オンライン研修に参加した若手選手たち(一部)
バスケ選手の現役時代の魅力を最大化し、一貫したキャリアビジョンを描いてほしい――。その契機となる「B.LEAGUE キャリアマネジメントプログラム」を始動させたBリーグは7月下旬、若手選手を対象にしたオンライン研修を開催した。B1、B2、B3の全国50クラブから新人約50人、2~3年目約90人の計約140人が参加。プロとしての自覚から社会貢献活動、そしてキャリアの設計方法まで、6日間にわたる充実したプログラムの一部をのぞいてみた。
バスケットボールがうまいだけではアマチュア
「プロフェッショナルとは何か」
考える時間は2分間。それぞれの選手が「自分にとってのプロフェッショナル」を言語化することから研修は始まった。
Bリーグが2016-17シーズンから毎年開幕前に開催している選手研修。今シーズンは「プロフェッショナルとは何か。Must Can Will 〜やるべきことを理解し、いまできることを考え、なりたい自分を想像する」をテーマに、外部講師を招いて全14セッションの講義を実施した。
研修に先立って、島田慎二チェアマンが元メジャーリーガーのイチローさんやサッカーの三浦知良選手の若き日のあり方を例に挙げながら新人選手へ歓迎のメッセージを送った。
島田チェアマンは、アスリートにとって「20代の過ごし方」と「応援される選手になること」の2点が大切であると力説。「時が過ぎるのは早い。どんなスーパースターでもあっという間に引退の時はやってくる。だから、1日たりとも無駄にせず、できるだけ早く、高い視座で取り組みはじめてほしい。引退後の人生の方が長い。いまから将来を考えることで、プレーヤーとしてどう過ごすべきか、何を学ぶべきかが定まり、現役生活をより豊かに過ごすことができる」とアドバイスした。
さらに、「バスケットボールはうまいだけではアマチュアだ」とやや強い言葉を用い、「プロになる選手は皆バスケットボールがうまいので、それだけでは差別化は図れない。プレーで魅せるのは大前提で、人間性でひきつけることが求められる。応援される選手、見たい選手になることで自分の商品価値を高めることが年棒や選手寿命を伸ばすことにつながる」と応援される選手になることの重要性を話した。
続いて、佐野正昭専務理事がBリーグの目指す世界について説明。「皆さんがプロでいられるのは、450万人以上のファン、8400社のスポンサー企業、41の自治体が、皆さんを応援し、活躍を見たいと思ってくださっているからだ。それだけ社会的な影響力が大きいということ。リーグ・クラブスタッフと選手がチームとなって、『感動立国』を実現しましょう」と述べて最初のセッションを締めくくった。
その後、新人選手は「社会常識」「コンプライアンス」「ルールの理解・リスペクト」「SNS」など、プロ選手に必要な知識・スキルを習得するための講習を受けた。5日目からは2、3年目の選手も加わり、「セルフコーチング」「お金と税金」など実践的な講義が行われた。
オフコートでの活動が選手としての価値を高める
選手たちがとりわけ熱心に耳を傾けていたのは、広島ドラゴンフライズ所属の寺嶋良が自らの社会貢献活動について語った「B.LEAGUAE のSR(Social Responsibility)」のトークセッションだった。
寺嶋は「B.LEAGUE Hope」やクラブが行う地域貢献活動に加え、プロ初年度からホームゲームで最も活躍した選手に贈呈される「HERO賞」の賞金を全額途上国などで医療支援活動を行っているNPO法人に寄付するなど、個人でも積極的にSR活動を行っている。
多くの選手がうなずきながら聞いていたのは、社会貢献活動が間接的に自分に返ってくるという話だ。
「MVPにならないと寄付ができないので、活動を始めてからは、MVPがとれるようにさらに努力をするようになりました。実際に、スタッツやチームの勝率が上がりました。また、カンボジアの40世帯に浄水フィルターを寄贈する活動では、以前は泥の混じった水を飲んでいた子どもたちが透き通った水を飲んで喜んでいる姿を見て、命に関わる活動ができことに達成感を感じました」
