「インフロニア B.LEAGUE U18 INTERNATIONAL CUP 2025」が3日間にわたり開催された(写真はすべて ©B.LEAGUE)
2月22日から3日間、国立代々木競技場第二体育館で「インフロニア B.LEAGUE U18 INTERNATIONAL CUP 2025(以下、U18インターナショナルカップ)」が行われた。4回目となる今大会は、海外からドイツとオーストラリアの2チームを招聘(しょうへい)し、Bリーグ U18の4チームと選抜チーム、高校部活動の1チームの全8チームで戦った。Bリーグのミッションである「世界に通用する選手やチームの輩出」に向けて歩みを進めている。
海外から2チームを招聘、高校部活動からも参戦
2022年から始まった同大会は、当初の2年間こそ新型コロナウイルスの蔓延により海外チームの招聘できなかった。しかし3回目となる昨年度の大会に初めて中国とドイツのチームの参加が実現した。
今年度は前回王者に輝いたSKYLINERS U18(以下、スカイライナーズ U18)が2年連続で、オーストラリアからビクトリア州選抜チーム(以下、ビクトリア州選抜 U18)が初めて出場し、視野を広げた育成強化の舞台が整えられた。
日本からは、「インフロニア B.LEAGUE U18 CHAMPIONSHIP 2024」の優勝チームである名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(以下、名古屋D) U18と準優勝チームの千葉ジェッツ U18、琉球ゴールデンキングス U18とサンロッカーズ渋谷 U18が出場。加えてBリーグ U18選抜チームと、高校部活動からも美濃加茂高校(岐阜)が参戦した。
目的に掲げる「Bリーグユースチームと海外チームとの交流を通して、世界に挑戦する意識を高めるとともに『世界に通用する選手やチームの輩出』に向けた育成強化の礎を形成する機会を提供すること」に向けて前へと進んでいる。
スカイライナーズ U18に挑むサンロッカーズ渋谷 U18の井伊拓海(左)
自ら考え、実行し、学びを深めていく
大会最終日、試合を終えた琉球ゴールデンキングス U18の佐取龍之介はこう話している。
「大会前にチームで『この大会が終わった後にどんな自分になりたいか』という話をしていたんですけど、それまでの自分には『逃げる癖』があったんです。劣勢のときや、エースキラーのようなディフェンダーに守られたとき、逃げる癖があったんですけど、大会を通じて『勝者のメンタリティー』というか、やり続ける姿勢をつかめたらいいなと意気込んでいました。実際に大会が終わってみて、海外の2チームを含めて、対戦したすべての試合で最後まで自分の役割を徹底して、エースとして果敢にアタックしたり、シュートを決めることができたのは、自分の求めていた『勝者のメンタリティー』を少しはつかめたんじゃないかと思います」
チームの順位は8チーム中6位。予選ラウンドでは美濃加茂高校とビクトリア州選抜に、順位決定戦ではスカイライナーズ U18に敗れている。それでもなお、つかむものがあったと言えることは、Bユースの狙いに即している。彼らの目標はプロになることであり、目先の勝利だけではない。自己実現のための育成環境をBリーグと各チームは整えているのだ。
琉球ゴールデンキングス U18の佐取龍之介(右)は海外チームと戦い収穫を得た
琉球ゴールデンキングス U18の与那嶺翼ヘッドコーチ(HC)は言う。
「我々はマンツーマンディフェンスにこだわっているんですけど、今のBリーグを見ていても、本当に強度の高いマンツーマンディフェンスをしていると感じます。彼らがそこを目指しているのであれば、そこに軸を持って彼らにチャレンジさせることが重要だと思います。そういう意味でも同年代の外国籍の選手とマンツーマンディフェンスで渡り合えたことは貴重な経験だったと思いますし、彼ら自身も強度の高いディフェンスをよりイメージできたんじゃないかと感じています」
むろんプロになることが目標だからといって、そのためのスキルや戦術だけを教えて込んでいるわけではない。ベンチからの指示をただ聞くだけでなく、選手自身がコート上でいかに考えるか。それもプロで活躍するうえでは重要になってくる。自らの意思で紡ぎ出すところに、より高い学びや成長はある。
選手たちはプロで活躍するうえで必要な技術や思考を大会を通して学んでいる
将来プロで活躍する選手を育成するために
今大会を2位で終えた名古屋D U18の大西順HCはこう言っている。
「我々Bユースチームの最終的な目的は、将来プロで活躍する選手の育成です。そうなると結局のところ、日常で通用をすることだけをやっていても仕方がないし、そういう場所だけでやっていても仕方がないんです。成長がないからです。インターナショナルカップのような舞台に立って、一度肌で感じてみて、ここが通用しなかったなという経験をいかに積んで、学んで、次にこうすればいいんだなと考えられるかどうか。たとえばビクトリア州選抜 U18との試合でも、負けはしましたが、63点を取れています。それは通用している部分があるからです。それを今は10回中2回ぐらいしか出せていないとしても、10回中4回、5回と繰り返せるようになっていけばいいだけだと思います」
名古屋D U18はスカイライナーズ U18に73-53で勝利をもぎとった。チームにとっては価値ある1勝だった。エースでキャプテンの今西優斗は、「昨年の大会ではスカイライナーズさんに敗退してしまいました。今年はそのリベンジで、国際チームに勝つことを一番の目標にしていました。そこで1勝できたことが、この大会で成し遂げられたことだと思います」と自信を持った。
