし、2024年1月、Wリーグの「SUPERGAMES」と呼ばれるイベントで、久しぶりに日本代表の活動を直接見たとき、「選考の場にすら立てていないことに、もどかしさを感じて、ショックを受けたんです」。2013年、20歳のときから日本代表に選ばれ続け、アジアや世界と戦い続けてきた宮澤にとって、やはりそこは自分がいるべき場所だと気づいたのである。
もちろん、本人がそう思ったところで選ばれる場所ではないこともわかっている。その座を取り戻そうとも思わなかった。ただ所属チームでWリーグを優勝することだけにフォーカスしていたら、その結果が伴ったとき、代表候補復帰の知らせも届いたのである。
それでもまだ当初はどこかで疑心暗鬼だったと認める。最後まで選んでもらえるのだろうか。いや、そもそも客観的に日本代表を見ていた自分が、以前のように熱い気持ちになれるのだろうか。どちらかといえば、後者への不安が、頭をもたげていた。
それが第1次強化合宿の始まる直前、愛知県で行われたWリーグのオールスターで一変する。
「ファンの方と交流する機会があって、そのときに『日本代表でのアース(宮澤のコートネーム)さんを楽しみにしています。頑張ってください』と、多くの方に直接言われて、みんなが日本代表の自分にも期待してくれている……。家族もそうですし、友人もそう思っているとわかったときに、頑張らなきゃいけないとスイッチが入ったんです。だから今、こうして頑張れているのは、そういう人たちの期待に応えたいという気持ちと、自分が活躍することによって周りの人が喜んでくれるという恩返しだけです」
宮澤にとってのパリ大会は、チームで金メダルを目指すとともに、支え、後押ししてくれるファンに最高の景色を見せるための大会となる。
林咲希、主将として挑む世界一
そんな町田と宮澤の復帰を心待ちにしていたのが、日本代表のキャプテンを務める林である。
「2人ともフィットするのが早いなと思いますね。(2人がいない)OQT(パリオリンピック世界最終予選)のときにあった、その場その場でやり切る力は2人が加わった今も変わらずにできているので、2人の個性がすでにうまく出ているんじゃないかと思います」
3人がWリーグで所属するのは富士通レッドウェーブ。2011年、町田が高校卒業と同時に入団すると、2021年には宮澤が、2023年には林が、それぞれ移籍してきた。3人がそろった2023-24シーズン、富士通は16年ぶりにWリーグを制覇している。そのコンビネーションが再び、それでいて恩塚HC体制になってからは初めて、日本代表で交わることになる。
町田と宮澤が加わった日本代表をキャプテンとしてまとめる林が言う。
「選考が終わったので、ここからチーム力をもっともっと上げていきます。ただチームとしては出来上がっているところがあるので、細かいところを追求していくこと。それを示すのがキャプテンとしての役割だと思っていますし、私が引っ張っていかなければいけないという気持ちでいます」
林個人はパリ大会を集大成だとは思っていない。むしろ今後のキャリアの通過点でしかないとさえ思っている。だからこそ前回大会よりもよい結果を残したい。むろん目指すところは町田も、宮澤も同じである。
女子日本代表は、7月30日(日本時間)にアメリカとの初戦を迎える。
東京大会で世界を驚かせた3人が3年のときを経て、同じコートに立つ。その間もそれぞれがさまざまな経験をして、成長してきた。それを余すところなく発揮して再び、しかし前回以上のインパクトを世界に与えてほしい。(文・三上太)