カンボジアの支援だけでなく、コーヒー豆の購入を通して原産地の人びとの雇用環境改善を図るなど、寺嶋のオフコートでの活動は多岐にわたる。その中でも、カフェや幼稚園に本を寄贈したり、「テラシーの本棚」というおすすめの本の定期便サービスの売り上げから寄付を行ったり。趣味の読書を生かした活動は、選手としての価値向上だけでなく、寺嶋自身の人生を豊かにしているという。
トークを聞いた鍵冨太雅(青森ワッツ)は「自分の行為が回り回って自分に返ってくるという話には、グループワークでも多くの選手が共感していました。自分の趣味を社会貢献活動につなげると、活動を継続するモチベーションになる。自分も好きなことから活動を考えたい」とヒントを得た様子だった。
昨シーズン、特別指定選手として所属した千葉ジェッツで児童養護施設を訪問した経験を持つ内尾聡理(ファイティングイーグルス名古屋)は、「子どもたちの笑顔を見ることで、自分の方が元気をもらえた。訪問した施設の子どもたちが将来ファンになってくれて、自分でチケットを買って見にきてくれた時に活躍している姿を見せたい。そう思うことがバスケットボールを頑張るモチベーションにつながる。いまはまだ活動の規模は小さいが、少しずつ活動を広げていきたい」と気持ちを新たにしていた。
バスケットボールを通じて日本を元気に
最終日には、「アスリートの価値を考える」と題した総括的なセッションが行われた。
ゲスト講師の一般社団法人フィールド・フロー代表の柘植陽一郎さんは、「バスケットボールの価値を高めるためには、Bリーグ、チーム、選手自身の価値を高める必要がある。逆に、選手の価値が高まれば、バスケットボールの価値が高まる。一人一人の選手の価値を最大化するためには、アスリートとしての付加価値をどう増やすか、ファンになってもらうきっかけを作っていくことが必要だ」と話し、これまでの研修の再確認を促した。
Bリーグの増田匡彦常務理事は、6日間の研修を「みんなでバスケットボールを通じて元気な日本を作りませんか?」という言葉で締めた。「これから何かを判断する時は、『これは日本を元気にすることだろうか』『子どもたちを笑顔にすることだろうか』と自らに問いかけてほしい」と語った。
全ての研修を終え、新人の大森康瑛(サンロッカーズ渋谷)は「一番印象に残ったのは、多くの講師がおっしゃっていた、プロになったからこそできる価値の創造について。オンコートだけではなく、社会貢献活動や広報活動を伸ばしていくことによって選手としての価値を上げることにもつながり、それが引退後の道標にもなることを実感できました」と振り返った。
さらに、「自分はリーグで初のU22枠選手契約でもあるので、自分の活躍次第ではユース選手や学業との両立を考えている人のロールモデルになることができる。高校での勉強がどれだけ生きてくるのか示すためにも、オンコートの成績だけではなくオフコートでもいろいろなチャレンジをしていきたい。この枠を作ってよかったといろいろな方に思ってもらえるように努力したいと思いました」と、学んだことを復習して実践したいと意欲的だった。
Bリーグではまだ数少ない高卒プロの湧川颯斗(三遠ネオフェニックス)は、「次のロサンゼルスオリンピックを目標にして、この世界に入ってきた。いつまで現役を続けるか、何歳までにどういう結果を残すのか、そのためにいま何をするべきか。短期と長期の両方の目標を持って取り組むことが必要だと新たに学びました」とコメント。
1年前もこの研修を受けており、「この1年でお金の管理やファンとの接し方の部分で成長できたと感じているので、来年この研修を受けるまでにさらに成長できるよう取り組みたい」と、プロとしての自覚を深めていた。
今回の研修をはじめ、「B.LEAGUE キャリアマネジメントプログラム」を受けた選手たちが、日本バスケ界はもちろん、スポーツ界全体、さらにはスポーツ界以外でも活躍していくことが期待される。
昨夏のワールドカップ、今夏のパリオリンピックの日本代表の活躍により、Bリーグの注目度は高まっている。いま、この好機に、選手、クラブ、リーグが三位一体になってバスケットボールの価値を高めることが、描く未来へとつながっていく。(文・山田智子)