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ドラマ「ノーサイド・ゲーム」特別対談 池井戸潤×大泉洋 納得するまで闘い続ける「覚悟」を 

ベストセラー作家・池井戸潤の新作が、この夏、早くもドラマ化されている。社内抗争に敗れ、郊外の工場へ配置転換された自動車メーカーのエリート社員が、自らの人生の再生を図る痛快逆転劇。初の日曜劇場で、池井戸作品主演に挑む俳優・大泉洋が、原作者に語った〝闘志〟とは?

期待と重圧。でも、絶対に逃げたくない

大泉 日曜劇場の池井戸作品というと、日本のドラマの中でトップクラスの人気作。その主演に指名されるというのは、俳優として非常に光栄なことです。私はどうも性格の本質が暗いのか、あまりに大きなお話をいただくと「マジか……」と一瞬ため息をついてしまうんですが、もちろん断るという選択肢はありませんでした。

池井戸 それはよかった。大泉さんが主役だと伺ったときは、まだ原作を執筆中でした。書き終わっていないうちから「全身全霊で役に取り組む」というコメントが出てきたので、僕も「ヤバいな……」と。

大泉 ハハハ! 私が主役ということで、いつもより筆の進みが遅かったということはなかったですか?

池井戸 それは大丈夫でした(笑)。ただ、物語の中に登場するスポーツの場面は、なるべく敷居を下げて、はじめての方でも読みやすくするよう工夫はしましたね。

生煮えのままでは出したくない。一作一作、本音で勝負しています

大泉 当初、運動経験がないのに実業団のGM(ジェネラルマネージャー)になる役だと聞いていたんですが、いざ撮影が始まってみると、何だかやたらと体を使っているんですよ。先日も朝から某所で運動部員と一緒にハードな練習をする場面を撮影し、午後は自分の子どもから体当たりされるシーンを撮り、夜は大雨の中で自分が体当たりする場面を撮影していました。ビジネスの世界で真剣勝負する池井戸作品のはずなのに、今回は笑えるシーンも多い。中には私が北海道で出演しているバラエティ番組に近いような場面もあったりして、「これ、本当に原作者に許可取ってるのかな?」と。

池井戸 ドラマオリジナルの部分でしょうが、僕としては実に楽しみですね。

大泉 これまでの日曜劇場に出演したTEAM NACSのメンバーたちから「大変だぞ」という話は聞かされてきたんですが、現時点ですでに若干予想を上回ってます(笑)。それでも「面白くなるなら。やろう!」と思ってしまうんです。結局、面白さには勝てないんです。

「やっぱり面白い」作品の底力を信じて 

大泉 私の演じる君嶋隼人は、基本的に「負けたくない男」なんだと思うんです。大学時代は地味でパッとしなかったけど、社会に出たら俺は負けないんだと一所懸命勉強をして、実際、結果を出している。

池井戸 非常に真面目で優秀なんですが、ちょっと偏屈で頑固なところがあって、そこが災いして左遷されるわけですよね。でも、根は平凡で素直だし、小説の読者やドラマを観る方は共感を覚えると思います。

大泉 ええ。小説を読んだ周囲の人たち周りからも「面白い!」という声が上がっています。池井戸作品ですから、会社という組織に立ち向かう男の物語という側面がありますよね。そこに対して「やっぱり面白い」「悔しいけど感動する」と。既定路線を取りながら、それでも面白いと言わせてしまう力ってすごいんだなと、つくづく感じましたね。

いくら大変でも、面白さには勝てない。そのためなら頑張ってしまうんです

池井戸 難しいんですよ。いつも通りに書くと「いつもと同じ」と言われ、違うことを書くと「期待していたものと違った」と言われる。バッドエンドにすると「小説の中でくらいスッキリさせてほしかった」と言われ、ハッピーエンドだと「現実はこんなに甘くない」と(笑)。

大泉 アッハハハハ!

池井戸 どっちにしろ何か言われるんだったら、本音で勝負するしかない。生煮えのものは出さないという覚悟で書いています。この作品も、400字詰め原稿用紙で600枚ほど書いたところで、1回全部ボツにしたんです。納得がいかなくて。

大泉 うわー、捨てるんならもらいたかった……(笑)。でも、納得しないままいくことは、やっぱり自分もしたくないと思っています。妥協せず、とことん話し合って納得した上で演じる。私は決して闘志を表に出さないタイプの人間なんですが、この作品に挑むにあたって、内なる闘志というか、並々ならぬものを感じています。大変なのはわかっている、でも絶対にやるんだと。そうでないと、ものすごい数の人の前で演説をぶちかますシーンなんか、逃げ出したくなっちゃいますから。

池井戸 素晴らしいですね。僕も小説を書くとき、ここで盛り上げてやろうというふうに予定調和的に闘志を込めることはありませんが、書いているそのときの気持ちの盛り上がりがうまく文章に乗り移るといいなと思っています。

大泉 対立する上司役の上川隆也さん、君嶋の妻を演じる松たか子さんをはじめ、共演者は素晴らしい方々で、運動部員を演じるメンバーは経験者を含むすごい顔ぶれです。もちろんプレッシャーは感じますが、そんな中で演技ができる、俳優としてこれ以上の幸せはないですね。最初はやられっぱなしの君嶋がどうやり返していくか、楽しみに観ていただきたいと思っています。

池井戸 皆さんの頑張りでいい化学変化が起こることを期待しています。

<プロフィール>

池井戸 潤(いけいど・じゅん)

1963年岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒。『果つる底なき』で江戸川乱歩賞、『下町ロケット』で直木賞を受賞。主な作品に「半沢直樹」シリーズ、『空飛ぶタイヤ』『鉄の骨』『ルーズヴェルト・ゲーム』『陸王』『民王』『七つの会議』がある。

大泉 洋(おおいずみ・よう)

'73・4・3北海道生まれ。牡羊座。B型。近年の主な出演作に、映画「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」('18年)、「そらのレストラン」('19年)など。'20年公開予定の映画「新解釈・三國志」で主演を務める。

日曜劇場「ノーサイド・ゲーム」

日曜劇場枠(毎週日曜 21時~21時54分)で放送中。

7月28日(日)21時から第3話を放送予定。 同日の14時からはこれまでのダイジェスト版の放送があります。

見逃した方もこの機会に是非ご覧ください。

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