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特集:第74回全日本大学バスケ選手権

中央大バスケ部の改革と挑戦は続く 目指すのは「いいチーム」でなく「いい組織」

優勝チームの東海大を相手に互角の戦いを見せた中央大の選手たち(すべて撮影・小俣勇貴)

第74回全日本大学バスケ選手権 男子準々決勝

12月9日@ 国立代々木競技場 第二体育館(東京) 中央大学 65ー70 東海大学

昨年と同じカードになった準々決勝。東海大へのリベンジを目指した中央大の挑戦は、65-70というスコアで終幕した。

前回は第1クォーター(Q)で4-13と突き放され、最後は65-69と、あと一歩及ばなかった。しかし今年は序盤から、渡部琉(4年、正智深谷)、樋口蒼生(あおい、3年、羽黒)、山崎紀人(1年、仙台大附属明成)らの内外織り交ぜた攻撃で流れを作り、1Q、2Qはリード。終盤は点差を離されそうになったが、食らいつき、最後まで勝敗のわからない戦いを演じた。

「どうせ勝てない」を打破した先輩の意識改革

阿吽の呼吸から繰り出される、合わせのシュート。対戦相手にアジャストした戦術。2019年に関東大学2部リーグから1部に昇格した中央大は、クレバーかつ小気味のいいバスケットで強豪チームに立ち向かってきた。今大会も、初戦で近畿王者の京都産業大学を74-47と一蹴。日本人選手のみのメンバー構成ながら、巧みな守備で京産大の留学生センターを2得点に抑え込んだ。

大会の注目選手として評判通りの活躍を見せた渡部(21番)

特筆すべきは、この素晴らしいチームのスタイルを作ったのが、大人の指導者でなく学生たち自身だということだ。

中央大は、大学職員として勤務する荻野大祐ヘッドコーチが、平日の練習にほとんど顔を出せないという事情がある。だから、かねてより学生主体で活動するチームだった。ただ、引き締め役の大人がいない環境で自らを律し、モチベーションを維持するのは簡単なことではない。

優秀な選手が多数そろっているにも関わらず、現在の3、4年生が入学したころ、チームには「インカレに出られれば御の字」「自分たちはどうせ勝てない」というような消極的な空気が漂っていたという。

この状況を憂い、変えた男がいた。2020年度の主将を務めた樋口雄気さんだ。

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樋口さんはあいまいだったチームのルールを見直し、「2024年の日本一」という明確な目標を定め、下級生やベンチ外の部員にも等しく役割を与えた。樋口さんの卒業後は、次年度主将の清水宏記さんがそれを引き継ぎ、ブラッシュアップさせ、昨年度のインカレでは10年ぶりにベスト8進出を果たした。

樋口さんの弟でもある蒼生は、1年生のころを振り返る。

「僕らの代は1年から試合に出る選手はほとんどいなかったですけど、全員同じ立場で練習に参加できたし、一人ひとりに役割があったからやる気もありました。だから上級生たちと同じように『勝とう』という気持ちを持てていたと思います」

東海大戦でチーム最多18得点を記録した樋口(0番)

内尾聡理(3年、福岡第一)も、このように話していた。

「うちのチームには留学生がいないとか、体育館の設備がよくないとか、言い訳ができる部分がたくさんあるんですけど、樋口さんに『そこに目を向けないで勝ちに行こうぜ』『日本一になれるチームになろうぜ』って意識改革をしてもらった感じです。『同じ大学生なんだから負けてられない』という意識が文化になったから、チームがしっかりまとまってるんだと思います」

樋口いわく、現在は、選手と学生コーチが練習メニュー、戦術、選手起用の原案を作り、それを荻野ヘッドコーチが吸い上げる形をとっているそうだ。

順調な改革のブレーキとなった「責任感」

年を追うごとにチームケミストリーを洗練させた中央大は、今年、2024年を待たずに「日本一」という目標を設定した。新チームには樋口さんや清水さんのような圧倒的なリーダーはいない。4年生たちは「誰か」でなく「全員」でチームをまとめていこうと方針を定めた。

渡部は特別指定としてBリーグでプレーした経験を活かし、練習や戦術面でリーダーシップを発揮した。吉田は自主練で誰よりも強度の高いメニューに取り組み、努力する姿勢を後輩たちに見せた。ベンチに入れないメンバーは試合分析を買って出て、ミーティングでは主力、ベンチ外、関係なく、意見を交わした。