今西優斗(左)が引っ張る名古屋D U18はスカイライナーズ U18に価値ある勝利をつかんだ
勝つことでも学び、負けることでも学ぶ。勝ったときに反省点がひとつもないのかといえば、そうではない。負けたときにすべてが通用しなかったのかといえば、そうでもない。反省点も、通用した点も、克服し、伸ばしていくことで彼らの未来は無限の広がりを見せていく。それこそが育成年代のバスケット、ひいては育成年代のスポーツだと言っていい。
よりよい育成環境や大会の充実へ
U18インターナショナルカップの1カ月前、Bリーグの増田匡彦・常務理事はBユースについて、「2032年までにBユース出身選手からのNBA選手の輩出を目指す」と発表した。
容易な道ではない。しかし挑む価値のある道ではある。
たとえば横浜ビーコルセアーズ U18の出身者にジェイコブス晶がいる。パリ2024オリンピックの日本代表選手でもある彼は、現在NBAの登竜門ともいうべきNCAAのディヴィジョン1に所属するハワイ大学でプレーしている。
またBリーグが新設した選手登録制度「U22枠」は、通常の選手登録枠13人とは別に、22歳以下の選手を2人、登録できる。上記の佐取も2025-26シーズンにその枠で琉球ゴールデンキングスと契約を結んだことが発表された。彼以外にも同じ契約でプロ入りする若い選手たちはいる。
Bユース出身ではないが、Bリーグを経由して、NBAのメンフィス・グリズリーズとツーウェイ契約をしている河村勇輝の例を見ても、Bリーグの掲げた目標はけっして夢物語でもないのだ。
ただ、それを実現させるためには、よりよい育成環境や大会などの充実、ルールづくりなどが求められる。緻密(ちみつ)でありながら、ダイナミックで、柔軟性のある環境をいかに整備するか。
美濃加茂高校の林龍幸HCは「経験の重要性」の視点から、こんな提言をしてくれた。
「私としてはU18インターナショナルカップに、その年にアジアカップやワールドカップのあるU16日本代表やU18日本代表といった、アンダーカテゴリーの代表チームを入れてもいいのではないかと思いました。Bユースのチームは戦術的にも高いものがありますし、選手個々のフィジカルも強い。それは、たとえばアジアで言えば、フィリピンや中東の国々との対戦という意味でもいい経験になります。海外チームと対戦できるのであれば、身長の高さや腕の長さ、パワーや間合いといったことにも気づけます。そうした大会になってもいいのではないかと思います」
実現すれば、プロを目指しながら、同時に日本代表を目指すBユースの選手たちにとっても、自らの現在地を知るうえで有意義なことである。
Bリーグ 18選抜チームと美濃加茂高校も参戦した
高校生世代の育成、多様に広がる未来への道
かつて高校生年代の選手育成といえば、高校部活動がほぼ一択だった。今もまだ高校部活動に進む選手は多い。Bリーグ U15からそのままU18に進むのではなく、高校部活動に進む選手もいる。2024年度でいえば渡邉伶音選手(千葉ジェッツU15から福岡大学附属大濠高校)や平良宗龍選手(琉球ゴールデンキングスU15から開志国際高校)がそうである。しかし、Bリーグ U18も、その先に進路を含めて、徐々に整備されつつある。
名古屋D U18の今西はユースで成長してきた代表格だ。中学から名古屋D U15に加入し、中学3年時から飛び級でU18の試合に出場。2022年12月にはトップチームにユース育成特別枠として加入し、当時のB1最年少出場記録を更新するなど活躍した。
現在高校3年生の今西は、今年度でU18を卒業する。「国際試合ができる、トップチームがすぐ身近にいるので、プロがどんなレベルでバスケットをしているのか肌感覚で感じることができます。そのアドバンテージは感じました」と、ユースの活動を振り返る。
「自分たちユースがしっかり戦えるというのを証明して、少しでも選択肢を広げられる存在になったらいいなと思います。ユースのレベルも確実に上がっています。これからユースがどれだけレベルアップできるかが、日本バスケ全体のレベルアップにもつながると思います」
今西は名古屋Dのユース育成特別枠選手としての活動を終了し、特別指定選手に登録されることが発表された。今後はユースで培った技術や経験をよりレベルの高い舞台で発揮していく。
会場には海外チームとの交流の場も設けられた
「スラムダンク奨学金」でアメリカに渡ることになっている千葉ジェッツ U18の関谷間はずっとクラブチームでプレーをしていた。しかしアメリカでの大学進学を視野に「プロと一緒に練習できる環境で、より高いレベルでバスケットがしたい」と高校2年生から千葉ジェッツ U18に移籍している。
また高校部活動に入ったものの、さまざまなことが合わずにBユースに移籍した選手もいる。かつてであれば、そのままドロップアウトした可能性もなくはないが、その選手は移籍したU18の中心選手として、のびのびとプレーしていた。
つまり未来への道はひとつではないのである。さまざまな道があるし、あっていい。あとはそれをいかに自分の力で切り開いていくか。そのための育成環境をBリーグは所属する各チームとともに、しっかりと整備している。
いつかB.LEAGUEへ。
いつかNBAへ。
日本のバスケットの未来はもっと切り開いていける。
(文・三上太)