吉田(47番)はゴール下で攻守に献身的なハードワークを見せた

しかし、春の関東学生選手権は8位。秋のリーグ戦は7位。結果はついてこない。キャプテンの北村孝太(4年、東海大諏訪)は、その理由の一端について、こう分析していた。

「4年生の責任感がいろんな面で出すぎてしまって、後輩たちにやりづらさを感じさせてしまっていました」

主将が悩み、伝えた言葉 「少し変えてみよう」


1年時から主力ガードをつとめていた北村は、スランプに苦しみ、プレータイムを大きく減らしていた。「まわりを活かすことが得意な選手だと思っていたんですけど、気づいたら『自分』がなくなっちゃってて」。自分らしさとは何か。チームに貢献するにはどうすればいいのか。考え込めば込むほど混乱し、ミスや消極的なプレーを繰り返した。

北村(3番)は主将として、プレーヤーとして、葛藤を繰り返しながら、チーム作りに向き合ってきた

そのような苦悩の中、北村はキャプテンとしての役割を果たそうとした。プレーで結果が出せない選手はものを言いづらくなりがちだが、「縦と横のつながりを円滑にする」という自身のテーマのもと、仲間たちに絶えず目を配り、声をかけた。

「後輩を含め、全員が自分の力を発揮できる環境を作るために、選手たちそれぞれのわだかまりを解くことは、自分が今年一番やったことだと思います。特に(渡部)琉はエースだし責任感が強いので、まわりに厳しく言うことが多かったんですけど、『琉がチームを思って言ってくれてるのはわかる。でも、下級生も色々感じることがあるだろうから、少しやり方を変えてみよう』って話をしたら、シーズンの最後のほうはチームとしてプレーしやすくなったし、琉自身も気持ちの整理ができていたと思います」

下級生のころは自らの得点にこだわる姿が目立った渡部は、エースなら誰もが持つエゴと葛藤しながらも「独りよがりのチームじゃ勝てない」と気持ちを切り替えた。「4年間で成長したのは、感情のコントロールとコミュニケーションのとり方です」(渡部)。熾烈なマークを受けた東海大戦でも、自らを囮にして味方の得点チャンスをいくつも生み出した。

試合時間残り6秒。この試合初めてコートに送り出された北村が、淡々とレイアップシュートを沈め、試合は終わった。相手と健闘をたたえ合ったあと、渡部は真っ先に北村を抱きしめた。

試合後、渡部は真っ先に北村を抱きしめた

後輩に引き継がれた「大人の組織作り」

「学生主体で日本一」という中央大の挑戦は、新チームへと受け継がれる。吉田は「『いい試合をしたね』では俺たちのチームはもう物足りない。来年はいい試合をして、勝ってほしい」と後輩たちにエールを送る。

渡部は観客席から応援してくれた仲間のもとへ歩み寄った

新チームで中心的立場を担う内尾と樋口は、試合終了後、清々しい表情で互いをねぎらう部員の輪の中で、むっつりと押し黙っていた。彼らが「いい試合をした」でまったく満足していないことが、その表情から如実に伝わってきた。

敗退を受けて北村(3番)に声をかけられたが、内尾は「自分が足を引っ張った」と顔を上げられなかった

「中大にはいい文化ができてきてると思うけれど、世間が見るのは結果。来年はもっと結果にこだわりたいです」。内尾はシビアに言った後に、続けた。

「バスケットボールのチームとしてはいいチームになってきたけど、組織としてとらえれば、大人とのコミュニケーションなどにまだ課題があると思います。だから、来年は『いいチーム』でなく『いい組織』になりたい。悔しい思いをした先輩たちが残してくれたものを受け継ぎながら、組織として成長して、その上で結果を出せるようにしたいです」

チームの目標を明確に打ち立て、実践し、行き詰まったら議論する。そして、見出した解決策をさらに実践し、次のフェーズへと進んでいく。中央大の挑戦は、社会人の組織づくりに通じるものが多い。

渡部は言った。「先輩たちが築き上げてくれたものを、自分たちが後輩にどれだけ引き継げたかは、来季になってみないとわからないです」。来年の12月、渡部は後輩たちの姿に、自分たちがつないだものの大きさを確かに実感することだろう。

渡部は涙を流しながらも、すがすがしい表情でコートを去った

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